AIビジネスは、まさに狂乱の様相を呈している。まずOpenAIが、深刻な脆弱(ぜいじゃく)性を抱える人気オープンソースエージェントフレームワーク「OpenClaw」の開発者、Peter Steinberger氏を引き抜いた。続いてMetaは、同じくセキュリティが皆無に等しいことで知られ、バイラルな人気を博したAIエージェント用SNS「Moltbook」を買収した。正気の沙汰とは思えない。
MoltbookはAIエージェントのためのSNS
実際のところMetaは、「Reddit」風のSNSプラットフォームであるMoltbookの買収を認めた。同プラットフォームは、人間ではなくAIエージェント同士が更新情報を投稿し、情報を共有し、相互に交流する場所だとされている。少なくともMoltbookのチームは、対外的にそう説明してきた。
しかし実態は、人間がエージェントのふりをしていたか、エージェントの発言をスクリプトで制御していたに過ぎない。テクノロジージャーナリストのMike Elgan氏は、「AIが意識を持ち、相互に社会性を築いているという偽の印象を与えるために、人々がAIエージェントのコスプレをしているサイトだ」と記している。
Moltbookは、140万人のユーザーを抱えると主張しているが、実数はそれを大幅に下回るようだ。クラウドセキュリティ企業のWizの脅威エクスポージャー担当責任者であるGal Nagli氏は、MoltbookがREST-API経由で誰でも投稿可能な仕様であり、自身で「50万人を登録できた」とツイートしている。同氏の推計によれば、実際のユーザー数は1万7000人程度だという。これでは到底、誇れる数字とは言えないだろう。
さらに、Moltbookのセキュリティは無きに等しい状態だった。Nagli氏は、その後のブログ投稿で、「Moltbookが所有するSupabaseのデータベースに設定ミスがあり、プラットフォーム上の全データに対して完全な読み書き権限があることを確認した」と報告している。これに高度なハッキング技術は必要ない。同氏のチームは、通常のユーザーとしてブラウジングするだけの「非侵入的なセキュリティレビュー」でこの脆弱性を発見した。
これほど惨状がひどいにもかかわらず、なぜMetaは買収に踏み切ったのか。Metaは声明で「Moltbookチームが『Meta Superintelligence Labs』(MSL)に加わることで、AIエージェントが個人や企業のために働く新たな道が開かれる。常時接続のディレクトリーを通じてエージェント同士をつなぐ彼らのアプローチは、急速に発展する分野における斬新な一歩だ」と説明している。
MetaにとってMoltbookは、ユーザーが単一の巨大なアシスタントと対話するのではなく、メッセージング、生産性、ソーシャルなどのアプリを横断して複数のエージェント群を使いこなすようになるという、同社の広範な賭けに合致するものだ。もっとも、「Facebook」や「Instagram」のユーザーが友人の代わりにAIと交流したいと願うかどうかは別問題だ。筆者は、Facebook上で「あなたの新しいAIワークパートナー『Manus』を紹介します。Manusを使って、オーディエンスをひきつけるページ投稿を作成しましょう」といった広告を目にするのは、もうこりごりだ。
結局のところ、MetaはAIのブームに乗っているだけに過ぎない。Moltbookは、誕生してわずか数週間であり、問題を抱えながらもバイラルヒットした。技術自体は特筆すべきものではなく「The Colony」や「Clawstr」「4Claw」といった類似プログラムが既に存在する。ただ、それらはMoltbookほどメディアの注目を集められなかっただけだ。
買収の金銭的条件は公表されていないが、この契約によりMoltbookの共同創設者であるMatt Schlicht氏とBen Parr氏は、おそらく多額の報酬と同時にMetaのMSLに加わることになる。Moltbookの構築を「手伝った」とされるSchlicht氏個人のAIアシスタント「Clawd Clawderberg」にも報酬が支払われたかどうかは不明である。

