ポルシェ911は長い歴史を持ちながら常に第一級のスポーツカーであり続けている世界でも稀な名車である。
リアに初期には空冷、近年では水冷の水平対向6気筒を搭載するコンパクトな2+2クーペで、この成り立ちはスーパースポーツでは稀なものであり、911の強い個性を表している。

多くの人がポルシェと聞いて想像するのはこの911であり、その偉大過ぎる知名度ゆえにポルシェは911の後継を作る事が出来ないでいる。
928、924、944は911の後継を狙った車種であったが、いずれも911の根強い人気により911より先に生産中止になっている。
そこでポルシェは基本デザインを変えることなく内外装の細部や内部のメカニズムだけをモデルチェンジして来た。
911は誰でも知ってる車ではあるが、歴史の長さと高い性能やそれに裏打ちされた輝かしい戦歴を持つことから非常に奥深い世界を持った車であり、マニア以外の一般的なユーザーからコアなエンスージアストまで広く興味を掻き立てるモデルである。そのため自動車雑誌業界では「ネタに困ったら911を特集しろ」と言われるほどである。

ポルシェブランド初の量産車である356の後継として、1963年にフランクフルトモーターショーでプロトタイプが公開され、1964年に後に長く続く911の初代モデルである901型がデビューした。 当初ポルシェはこれをそのまま車名とし「ポルシェ901」として売り出すはずであったが、真ん中に0を挟む三桁数字を商標登録していたプジョーとの兼ね合い上、「911」と改めた。
日本では1965年よりミツワ自動車によって導入された。

この初期の911を指して「ナロー」もしくは「ナローポルシェ」と呼ぶのがマニアの間では一般的であるが、この「ナロー」がどこまでの範囲を指すかは実は定義が一定ではない。
排ガス規制が適用されビッグバンパー（米国の法律に基づくいわゆる「5マイルバンパー」）を装着し外観が大きく変わったのが1974年からなので、それ以前の年式をナローと呼ぶのが現在では最も一般的である。
しかし911登場当初はポルシェ356に対して全長を長く、全幅を狭く取ったことから「ポルシェ911」＝「ナロー」という定義が元々であるという説がある。
コアなクラシック911マニアの間では901型のうち初期の、1967年までのOシリーズ（ゼロでなくオー）および1968年までのAシリーズのみを指して「ナロー」と呼ぶ向きもある。
これは1968年登場のBシリーズでは前後フェンダーが拡大されたことに由来する。このBシリーズからはホイールベースが60mm延長され2,271mmになったことも相まって操縦性が飛躍的に向上している。

クラシック911のマニアにとっての「極めつけ」モデルの一つとして、俗に「ナナサンカレラ」と呼ばれるものがある。
これは1973年に限定生産されたカレラRS2.7のことで、ビッグバンパー装着以前の最後の年式にして究極のモデルである。
エンジンはボア×ストローク90φ×70.4mmで2,687cc、圧縮比を8.5とし210ps/6,300rpmと26.0kgm/5,600rpmを発生した。
当初はグループ4のホモロゲーションモデルで500台のみ生産されるはずであったがすぐに売り切れたため追加され、最終的には1580台が生産された。そのためグループ3のホモロゲーションをも得ている。
ナナサンカレラには「スポーツ」「ツーリング」「レーシング」の3グレードが用意されたが、日本に導入されたのはスポーツのみで台数は僅か14台である。
このナナサンカレラは特に日本では漫画「サーキットの狼」の劇中車として一定以上の世代には尚更特別な印象がある。

このナナサンカレラ、カレラRS2.7を元にさらにチューンをしたRSRが1975年に発売されているがさらに特別なモデルとなっており、純粋なレーシングカーから（ブレーキ周りは917より、カムシャフトは906より）流用されたメカニズムを持つ。
エンジンも2,806ccから300ps/8,000rpmと30.0kgm/6,500rpmを発生、後に345psにまで向上している。

後にカレラとはノンターボのベーシック911にまで名付けられ定着することになるが、元々はレースを志向した特別なモデルに冠された名前である。
カレラという名の由来はメキシコの自動車レースであるカレラ・パナメリカーナ・メヒコ（Carrera Panamericana Mexico）で、これに出場するために作られたポルシェ550スパイダーの特別モデルに付けられたのが始まりだ。

1965年、兄弟車のポルシェ912が発売。これは従来356が担っていたエントリークラスの受け皿にするため、901型に356の4気筒エンジンを積み、内装等を簡略化したものである。
基本設計よりエントリークラスを狙った914が1969年にデビューするまでの僅かな期間販売された。米国市場に限っては914が生産中止後に後継の924が出るまでの間、1975年だけに930型をベースとした「912E」が販売された。

2代目の930型は1974年デビュー。以後15年に渡って生産された最もモデルライフの長い911である。
いわゆるビッグバンパーを装着したのが901型と比べた930型の識別点だという誤解が広まっているが、当初はビッグバンパーでもターボモデルのみが930型で、ノンターボは901型のままビッグバンパーを装着し1977年まで継続生産されていた。
1978年以降はノンターボも含め全ての911が930型となっている。

930型のターボモデルの出力・トルクは260ps/5,500rpm、35.0kgm/4,500rpmに達した。
前々年のフランクフルトモーターショーに出展された試作車の280psからは多少大人しいものになっていたが、MTが4速までであった理由がこの強大なパワーに耐えうる5速トランスミッションを作ることが出来なかったためだと言われている。
日本仕様では排ガス規制により245ps/5,500rpm、35.0kgm/4,000rpmとなっていた。

この930型のターボモデルのことを当時を知る人が語る時、その名称がブレることがある。
実はポルシェ自身もこのあたりは一定ではなく、1978年には単に「ポルシェターボ」、1979年には「ポルシェ930ターボ」、1980年には「ポルシェ911ターボ」としてカタログに掲載していた。
試作車の時代からしても、発売の前年にパリサロン出展時は「ポルシェ930ターボ」、その前年にフランクフルトショーでは「ポルシェ911ターボ」といった具合である。

1984年、911カレラ発売。ボア×ストロークφ95mm×74.4mm、圧縮比10.3、排気量3,164ccから225ps/5,900rpm、27.3kgm/4,800rpmを発生する。
ノンターボモデルの最高出力が「ナナサンカレラ」を超えるものだったことから「カレラ」の名が復活し、これ以降ノンターボモデル全般が「911カレラ」と呼ばれるようになる。
1989年、911ターボに待望の5速トランスミッションが与えられる。それまでポルシェシンクロ式4速だったのがゲトラグ製の5速に変更された。

3代目の964型は1989年デビュー。
930型と比べぱっと見はバンパーが変わったくらいにしか見えないが、先代からは外観とエンジンの基本を受け継いだのみである。
初のフルタイム4WDや「ティプトロニック」AT等のモダンなメカニズムの採用、全体で8割にも上る変更を受けている。

4代目の993型は1993年デビュー。キャビン部分を除き全体的に拡幅され、フロントやリアのデザインが大きく変更された。
見た目の印象が大きく変わったとはいえ、「最後の空冷モデル」として根強い人気がある。

911の歴史の中で最も大きなモデルチェンジは1998年に発売された5代目の996型である。
シャーシもエンジンも先代とは完全に別設計とされ、911のシンボルとも思われてきた空冷水平対向6気筒エンジンもついに水冷となった。
特にフロント部分でポルシェのエントリーモデルであるボクスターと共通部分が多く、ヘッドライトまで共用されていた。
またヘッドライトが「丸目」でなくなったことも違和感を生んでいた。
それを踏まえ、6代目の997型は再び丸いヘッドライトを与えられ2004年に発売された。

7代目の991型は2011年デビュー。エンジンは先代の改良、シャーシは再び新設計とされた。
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