ガートナーは2月5日、2026年に注目すべきサイバーセキュリティのトップトレンドを6つ発表した。AIの混乱を伴う急拡大、地政学的な緊張、不安定な規制環境、加速する脅威の拡大がトレンドをけん引しているという。
ディレクター アナリストのAlex Michaels(アレックス・マイケルズ)氏は、「2026年、サイバーセキュリティリーダーはこれらの要因が重なり合う中で、未知の領域に直面しており、絶え間ない変化が続く環境下で、チームの限界が試されている。これには、サイバーリスク管理、レジリエンス、リソース配分に対する新たなアプローチが求められる」と述べている。
トレンド1:エージェント型AIにはより厳格なサイバーセキュリティ強化が必要
従業員や開発者によって急速に利用されているエージェント型AIは、新たな攻撃対象領域(アタックサーフェス)を生み出している。ノーコード/ローコードプラットフォームや、自然言語で指示することでAIが自動でシステムを構築するバイブコーディングの普及もこれを加速させており、管理されていないAIエージェントの増加やセキュリティが確保されていないコード、規制順守違反の可能性をもたらしている。
Michaels氏は、「AIエージェントや自動化ツールは組織においてますます利用しやすく実用的になっているが、強固なガバナンスは依然として不可欠。サイバーセキュリティリーダーは、承認済み/未承認のAIエージェントを特定し、それぞれに対して堅牢(けんろう)なコントロールを施し、潜在的なリスクに対応するインシデントレスポンスのプレイブックを策定する必要がある」と述べている。
トレンド2:世界的な規制環境の不安定化がサイバーレジリエンス強化を促進
地政学的状況の変化や世界的な規制要件の進化により、サイバーセキュリティは組織のレジリエンスにも直結する重要なビジネス課題になっている。規制当局が、取締役会や経営幹部に対してコンプライアンス違反の責任を追及するケースが増加しており、対応を怠ると多額の罰金や事業損失、信用失墜という結果につながる恐れがある。
同社は、サイバーセキュリティリーダーに対して、法務部門、事業部門、調達部門との連携体制を構築し、サイバーリスクに対する明確な責任体制を確立することを推奨している。コントロールフレームワークを業界標準と整合させることやデータ主権への対応が、コンプライアンス上のギャップの縮小に寄与するとしている。
トレンド3:ポスト量子コンピューティングが実行計画に組み込まれる
同社は量子コンピューティングの進展により、組織がデータやシステムの保護に依存している非対称暗号が2030年までに安全でなくなると予測する。長期的な機密データを狙った「今収集して後で解読(Harvest Now, Decrypt Later)」攻撃によるデータ漏えいや法的責任、財務損失を避けるため、ポスト量子暗号への移行も含めた備えが必要になる。
Michaels氏は「ポスト量子暗号は、組織が従来の暗号方式の特定・管理・置換を促し、暗号の柔軟性を優先することでサイバーセキュリティ戦略を再構築している。これらの能力への投資と早期の移行を優先することで、量子脅威が現実化した際にも資産を保護できる」と説明する。
トレンド4:アイデンティティー/アクセス管理がAIエージェントに適応
AIエージェントの台頭により、従来のアイデンティティー/アクセス管理(IAM)戦略においてマシンのID登録とガバナンス、認証情報の自動化、ポリシーベースの権限付与などの課題が生じている。これらの課題に対応しない場合、自律型エージェントの普及に伴い、アクセス関連のサイバーセキュリティインシデントのリスクが高まるという。
同社は、ギャップやリスクが大きい領域に優先投資し、可能な限り自動化を活用するリスクベースのアプローチを推奨している。これは、AI中心の環境でイノベーションを促進し、コンプライアンスを確保し、重要資産を保護するために不可欠だという。
トレンド5:AI駆動型SOCソリューションが運用の常識を揺るがす
コスト最適化とAIの普及によって、AI対応のセキュリティオペレーションセンター(SOC)が新たな複雑性をもたらしている。スタッフの負担増やスキルアップの必要性、AIツールのコスト構造の変化が生じている一方で、アラートのトリアージや分析ワークフローの効率化も進んでいる。
セキュリティオペレーションでAIの可能性を最大限に引き出すには、サイバーセキュリティリーダーがテクノロジーと同じくらい人材にも重点を置く必要があるという。Michaels氏は「人材の能力強化、AIを活用したプロセスへのヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が関与する)フレームワークの導入、明確な戦略目標に沿ったAI導入の推進が、SOCの進化に伴うレジリエンス維持の鍵となる」と説明している。
トレンド6:生成AIが従来のサイバーセキュリティ意識向上策を打破
Gartnerが2025年5~11月に、175人の従業員を対象に実施した調査では、57%以上が業務に個人の生成AIアカウントを利用し、33%が未承認ツールに機密情報を入力したことを認めている。同社は、一般的な意識向上トレーニングからAI特有の課題を含む適応型行動/トレーニングプログラムへの転換を推奨している。ガバナンスの強化や安全な実践方法の定着、承認された利用に関するポリシー策定により、プライバシー侵害や知的財産の損失リスクを低減できるとしている。
これらの6つのトレンドは、ガバナンスの変革、新たな領域への対応、AI導入の標準化など広範囲に影響をもたらすという。日本でセキュリティ領域を担当しているバイス プレジデント チームマネージャーの礒田優一氏は以下のようにコメントした。
「これら6つのトレンドは日本においても共通するが、それらが及ぼす影響とその進行速度は、企業ビジネスのデジタル化の深度や成熟度を踏まえて見積もる必要がある。今後、サイバーセキュリティリーダーの役割は、より広範かつ重要となり、日本においても劇的な変革を遂げる可能性がある。そのためには、サイバーセキュリティリーダーは、リーダーシップスタイルを進化させ、サイバーセキュリティの中核的使命の進化を主導する力を持つ必要がある」

