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Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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2015年にスタートし、今年10周年を迎えたニットブランドの「タン(TAN)」。ブランド名がラテン語で"触れる"という意味と、無限の正負を示す"tangent"に由来する通り、デザイナーの村上亜樹はニットの技術で表現できる新たな可能性を追求してきた。
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実際にタンのニットウェアは「これがニットなの?」という驚きの声を集めてきた。デビューシーズンから続けている、デニムに見えるニットシリーズなどがその代表例だ。
TOKYO FASHION AWARDを受賞し、初のファッションショー形式で発表した2025年秋冬コレクションは、これまでの10年間磨き上げた技術を凝縮し、村上の個人的な体験をもとに編み出されたものだった。
愛犬との別れが創作の源泉に

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)
デザイナーの村上は今季の制作に着手した昨秋、15年もの歳月を共に過ごした愛犬のチワワ、グリコとの永別を経験した。「これからどうしようという状況でした。個人的な出来事ですが、愛犬のことをこのコレクションに反映させたいと思いました」と村上は静かに語る。

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その深い喪失感から生まれたのは、愛犬の柔らかな毛並みを彷彿とさせる生シルクのシャギー糸を使ったニットドレスや、そのシルエットを再現した編みぐるみ。愛おしい姿が永遠の形として蘇った。
インドへの一人旅の記憶

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)
また、デザイナー村上が約5年前に訪れたインドの情景も、コレクション全体に色濃く反映されている。サフランを思わせるオレンジ色、民族衣装を想起させるパープル、土の深い赤茶、壁の淡いブルーなど、エキゾチックなカラーパレットが独特な雰囲気を醸し出している。

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来場者にはスパイスを用いたクッキーがお土産として配られ、その香りもショーとともに楽しむことができるものだった。
輪廻転生─“次はどんな姿で出会えるかな”

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このコレクションには、アニマルモチーフが豊富に取り入れられている。魚やヘビなどを思わせるウロコのモチーフは、フェイクファーのプルオーバーに施した箔プリントやニットの編み地で表現され、オーストリッチやバンビのような柄も編みで精緻に描かれていた。

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これはインドの宗教思想の一つである輪廻転生(サンサーラ)の「生まれ変わり」の概念を思わせるもの。村上は宗教的な話は避けながらも、「愛犬が生まれ変わったら、どんな姿で出会えるかな」という期待を込めたと語っている。「蛇かもしれないし、魚かもしれないし、鳥かもしれない」と。

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会場は約35メートルのシアーカーテンで分断され、モデルがカーテン越しに透けて見えながら登場し、観客の元へ向かってくるという演出だった。これも、新たな命がヴェールを脱ぐように神秘的な印象を与えるものだった。
ニットブランドとしてのプライド

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ショーを開催するにあたり、コーディネートの幅を広げるため、ニット以外の布帛(織物の生地)アイテムを加えている。しかし、コットンのスカートの裾にはニットのフリンジをあしらったり、同様にパンツのウエスト部分にはリブバンドを施したり、フェイクファージャケットにはケーブル編み風の柄をエンボス加工で入れるなど、ニットブランドとしてのアイデンティティをしっかりと示している。「ここまでくると意地ですね(笑)」と、村上はニット専業で10年間続けてきたプライドを垣間見せた。
巧みな職人技とコラボブーツ

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ニットと真摯に向き合ってきたからこそ実現できる技術は、国内各地のニット工場や職人たちとの強い信頼関係を証明するものでもある。ファーストルックのダイナミックなフリンジが印象的な手編みのドレスは、長年の信頼を寄せる編み物教室の先生に託して制作された一品。また、6種類もの毛糸がすだれのように連なった繊細なジャケットとショートパンツは、工場との綿密な対話を重ね、高度な編み技法によって商品化された技巧の結晶だ。

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さらに、イタリアのシューズブランド「ペリーコ(PELLICO)」との初のコラボレーションがお目見え。日本で制作したニットのアッパーをイタリアで組み合わせたニットブーツは、足を螺旋状に包み込むようなリブ編みが、ブランドならではの洗練された遊び心を感じさせる。

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ニットの無限の可能性を追求し続けて

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10周年という節目に、初のファッションショーでデザイナー自身のパーソナルな感情と培ってきた技術を昇華させたタン。糸一本、ゲージ一つで表情を変えるニットの無限の可能性を見出し、これまで掲げてきた「糸から衣装へ」というコンセプトが見事に体現された、エモーショナルな瞬間だった。

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村上に今後もショーを行いたいかと尋ねると、「楽しかったですが、毎シーズンショーを行うのは現実的には厳しい。またいつかタイミングが来たら開きたいです」と穏やかに語り、その言葉の裏に次なる挑戦に向けた静かな情熱が感じられた。これからの10年で紡がれていく新たな物語に期待が高まる。
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