結局のところ、AIを使うのは人間。
AIによる質の悪いコンテンツは、ネット上にとどまらず、職場にまで浸透しつつあるみたいです。
AI投資の裏にある「ワークスロップ」の現実
ビジネス誌Harvard Business Review(HBR: ハーバード・ビジネス・レビュー)は、「AIが作成した質の悪いコンテンツ」を「ワークスロップ(Workslop)」と名付けました。
同誌は、手抜きの文書やリポートが積み上げられていく現状こそが、AIへの投資に見合う結果を企業が得られない一因だと指摘しています。
国連は、世界のAI市場が2023年の1,890億ドル(28.3兆)から、2033年までに4.8兆ドル(718兆)へと急拡大すると予測しています。
また、Gallup(ギャラップ)の世論調査によると、アメリカでは、少なくとも年に数回はAIを利用すると回答した従業員の割合が21%から40%へとほぼ倍増。
さらに、Accenture(アクセンチュア)は、AI主導の業務システムを導入している企業の数もこの1年でほぼ倍増したと報告しています。
しかし、世界中のオフィスが時代に取り残されまいとAIを業務に取り入れようと躍起になる一方で、その努力が報われている企業はごく少数にとどまっているようです。
投資と成果のギャップを生むワークスロップ
MIT Media Lab(マサチューセッツ工科大学メディアラボ)の研究チームによると、AIの予備プロジェクトで収益増につながったのは1割未満しかなく、95%はAIへの投資から利益を得ていないといいます。
経営幹部150人へのインタビューと従業員350人への調査、AI導入事例300件の分析に基づくこの報告書は、AI関連株の下落を招きました。
そうしたなか、HBR傘下のBetterUp Labs(ベターアップ・ラボ)とStanford Social Media Lab(スタンフォード・ソーシャルメディア・ラボ)の研究者たちは、期待外れの結果の背景に「ワークスロップ」があるのではないかと指摘しています。
報告書の著者は、ワークスロップについてこう説明します。
ワークスロップの厄介な点は、作業の負担をあとの人たちに押し付け、受け手に内容の解釈、修正、やり直しを強いることです。
つまり、労力が作り手から受け手に転嫁されてしまうのです。
ワークスロップとは?
では、ワークスロップとは何なのでしょうか。
HBRは、ワークスロップを「まともな成果物に見せかけながら、与えられたタスクをこなしただけの中身のないAI生成コンテンツ」と定義しています。
そういったコンテンツは、映えるプレゼンや、上手にまとめられた報告書の要約、見たところ問題なく動きそうなコードのような形をしていますが、よくチェックすると肝心な文脈や洞察が抜け落ちていて、結局は役に立たないのです。
進行中の調査では、この問題は広範囲に及んでいるようです。幅広い業界に勤務するアメリカのフルタイム従業員1,150人を対象とした調査によると、回答者の40%が過去1カ月の間にワークスロップを受け取ったことがあるそうです。
時間も信頼も奪うワークスロップ
ワークスロップがはびこると、企業に時間と金銭的な損失をもたらし、従業員間の信頼関係まで損ねる可能性があります。
調査対象の従業員は、ワークスロップをつくるために、1件あたり平均して1時間56分を費やしているといいます。
回答者の給与水準を元に試算したところ、ワークスロップがもたらす目に見えないコストは、1人あたり月平均で約186ドル(約2万8000)に上るそうです。単純計算をすると、従業員を1000人抱える企業の場合、生産性の損失は年間で220万ドル(3億3000)に及びます。
ワークスロップは、職場における人間関係や感情面にも悪影響を与えるとのこと。調査対象者の53%がワークスロップを受け取った際にいら立ちを感じ、38%は困惑し、22%は不快に感じたと回答しています。
その半数は、ワークスロップを送ってきた同僚を「能力や信頼性に欠ける」と感じるようになったと報告しています。
ワークスロップ回避法
研究者は、ワークスロップを防ぐ方法として、管理者が明確なガイドラインを設定し、自らが慎重かつ目的を持ったAI活用の模範を示す必要があると提言しています。
単に「業務のすべてでAIを活用するように」と指示するだけでは、従業員が何も考えずにAIの回答をコピペするだけになってしまうと指摘します。
生成AIが本当の価値を生み出し、企業の目標を達成するためにどう活用するかについて、組織は最善の方法や推奨事項を策定すべきとのことです。
生成AIから質の高い回答を得るためのプロンプトを、試行錯誤しながら時間をかけて磨き上げていくように、企業も手間暇をかけて「AIを活用するためのプロンプト」をつくっていくしかなさそうですね。