富士通と山口大学は、マイクロ波を地表に照射して反射波を受信して2次元画像化する「合成開口レーダー(SAR)」衛星で冗長構成のGPUで10分以内に画像データを処理する低電力エッジコンピューティング技術を開発した。11月27日に発表した。
人工衛星は、高度2000km以下の地球低軌道(LEO)、高度2000~3万6000kmの地球中軌道(MEO)、高度3万6000kmの静止軌道(GEO)を周回し、地上の広い範囲を一度に観測できる。紫外線や赤外線、レーダーなどで広範囲の陸上、洋上の物体検知、雲の構造、森林火災、森林伐採、農作物の健康状態、鉱物資源の分布なども調査できる。
これまで衛星で取得したデータは地上に転送、処理してから利用するために、データの取得から活用までに数時間かかることが通例となっている。
衛星は通常、太陽電池と蓄電池で電力を賄っている。小型衛星では、アプリケーション用途で使用するコンピューターに供給できる電力は通常20W程度以下とされ、この電力制限に収まるシステムにする必要がある。
電子や陽子といった宇宙放射線でコンピューターが誤作動を起こすため、多重化などによる誤作動を検出する必要もある。通常のプログラムはこうした誤作動への対応が考えられておらず、プログラミングが難しいという課題も抱えている。
富士通と山口大学は、これらの問題に対して、AI(人工知能)やスーパーコンピューター(スパコン)で培ってきた富士通の技術と山口大学の衛星データ(リモートセンシングデータ)解析技術を応用。(1)「衛星の電力制限内で動作する、エラー耐性の高い冗長構成をもつコンピューター」(2)「宇宙放射線によるエラーに対応できるコンピューター向けのプログラミング環境」――という2つを開発した。
(1)の背景として、コンピューター内で1つのプロセッサだけで処理した場合、宇宙放射線などによる誤作動(エラー)が起こったかどうかは分からず、2つのプロセッサで同じ処理を実行し、結果を比較することでエラーを検出することがある。
この場合、2つのプロセッサに同じ処理を実行させると、当然消費電力も2倍になるため、衛星の電力制限内に収めなければならない。今回開発した技術では、消費電力と処理時間の関係が処理内容によって大きく異なることを利用して、処理ごとにコンピューターとプログラムの動作を制御することで性能と電力制限の両方を満たす環境を実現している。
(2)では、宇宙放射線によるエラーへの耐性が高い、冗長構成のコンピューターに対応するため、LinuxやPythonとよく利用されるオープンソースソフトウェア(OSS)などを使って、宇宙放射線に対して堅牢なプログラムを簡単に作れるライブラリー「Fujitsu Research SOft error Radiation Armor」(FRSORA、2026年2月公開予定)を開発した。
FRSORAでは、追加機能をフレームワーク的に提供しており、1台のコンピューターでデータ処理するプログラムから2台のコンピューターで誤作動検出とコンピューターの再起動、再計算機能までを簡単に実装できるようにしている。エラー時の再計算時間を減らすために、計算のジョブを分割して処理するエラー処理効率化技術も開発して、FRSORAで実装できるようにしている。

エラー処理効率化による2回エラー発生時の処理時間の差。処理の制限時間は10分としている。簡単のため、再起動時間は含まない(出典:富士通)
開発した技術を活用して、衛星を模した20W以下の消費電力のシステムでSAR衛星で所得された生データから、演算量の多い「L1」処理と「L2」処理を準リアルタイムである10分以内に完了させることに成功している。
地上からのレーダー反射波の強度の時間分布から圧縮処理、補正処理、風速を推定するモデルを適用することで数百メートルの単位で海上の風速を算出できるようになっている。衛星による洋上風速の即時把握と通知は、船舶が突発的な高風速域を避けるための意思決定を支援し、船舶事故のリスク低減に直結することが見込まれる。
L1処理は、レーダー反射波のさまざまな情報から地表の様子を計算する処理(「圧縮処理」とも言われる)。ピントがあっていない画像からピントを合わせた画像に変換する処理であり、計算量が多いという。L2処理は、L1処理後のデータに対して、地表や大気に関する情報から補正した後で、反射波の状態などから海上の風速や波の高さなどの物理量を求める処理。L2処理は求める量によってさまざまなものがあるという。
L2処理などの高精度化には、地上で取得した大気データなどを必要とするものもあり、富士通と山口大学は、このような補正を衛星上で進めるための研究も進めていく。富士通は、衛星上で準リアルタイムにAI処理まで実施、高度な判断処理を伴う、即時性の高いさまざまなサービスや運用の高度化を目指すと説明。実際に軌道を周回する衛星に今回の技術を搭載して宇宙空間で実証し、プログラミングが容易で堅牢な衛星データ処理システムが普及するように取り組んでいくとしている。

生データ(左)とL1処理後のデータ(中央)、海上の風速のL2処理データ(右)。L2処理後のデータについては、海の部分のみを表示しており、風速を色で表している。船や橋も風のある領域として変換されており、実用上はノイズとして取り除かれる(出典:富士通)
現在運用されている国際宇宙ステーション(ISS)は高度約400kmを周回しており、地球を一回りする時間は約93分。地球を観測する衛星、地球観測衛星の多くは高度700km前後を周回、地球を一回りする時間は約99分。つまり、同じ地点を観測するには100分かかることになる。
このことを考えると、今回開発した技術を活用して、地球上のある地点の変化を10分以内で算出できるという可能性は、衛星データのリアルタイム活用が進むことが期待できる。
今回開発された技術はSARで実証している。SARでは、1秒間に約10GBものデータを生成するとされている。地球観測衛星としては、SARの他に、人間の目と同じように見える可視光で地表を捉える光学衛星も活用されているが、光学衛星に搭載されるカメラは高精細化が進んでおり、一度に取得できるデータ量も大容量化している。
これまでは、SARや光学を含めた地球観測衛星が撮影した衛星データを地上局に送信して処理することが一般的。だが、カメラやセンサーの高精細化が進むことでデータ量が増加しており、そのすべてを地上にダウンロードしてから処理するのは課題視されるようになっている。
こうした事態から(衛星データから何を分析しようとしているのか衛星の目的によって異なるが)、衛星の中で(つまり軌道上で)データを処理して最適な画像だけを地上局に送信するという軌道上エッジコンピューティングの技術は注目され、開発が進んでいる。
富士通と山口大学が開発した今回の技術は、SAR衛星も含め光学衛星やマルチ・ハイパースペクトル衛星などにも応用できるとしている。

