『飛ぶように走る車』 アルピーヌ A110 2018年モデル ふらっと32さんのレビュー・評価

ベースグレードからGTに乗り換えたので再レビュー、と言ってもデザインとシート以外は正直ほとんど変わりません。トルク差が小さいからか体感的には据え置きで、上位モデルというよりは仕様違いという印象です。

とにかく軽い、ステアリングも軽い、サイズも小さめで動かしやすい。ということでちょい乗りでもバンバン使っています。気軽さと高性能という相反する要素を兼ね備えるのがこの車の最大の長所ですね。

走りも見た目もエンジンのポポポポという音も個性的で好き。最初は気になったターボのヒュイーンって音も最近は楽しくなってきました。回転半径5.8mはそのへんのSUVよりワイドでＵターンは大変ですが、その分ペダルのオフセット(内側寄り)はケイマンよりマシです。

最初から手を出すにはマイナーな車かもしれないけど、いろんな車を経験した後だとこの個性がユニークでとても面白く感じます。実際、ポルシェからA110に乗り換える人が結構いるそうで、私もその1人。

燃費がリッター10くらいとケイマンより若干悪くて満タンから400kmそこそこしか走れないのと、エンジン停止後に結構長い時間ファンが回り続けるのは多少気になります。冷却はあんまり余裕なさそうですが今のところトラブルはありません。

それと足の動きは及第点なんだけど段差の突き上げが気になる。というか軽い車にありがちな上下にも軽く動いてしまうのが、ステアリングの軽さもあって安っぽく感じます。内圧下げてもあまり変わらず。価格を考えてもここは可変サスが欲しかったな。

当初ダメだと思った下向き固定のエアコン送風口は、その前に二つ折りの鞄を置いてセルフ調整できました。でも今度はブレーキ鳴きがキツイという別の問題が発生。リアに熱が入って鳴き出すとずっと鳴きます。ちょい踏みが原因かもしれないけど過去に経験がないレベルでうるさい。

とはいえネガティブな点はそれくらいです。毎回グローブボックスまで手を伸ばしてカードキーを差して始動するのにも慣れたし、半値以下のルノー車とモニターやエアコンが一緒なのも慣れたら気になりません。

横滑り防止機能の切り替えスイッチがあるのに使えなくなっていたり、ローンチがMT発進だけなのはなんで？と思うけど別に支障はないです。ワイヤレス(Wi-Fi)でCarPlay使えるようになったのは私的には便利で助かってます。

それと車自体の問題ではありませんが、販売網の未熟さは隠れたリスクかもしれません。ディーラーに配車する前のチェックが一部甘かったり、内圧を使い分けたことがない、ボディパネルのチリ合わせができない、相場がわからずリセールが不安定、といったものは実際にありました。

この辺は長い実績があり体制も整っているメーカー系の方が上。ポルシェディーラーは買うのも直すのも高いけど中身が伴っていて車の扱いも丁寧です。大衆車を売ってきたお店と、高性能なスポーツカーを専売してきたお店では対応に差があって当然でしょう。

ただ、このA110はケイマンと比較検討されるスペックの車ですから、ディーラーやそれをサポートするメーカーにも相応の意識が必要になる。正直まだ発展途上です。そういう意味でもいろんな車、いろんなディーラーを経験した人向けの車かもしれません。

そんな経験をしつつも担当者がとても誠実な方なので私は全く不満ありません。むしろテストドライブ的に不具合や細かい使用感などを共有したりしてお互い楽しんでいます。自分が望んだ普段乗りとスポーツ走行の一台二役が実現して大満足です。

小さくて軽くてオシャレなスポーツカー。ボクスターから乗り換えたので余計にそう感じます。重厚なポルシェとは真逆のキャラで、スポーツカーなのに気軽にチョイ乗りできるのがいいですね。

DCTが他のルノー車より緻密に制御されていて、小道の細かい加減速でも全然ギクシャクしません。フツーに日常の足として使えるし、スポーツ走行は高性能で切れ味鋭くめっちゃ楽しい。うまく両立している名車です。

最高速で勝負、ではなくそこまでの加速感を楽しむ車です。なので公道の速度域でも十分満足できます。エンジンやエギゾーストの音が個性的で小気味よく、欧州の特別な車に乗ってるな感があります。

あと純正タイヤがミシュランPS4っていうのは何気にいい。4Sだと倍くらいしますから。配管に穴が開いて修理に40万円超かかる事案があったそうなので、継続保証はなるべく入ったほうがいいと思いますが、ボクスターやケイマンよりは維持費も安いと思います。

修理費が高いのは部品ではなくユニットごと交換するからなんですが、この車のために初めて取引するサプライヤーだったり、少量生産の車だからというのが関係してるのかもしれません。まあそういうパーツが壊れた時の話です。

で、ここからマイナスポイント。まず荷室が明らかに小さすぎます。リア側はエンジンの熱で温まるのでそもそも用途が限られますが、肝心なフロントの荷室が浅すぎて正直使い道がないです。

これがケイマンくらいの容量(深さ)があれば荷物を積んで旅行に行けるんですけどね。ラゲッジの小ささで車の用途が限られてしまうのが結構痛いところです。まあ１人旅で助手席をラゲッジにするしかないかな。

バケットシートは座面がスエードにレザーの組み合わせで結構上質。形状も私には合っていてギックリの時に乗っても全く問題ありませんでした。でも選べるならリクライニングシートのほうがやっぱりいい。シートヒーターあるし自分で高さ調整できますから。

このバケットシートは高さを固定する金具が使い捨てで、変える度に３万円弱かかります。スポーツカーに慣れてない、あるいは自分のドラポジがはっきりしていないという方は余計な出費になり得ます。納車前にドラポジを決め打ちできる方に向いてますね。

センターディスプレイ下のエアコン吹き出し口はなぜか下向き固定。冷房時はお腹や膝に冷風が直撃します。実際乗っててお腹を下すことがありました。自分で吹き出し口の前に衝立を立ててる方もいるそうですが、1,000万円の車でやることなんだろうか。。

ミドシップなのでエンジンの吸気口は後方、左右の窓の後ろにあります。ただそれがちょうどドライバーの耳の高さになるので、走行中は高周波の風の音がします。電子音ではないのでまだマシですが、標準オーディオは簡素なものなので相殺はできません。(たぶん)

吸気は実際右側だけしかエンジンに吸入されていないので、左ハンドル車でドライバーの逆側なら聞こえにくいと判断したのかな。でも右ハンドルだとモロに聞こえるわけでして。。

ちなみに左側の吸気はそのままボディの下に出しているそうです。後方のディフューザーに流すためかな。ボディの下側の気流速度を上げることでダウンフォースを生み出すっていうのは今のF1と同じですね。あくまで私の想像ですが。

あと価格。昨年から今年にかけて３度も値上げされていて、さすがに高すぎると思います。当初の800万円そこそこならまだしも、1,000万円オーバーはさすがにない。センターディスプレイやエアコンユニットは他のルノー車と同じですから。

ただでさえ日本仕様は本国よりチープなディスプレイなのに、何倍もする車がそれと同じっていうのはさすがにね。。ベースグレードで700万円台、GTやSで800万円台くらいが妥当なところじゃないでしょうか。

ということで現状は課題も多い車ですが、コンセプトや設計思想は唯一無二で、まさに風の時代を象徴するような存在です。ぜひ一度体験してみてください。

既に13万キロ乗ってる方もいらっしゃるそうで、私もラゲッジやエアコンの問題がなければもっと長く付き合ったと思います。それくらい乗り味もセンスも良い。ブルーアルピーヌ(カラー)の個体はよく注目されました。

なのでこの初代だけで終わらず、継続的に改良していってほしい。個人的にはアウトバーン前提で過剰にいろいろ盛り込んでいるドイツ車より、こういう車のほうが将来おもしろい存在になると思います。

現在、ルノー車全般で発生している時計ズレ(GPSの不具合で時計が世界標準時になってしまう現象)はこの車でも起こりました。メーカーもまだ直せない状況が続いているのでご注意ください。CarPlayは問題なく表示されるので特段支障はありません。