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ERR_MNG
レビュー
今月(10月1日~10月31日)
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シーモア島


投稿レビュー
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涙についての一考ネタバレ2021年11月15日このレビューはネタバレを含みます▼ 何かと言うとすぐ泣く大人を私は信じない。
涙こそが感受性の豊かさのバロメーターだと思うのは古くて安易な幻想だ。涙という分かりやすい記号にばかり気をとられていると、相手も自分も、却って心情を伝え損ね汲み取り損ねる気がしてならない。涙に肩代わりさせ言語化を放棄し続ければ、細やかな感情を表現できる語彙を早々に失うに違いない。
それなのに、いや、それだからこそ。
涙を見せない強ばった表情の裏から伝わる感情の繊細さ・激しさはどうだろう。
そうして我慢に我慢を重ねた人の感情が臨界点に達し、遂に涙に変わるさまを見ると胸がつぶれそうになるし、シャワーの下、与えられた言葉にこらえきれず流すシロの涙が強く胸を打つのだ。
どこかの屋上から雨に煙る町並みを眼下に見る、ずぶ濡れの後ろ姿。
死のうとしたのか…?でも今だって既に死んでいるみたいだ。だとしたら飛び降りることに何の意味があるだろう。泣いているのかと問われ、泣いていないと返す。その言葉に滲む彼の強がりがやりきれない。頬を濡らす雨が呼び水となりやっと流す涙が、だが少しも心を楽にしないほどの喪失。自己憐憫も自己陶酔も入る余地のない全き絶望。悲しみが深いほど、苦しみが強いほど、そう易々と心を安らかにする涙など零れはしないのだ。
閉ざした心の扉の内側で小さくうずくまり、何も見ず聞かず何も感じないモノになろうとしたシロに、目覚めよと戸を叩き、外から扉をこじ開けようと力を振り絞り自らも傷つきながら手を差しのべる信虎。2人の有りようにふと、ウテナとアンシーのあの名シーンがダブり胸が震えた。 -
2人が分かち合う “痛み” の名は2021年11月7日(69ページ 11/14までセール300→210pt)
人間が最初に獲得する感情は “快・不快” だという。生まれて間もない赤ん坊は、空腹や眠気、暑さや寒さ、痛みやかゆみ、湿ったおしめなどの“不快” を泣いて訴え、取り除いてもらって “快” を得る。
そうした快と不快の感情はいずれ “喜“・”楽” 、“怒“・ ”哀” へとそれぞれ分化していく。
もし、泣いても不快を排除してもらえないことが続けば「泣くことは無駄だ」と学び、不快の感情を他者に伝えようとすることや感じること自体を放棄し始めるそうだが、問題なのは不快の感覚を失えば対の感情である快感も得られなくなってしまうことだという。なるほど、「心地いい」と言えるためには前提として「心地悪い」ものの存在をも認識している、ということだ。不快を感じないなら、快感もない。
5才で別々に引き取られた双子の兄弟・基親(もとちか) と宇隆(うりゅう)は間もなく、互いが傍にいない時には「痛み」を「痛み」として認識できなくなる。本来は気を失うほどの激痛を伴う怪我ですら、痛いと感じない。“不快” 感に直結する痛覚を失うということは怒りや哀しいという感情を失うということであり、その結果 “快”感が導く喜びや楽しいという感情も同時に人生から消失することを意味する。それは絶望的なまでに無感動で虚ろな時間を生きることにならないだろうか。
それ故、逆説めくが、まるで「殺し合い」だと周囲が懸念する成長した2人の流血バトルは、実際は「生かし合い」に他ならない。
2人が揃うことでまざまざと甦り襲いかかる激痛。それは空漠とした時間の流れに不意に落とされる爆弾。リアルな手触りを伴う感情の劇的な覚醒。「生きている」という痛いほど強烈な実感を互いに与え合う行為。
そういう行為を私たちは普通、愛と呼ぶのだ。もっとみる▼ -
知って欲しい辞書のお話2021年11月7日(156ページ/500pt)
少し前のレビューに、英語⇔日本語の通訳・翻訳が仕事の一つと書いたら、私がふだん使う辞書に興味があると仰ってくださる方が…!そこで、本書の著者が三代にわたり作り上げた国語辞書をご紹介します。
日本語でものを書く仕事をされていたり、外国語⇔日本語の訳出に携わる人であれば「知らない」人はいないと思われる『日本国語大辞典』。映画化もされた三浦しをん著『舟を編む』の冒頭にも登場しています。
国語辞書の代名詞的存在の『広辞苑』は実は “中型辞典” (収録25万語)。対して『日本国語大辞典』は日本唯一の“大型辞典” (全14巻/50万項目/100万用例)。が、お値段もン十万、おいそれと手が出せません。
そこで、ふだんは電子辞書内蔵の『精選版 日本国語大辞典』(精選日国) を使っています。30万項目/30万用例とスケールダウンするものの、本書を読めばわかる通り、編纂の経緯からも定義と用例の正確さは他を圧倒し、訳出者にとっての「お守り」「拠り所」です。
通訳の先輩方はネット辞書の類いは殆ど使いません。その理由は主に2つ。1つは、通訳者が現場でスマホを操作することを機密保持の点からも嫌がるクライアントが多いため。2つめは、ネット上の情報には無責任で誤ったものが本当に多いため。やむを得ずネットで引くという場合は、『デジタル大辞泉』や『大辞林』に加え先の『精選日国』まで無料で使えるコト×ンク一択という人が多いです(直接ブラウザで引かずアプリからオンラインで)。何か言葉を入力すれば複数辞書を横断して一括表示してくれます。
ためしに「まとを」と入れて検索をクリックすれば、リストトップに「的を射る」と表示され、読めば「的を得る」だと誤用している人が多いと分かります。「むねのつかえ」と入れれば「胸の痞えが下りる」。「みっか」と入力し結果リストを全表示させると「三日に上げず」の表記が。よく「三日とあけず通いつめる」等と誤用されているのを(BLノベルでも) 見かける言葉ですよね。「プチフール」や「バウムクーヘン」というお菓子の語源も確認できます。
もともと辞書を読むことが好きでしたし、今は仕事柄、辞書を引かない日はありません。ですが、本書で著者が書いているように、自分では分かっていると「思っている」ふだん使いの言葉こそ辞書を引く必要があるなぁ、とつくづく思い知る毎日です。もっとみる▼ -
原点回帰--男でもあり女でもあること2021年10月31日(全15巻/各巻150pt/1-5巻は読み放題あり)
幼稚園に通い始めてすぐ、私は同い年の女の子達と「なにか違う」と互いに感じあっていることに気づいた。ままごとや人形遊び、男の子の噂話に全く乗ってこない私は彼女達にとって変人でしかないようで、たちまち女の子の遊びの輪に誘われなくなったが私は私でホッとしていた。ただ、感じた “違い” は一体何だろうと思っていた。
その正体の片鱗に触れたのは小学校に上がったとき。NHKの連続人形劇「新八犬伝」が始まり、2年間、毎日夢中で物語を追い、自分の中で反芻し再現した。
こうも惹かれた理由に、辻村ジュサブロー氏の作る人形たちの表現力の豊かさ、曲亭馬琴による原作や人形劇自体の面白さがあるのは言うまでもない。だが最大の理由は2人の登場人物--犬塚信乃と犬坂毛野--への限りない愛着、自分の中の “違和感”の根源に響く何かを彼らの存在に感じ取り共鳴していた故だと思う。
いまその “何か” を端的に表現するなら、2つの性/生を同時に生きる者の存在とその悲しみ、と言うだろう。
原作『南総里見八犬伝』で信乃と毛野は生き延びるためにそれぞれ女児として育てられる。
男でもあり女でもある2人。その“両義的” 存在は私の中にもある矛盾や違和感、“どちらか一方だけでは引き裂かれる自我” を慰めてくれる気がした。こうした感覚は多くの人が大なり小なり持っているものだと今なら知っているし、適切な表現を以前は誰も持っていなかっただけとも思う。それでも、 “違い”が生む “疎外” は自分自身や他者との折り合いを難しくし続けた。
本作品における信乃は原作とは逆に“男として育てられた女性” として描かれ、生きるため男と交わり精気を取り込まねばならない呪いと葛藤に苦悶する。一方の毛野も身内に棲む魔と戦い、男でありながらその美貌と体で男達を陥落し本懐を遂げようとする。
この2人の両義性が孕む悲劇性が、かつて人形劇に私が感じたままの美しさと哀しさをもって表現されていることに感動する。
何を読んでもどこかで “これじゃない…これが読みたかったわけじゃない”と長らく感じていた。本当に読みたい本に出会うため原点に還ろうと思い立ち、さて私の原点はと考えた時に人形劇を思い出し、ひと月前にこの作品を見つけて読んだ。あぁこれだ、ずっとこの物語に帰ってきたかった…!もっとみる▼ -
大丈夫、この巻だけでも楽しめますよ!2021年10月26日時系列的には『竜は将軍に愛でられる』→『番外篇 王国のある一日』→『王子は黒竜に愛を捧げる』に次ぐシリーズ4作品目。
でもファンの先輩方のレビューにたじろぎ、「1作目から読まなきゃか…」と身構えたり怖じ気づくことはないですよ。読者を置き去りにしない丁寧で優しい描写が定評の名倉先生。あとがきで太鼓判を捺していらっしゃる通り、興味を引かれたどの巻から読んでもすぐに世界に溶け込めます。どのみち、1冊を読み終える頃には(先輩方の願いand狙い通り) 猛然と全冊読破したくなっている筈です…。
さて本作は、竜人族の騎士シリル(22)と美しい歌声を持つレヴィ(17) の出逢いと奇跡の恋のゆくえを描いた物語です。序盤で明かされるレヴィの壮絶すぎる生い立ちと、その限界を超えた我慢や頑張りに涙せずにいられる人がいるでしょうか。
一方のシリルも、国の宝としての振舞いを幼い時から求められ、他者の手で人生の先の先まで敷かれたレールの上を諾々と歩くだけの日々に倦んでいました。
貧富の差こそあれ、思うに任せない人生に多くを望めなくなった心のありようと、気高く孤独な魂という2つの共通点を持つ2人が、それと知らぬ間に惹かれあい恋に落ちていく。若い彼らにしか持ち得ない真摯さと純真さと一途さで互いを求めあう姿に、きっと胸打たれ心揺さぶられるはず。
ファンタジーだからといって全方位ハッピーで終わらせないベテラン名倉先生が描く、人の生の現実と重さ。その幸と不幸の絶妙な調味加減が、あともう1口、と次の作品を読者に渇望させます。
シリーズ初の冒頭の人物紹介図をはじめ、黒田屑先生の美麗なカラー扉絵や挿画、ランディ愛が爆発した(笑)あとがきイラストは必見です。もっとみる▼ -
また、きっと会えるね…2021年10月25日(63頁/200pt)
カブトムシは夏の終わりに卵で産み落とされ、2回脱皮した幼虫は土の中で冬を越し、翌年の春にサナギ化して2週間後に羽化し成虫になる。夏の初めに地上に出てきて樹液で栄養を摂り、交尾をし、産卵して夏の終わりに息絶える。
短い生の間、全力ですることばかりだ。
10歳の夏。母親と2人家族の4年生の有季(ゆうき)は、母親に「一人になりたい」と言われ田舎の祖母の家に預けられる。
有季の寂しさを思いやる祖母。同い年の泰宏(やっちゃん)がくれたカブトムシの幼虫。
誰にどう気遣われても、応える余裕などありはしない。いつまでと期限を言わない「一人になりたい」は心を喰らう悪魔の呪文。要するに「お前なんか要らないよ、邪魔」ってことだから。
呪文を聞いた心の表面は擦りきれてヒリヒリするから、傷つかないようトゲトゲさせておくしかない。丸ごと包(くる)もうとする人の優しさも、トゲトゲに引っ掛けてズタズタにしてしまう。そしてそのことに自分でも気づいて更に傷つく。
自分がどんどんイヤな子になっていくと感じる辛さ。1人で背負う姿に胸が潰れそうになる。
心も体も簡単に大人になれたらどんなに楽だろう。だが現実は、親が居ようが居まいが、毎分毎秒、自分ひとりで戦いながら成長していくしかない。
全ての子ども達の羽化が健やかであれかし。もっとみる▼ -
耽美、それは“失われた半身”を求める心2021年10月17日バージルシティで連続する猟奇殺人事件。被害者は男のみ、男性器を切り取られ公園の彫像の足下に遺棄されていた…。
粗野で独断専行を地で行くスタンレー・ホーク巡査部長。近寄りがたい美貌の内部管理課長アリスター・ロスフィールド警視。ミステリアスな日本人精神科医ジン・ミサオ。事件捜査を機に3人の男たちの心と体、人生が引き合い、絡み合い、穿ち合う。互いを知らなかった頃には後戻りできない彼らが選ぶ道とは…?
言葉で耽美感に酔った『アレキサンドライト』に続き、山藍先生の耽美を本仁先生の絵で愛でる作品で耽美考(その2)です。正統派の耽美作品の登場人物の多くは美しい反面、およそ熟慮や熟考とは程遠い、どうしようもなく愚かしい一面があることが多いのに、むしろ自分はそんな愚かしさも引っくるめて彼らを愛さずにいられない。
耽美は対比の美学だと思います。“真っ当”に対する“崩れ” や“溌剌” に対する“気怠さ” 、“単純”に対する“複雑” 、“不変・永遠”に対する“刹那” 。このズレや定まらなさ、アンバランスさや“駄目さ” が、そうでない確固としたモノやヒトと対比されることで初めて “美しい” と人に感じさせる気がするのです。
世間的な尺度から見れば、3人の関係は歪で“まとも” ではあり得ない。だが誰しも1度は夢見たことがないだろうか…?己の失われた“半身”、“欠けたパーツ” をピタリと埋め合う誰かとの邂逅、会う定めにあった相手と出逢い愛し合い一つに溶け合うことを…。たとえ叶わなくともそれを求め続けることが耽美であり“JUNE” なのだと思います。
コミカライズは4巻ある原作のうち1巻のみなのが残念ですが、挿絵担当の本仁戻先生が世界観を完璧に表現されており、耽美感を存分に味わえます。フォロー様の『アレキサンドライト』レビューにある通りストーリー(事件)より「美を堪能」が正解です。
なお原作は角川から1,000頁超の合冊版もあります。もっとみる▼ -
“両義性” に誘(いざな)われる恍惚2021年10月12日(作品紹介と幾つかのレビューは読後の閲覧を推奨します) 672ページ。
22歳の美しきシュリル聖将軍と、彼を捕らえた隣国のマクシミリアン大佐、そして自国のラモン戦将軍。因縁と謀略、命をかけた秘密と引き換えの服従。憎しみという名の執着。愛という名の凌虐。降りしきる雪の中を疾走し求めた、トライアングルの決着は……?
巨匠・山藍紫姫子(やまあいしきこ)先生による耽美ロマン小説。
耽美という言葉はとかくイメージ優先で使われている気がしてならない。“うっとりする美しさ” “危うく儚い束の間の美” “神聖で侵(冒)しがたい高貴さ” の意味で使う人もいれば、“禁忌/禁断/背徳” “過剰なほど華美な倒錯的エロス” と受け取る人もいる。だが本来はもっと振り切った定義を持つ。
耽美主義は真・善・美の均衡を崩し、美しいことが最高で論理的賢さ(真) や倫理的正しさ(善) を無価値とみなす。自然より人工、精神性より感覚と情緒、内容よりも形式、写実より虚構を好み、悪徳の中にすら美を見出だし、既成概念や道徳を拒絶する。
極論すれば、誰を傷つけ苦しめようが (いっそ誰が死のうが) そこに自分の求める美さえあればよしとするので、物語は自ずとメリバになりがちだし主役たちの中身は悲しいほど愚かか軽薄、自己愛的で自己中心的、容姿だけが破滅的に美しいのが相場だ。愛し合う自分たち以外は眼中にないので、当然のように周囲から憎まれ排除されるが、当人らは何ら痛痒を感じない(『枯葉の寝床』のギドウとレオのように)。
この視点で見る時、この物語は耽美とは言えない。
しかし世界5大宝石のひとつ*で太陽光の下では深緑、白熱灯や蝋燭の下では赤~紫に見え「昼のエメラルド夜のルビー」と喩えられるアレキサンドライトという作品名…この “あれもこれも” の“両義性” (“あれかこれか” の二者択一でない) が答えをくれる。
それはまず2つの意味でシュリルの比類なき魅力を指し、同時に人の感情の暗喩でもある。人は人に対し “愛か憎しみか” より “愛してもいるし憎んでもいる” という思いを抱くものであると。
そして抑制された心情描写と過剰なほど美しく残酷なエロスの対比が、行間を読む読み手を耽美の恍惚へ誘い、知らしめる。見えるものと見えないものを同時に見つめようとする心こそが耽美なのだと。
*ダイヤモンド/ルビー/サファイア/エメラルドに並ぶ5番目に翡翠や真珠をあげる説ももっとみる▼ -
なぜ人は人を求めるのか、の答えがここに2021年10月6日バース診断により12歳で婚約者が決まったΩの流星。その相手であるαの愛之介が迎えに来た20歳の誕生日、義兄になるはずのαの志穏(しおん)による巧妙な計略と強力なマインドコントロールで事態は思いもよらぬ方向へ...。
堪能した。
最初は普通に読み、2回目以降は順に流星→愛之介→志穏→兄弟の父親→兄弟の母親→叔父...と読む毎に1人の人物だけに感情移入してその目を通して物語を"経験" し味わった。それから作者の目線になり、なぜここでこのコマを置き、ここで彼にこの表情をさせたのか等に思い巡らせ、どんな思いがあってこの形で作品にしたのか感じ取ろうとしながら読んだ。そうしてもう一度、全員の心情に気持ちを寄せながら通し読みし、あぁ味わい尽くした、読んで良かったと改めて思った。実に9回、ここ最近では最も多く読み返した作品。
何がそんなに自分を駆り立てたか?
それは、「なぜ人は人を欲するのか?人を欲しいというのはどういうことなのか?」という永遠の問いに対する1つの答えが描かれているから。それを教えてくれたのは流星。究極にシンプルで明快なその答えを、順に辿り最後に読み返して確信した時、胸の中に涙が溢れた。
できれば、いつもの3倍くらい時間をかけてゆっくり読んでみてください。1人のΩを巡るα2人による"恋の鞘当て" という以上の何かを、きっと感じるはず。もっとみる▼ -
夏の日の一瞬の心情。熱を孕(はら)む視線。2021年10月2日27ページの短編が孕(はら)む熱に、胸の奥が焼かれた。
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強い日射しに目がくらむほどの青空。雲の峰が高くそびえた、暑い夏休みの放課後の学校。額や首筋、胸元や背中を流れ落ちる汗。
からだ中の傷に触れた誰かの指の感触の名残。じりじりと、ざわざわと、何かに自分を投げ出したいような、或いは何かをねじ伏せたいような、居ても立ってもいられない気持ちに急(せ)かされ、身の内にこもる熱に炙(あぶ)られ、正体のわからない何かに向かって文字通り真っ逆さまに落下していく男子高校生の体と心。
出だしからして、熱い。
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「思わせぶり」という言葉は普段、「意味ありげな振る舞い」と解釈されるが、より精密には「人の関心を引くように、自分の考えや気持ちをそれとなく表すこと」と辞書にある。ここでのポイントは、自分の考えや気持ちを「それとなく表す」その表し方が、必ずしも「言葉で」とは限らない点と、その目的が「誰かの関心を引く」ことにある点。
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三宮(みつみや)は連日、放課後にわざと怪我を負い、保健室に行く。それが誰の関心を引くためかは明言されていないが「誰の目にも」明白だ。
保健医の奥津(おきつ)は義務でもないのに放課後まで保健室を開けている。それが誰の関心を引き付けておくためかは明言されていないが、九条(くじょう)の目には明白だ。
その九条が、授業がないのに保健室で休んでいる理由も明言されていないので、読者以外の目には明らかではないのでは?と思っていると、ある可能性が示唆され、その瞬間、視界にどんでん返しが起きる。
途端に三宮のキャラクターに深みが増し、3人の関係が熱を持ちだす。
駆け引き。熱を孕んだ視線。果たして誰が誰を射止めるのだろうか。「彼」の最後のモノローグに、痺(しび)れずにいられない。
ある夏の日の一瞬の心情。それがとても熱いのだ。
(27ページ/100pt)もっとみる▼ -
気持ちを伝え合うことばかりが、善だろうか2021年9月28日先日、ある人気BL漫画家と小説家が、イメージやニュアンスで誤用されている言葉を本来の正しい意味や用法で自分が使うと読者が勘違いするからややこしい… とSNS上で話していて、思わず唸った。
英語⇔日本語の通訳・翻訳が仕事の1つなので、知っているつもりの言葉でも発音・意味・用法の3つを電子と紙の辞書で確認することが習い性となったが、正しく使ってもクライアントが「?」という顔をすることがある。先日もhighlightという語を文脈から「触り」と訳したところ、英語が堪能なクライアント側関係者から「ハイライトは“山場”のことだから“導入部”という『触り』は変」とのご指摘… 『触り』の意味が “見せ場”であるとはご存知ないようだった。
実は、主役の1人が小説家であるこの作品も当初言葉の用法が気になり2度挫折。「ベッドメイキングは済んであります」(→済んでいます、が正しい) 「感じれない/見れない」(→感じられない/見られない) 「歌声に息を飲むほど揺さぶられた」(→歌声に息を呑み、心が揺さぶられた/息を呑むほど美しい歌声に心を揺さぶられた)。もう殆ど自戒ネタです…。
が、先日3度目にして遂に読み通し、その引っ掛かりを差し引いても余りある素敵な1コマに出会った。
思いを寄せ合う2人の人間が、故あって2度と会うまいと心に決める時、ここを先途と思いの丈をぶつけるものだろうと想像しがちだ。最後は本心を語り合い、すっきりした気持ちで各々の道へ歩み出そうとするだろうと。
だが人の心はそんなに合理的に働くだろうか…?
相手と自分に誠実であろうとすればするほど、人は自分が口にする言葉に縛られ、同時に相手をもその言葉に固定してしまう。「好きだ」とか「愛している」という言葉は、仮に過去形で言われてもその場かぎりの心情の吐露として雲散霧消などしない。むしろ、なお果たされるべき約束、守られるべき誓いとして胸に刻まれ、或いは希望を孕む鎖となって人をその言葉に繋ぎ止める。2人が共に居続けることを取り巻く状況が許さないなら、愛を打ち明け合うことは、未来のないその残酷な事実で自分たちの心を抉る行為にしかならない。
言葉を呑み込み、ただ相手と自分のありったけを、その一瞬で与えあう------互いに気持ちを言わない不作為こそが互いへの最大の誠意と愛の証である瞬間。
これを見るためだけでも一読の価値があった、と思う。もっとみる▼ -
合言葉は「作品紹介はスルーしましょう」ネタバレ2021年9月26日このレビューはネタバレを含みます▼ 頭が痛い。と言っても片頭痛や怪我の後遺症などではなく、この短編(39ページ/180pt)の素晴らしさを人に伝えたくてレビューをしたいのに、難しくて頭を抱えてしまう…という意味で。
なにしろこの作品、設定自体がネタなんです…と書くことまではどうかお許しください。これが例えば、ある人物の発言や才能、性格や持ち物であるとか過去や交友関係であったり、ある出来事が起きた場所や時系列・時間軸、その規模や影響などがネタであるならば、それ以外の要素を書けばいい。
でも、設定って……お話の前提全部ってことですよ。どうしろと…?(いや誰にも何も言われてないし)
短編はあらすじ即ネタバレになるリスクがあるだけでなく、ネタがどの点にあるかによってもレビューが難しいのだと再認識中。あ!作品紹介文はネタバレなのでスルーがお勧めですよ!
以下2文を書くにとどめます。
大学同級生の哲哉(テツヤ)と忠志(タダシ)の間の不可視(invisible)な“事情”は終わったものと終わっていないものがありそう。
そして…同じ題材の作品がひしめく中で、このお話はある似て非なる2つを対比させたことで読む人の心にキラリとしたものを残すと思いました。
(10/6追記)
ム_様
あぁ最高。部屋主がいない時にすることで“あり得ない”のはどっち?と聞かれたら、限りなく10割の人が独り言よりそっちと答えると思うんです。なのに独り言の方に注目されたレビュー…そそられた~(笑)作家目線!参りました(嬉)!
人気BL漫画家が前に対談で話していたことを思い出しました。曰く「自分で持ちうる精一杯の力で描き切り、こんな大変な思いをして結ばれた2人だからもう大丈夫、絶対幸福な未来だと読者に伝わったはず、と思うのに今はそれが通じない。『かも知れないけどその後のイチャイチャを見なきゃ信じられない』とすぐ続編を求められる。これだけ描いても通じないんだ、と愕然とする思いと、1巻分を描くのに如何に準備と時間とエネルギーが必要でツラいことも多いか、それは読者には関係ないでしょうけど、とても簡単にはそんな気持ちになれない」と…。
もしやあれも、名前を呼ぶだけじゃ唐突で足りないと思われないための予防策とか(笑。
告白しあい明らかになる思いと、そこから始まるだろう目に見えない何か(願い?希望?)が2人の今後を明るく照らしますように。
ありがとうございました。これからもレビュー楽しみにしています! -
洒落たラストページ。そういうことかぁ!2021年9月24日(注:作品紹介もレビューもスルーをお勧めします)
37ページの短編(120pt)
言葉は “世界” と “人” を知る “視点” をくれる。業務上で誰かが「問題がある」と言えば、そこに問題があることが初めて誰の目にも見えるようになるし、「好きです」と言われればそこに在ることも知らなかった好意を感じ取るようになりドギマギもする。言葉が、ものを混沌から取り出して際立たせ存在させるのだなぁと実感する (あたかも旧約聖書の『「光あれ」と神が言われ、するとそこに光があった』的に)。
異業種交流会でメガネ談義で意気投合し友人となった尚人(ナオト) と鉄朗(テツロウ)。ある日、尚人が発したメガネ絡みのある一言が鉄朗を新たな“視点” に開眼させ迷走させる!
この迷いっぷりがいちいち可笑しく、笑いのツボを押されまくる。かと思えば、誰かを好きと自覚するまでの揺れる心の機微が実にリアルで、それな、と隣で相槌を打ち肩を叩きたくなる。ラストページ…そういうこと?やるなぁ尚人(このこの~)。出てくる人みんな、表情も言動も生き生きとしていて、彼らの感情に寄り添い読み終える頃には、きっと元気になれるはず。
*皆様くれぐれもご自愛くださいもっとみる▼ -
今はウーパールーパーを見るたび胸が一杯に2021年9月21日冒頭3ページでサラリと示される大学生の主人公・未弥(みや)の辛い事情 (決してトラウマの類ではないのでその点はご安心を)。その彼が大学図書館で見かけて気になっている男・令(れい)と言葉を交わし、そこから少しずつ明かされる2人の素性。そして事態は命と愛を軸に思いもしない展開へ…。
たぶん…電化製品のマニュアルを自力で読むより誰かに丸投げ!の人や誰かにふぅふぅしてもらわないと熱いスープが飲めない人(も~甘えん坊さん達め) には、話の展開や2人の心情が少し掴みにくいかも。手取り足取りの説明は一切ありません(だからこそリアルでもある)。特になぜ2人がこのタイミングで体を重ねたのかは、そこで立ち止まっていてもたぶん永遠に分からないので、「何で?!」ではなく「何かあるんだろうなぁ」と疑問と感想は保留にし、共に先へ参りましょうぞ。
未弥がスマホで打った6文字とそれに続くシーンには画面が滲み唇が震え「作者様、お願いだから…!」と何度も祈りました。
全て読み終えてから始めに戻る。初めてウパを目にした未弥の表情を見つめる令の心の内には、どんな思いがあっただろう。
『BLACK SUN』を読んで以来、心酔している作者様。他にはない物語世界の着想と構成。人物の描写と構図。シリアスとユーモア。何もかもに惹かれる。私の中では西田東/ヒガシ先生と同じ地平線上にいらっしゃる方。シーモアさんでの決して多くはないラインナップを惜しみ、ちみちみと読み進め、どれも何度も読み返す。あぁ、この先生の作品について誰かと話せたら… 愛してます先生!もっとみる▼ -
ようやく、胸のつかえがおりた(かも)ネタバレ2021年9月19日このレビューはネタバレを含みます▼ 1つ挟んだ前の『トリップ』の続編+短編。
続編はある意味アンサーソング的お話。前作で相思相愛ながらもどこか不均衡に傾いていた主役2人の“好き” の天秤が、ジリジリと±0の目盛に近づき釣り合っていく様子に安堵する。
松浪のどっちつかずな態度の裏には、この愛しいものが自分のもとを去るかも知れない“いつか” を恐れる気持ちや、そうなった時に立ち直れなくならないよう気持ちを抑えようとする弱さが透け、やっと松浪という人を感じられた気がした。
かつて、思わせぶりな言葉や駆け引きめいた態度で感情を翻弄され最後には相手を憎み自己嫌悪もした他愛もなかった昔の自分には、相手の態度の裏にどんな気持ちがあるかが汲み取りきれなかったけれど、大きな年齢差や立場のあまりの隔たりに自分以上に戸惑いと恐れと不安があっただろう、と相手の年齢を超えた今、初めて実感レベルで当時の言葉や態度を理解できる感覚がある。若さで想像する気持ちと実際に年齢に達して感じる気持ちとでは、生々しさも強さも細部まで、こんなにも違うのだなぁ…!
モヤモヤした胸のつかえがやっと、おりた気がします。 -
無慈悲に暴かれる“秘密”を、守り抜けるか2021年9月17日12巻完結。スピンオフの【秘密season0】は現在も進行中。
時は2060年。「第九」と呼ばれる科学警察研究所の新人・青木が、組織を率いる美貌の警視正・薪(まき)や同僚と信頼を築きつつ事件捜査に奮闘する様を軸に本編が進みます。
人間の底知れない心の闇や業が産み出す陰惨な殺人事件。恐るべきは、被害者の脳の生前の記憶を見た者は、犯人しか知り得ないはずの殺人行為の詳細な手段や残酷なプロセスをただ「見る」だけでなく、今まさに殺されんとしている被害者が死の淵で感じる恐怖や絶望をもありのまま追体験することになる事実。
そして脳に刻まれた記憶の「秘密」を前に、捜査にあたる者たちもまた、善良で潔白なばかりではない自らの内面や、過去に搦めとられた己れに対峙します。被害者と加害者と捜査官は、事件の因果の結び目で出会う互いの秘密を暴きあう存在。唯一最大の違いは、他者の命に干渉したか否かの一点です。
清水先生の迷いのない美しい絵が、猟奇的事件のむごたらしい被害者とおぞましい犯人とをフラットに描写することにも戦慄します。裂かれた腹から溢れ出た臓器のグロテスクささえ、1滴の血も描かれないだけでこうもショックが和らぐものでしょうか。
どうか『秘密1999』(第1巻第1話)と、ある少年の死(第2巻)のエピソードを読んでください。
前者はこのシリーズのタイトルを決した作品。休暇中のアメリカ大統領が死を前にSPを呼ばなかったのは何故か。その真相究明の場に読唇術のプロが呼ばれたのか何故か。エピソードゼロにあたるこの物語を20年以上前に掲載誌で読んだ時、凍りついた。死を賭してでも秘密にしておくはずだった心が白日のもとに曝される可能性。その暴露が不可逆的に誰かを傷つけるかも知れない可能性。「言いたくない」も「知りたくない」も無情に奪われ、死ぬことの恐怖の意味が変容する世界。それは生きることの恐怖と同義では…?
のちに会話しつつ目隠しを頼む薪の心情は、このエピソードの主人公の心情にリンクしていると思います。
後者の、少年の死は、ある一家惨殺事件の捜査中に起きます。彼がどのような少年であったかーーどういった特質で日々をどのように生き、愛されていたのかーーが明らかになるにつれ、もたらされた死のむごさと理不尽さが胸をえぐり、怒りと無念と哀しみで倒れそうになる。それでも、清水先生が描き出すこれら究極の愛の物語を多くの人に読んで欲しい。もっとみる▼ -
TRIPには、つまずきや過ちという意味も…2021年9月16日「××が★★を好きになった理由がわかりません」というコメントをレビューで見かけることがあり、それってどういう意味?と時々立ち止まってはレビューを読んでしまいます。
多くは「★★はクズで愚かでetc.好かれるところなんて何もないから自分だったら好きにならない」という感情に起因している模様。なるほどなぁ。
或いは「好きになったことがわかる場面が見当たらないから伝わりやすく描いて」というリクエストパターンも散見。なるほどなぁ(2回目)。
1998年初版のこの作品は7話からなる短編集で、1つを除き表題作の連作(つまりテーマが同じ)。紙版を手放しているので50%OFFの今回買い直して読みました。
当時は気づいていなかったことが沢山あったなぁ。人を好きになるのには本当に一瞬で足りるんだってこと。好きになる理由なんて意識もしないうちに好きになっているんだってこと。年下をたぶらかす大人の狙いすました手練手管にはひとたまりもないんだってこと。そんなズルい男をそれでも嫌いになれないのがリアルなんだってこと。
それから、好き合っている同士であっても互いの“好き”に違いはあるということ------これが共通のテーマ、かな。もっとみる▼ -
あと1コマ、いや2コマあれば…!2021年9月13日好きな友人とは肩が触れ合うほど近くても平気(むしろ楽しい)だけど、苦手な相手とは少し離れて座ったりする。人と人は心理的距離が近い者同士ほど現実の物理的距離も近くなるけれど、その逆は必ずしも真ならず、ですよね。 満員電車で隣りに立っただけの他人にむやみに親愛の情を覚えることは、まずないわけです(不届きな振る舞いの奴らに憎悪や殺意を覚えることはあっても)!
でもでも!リモート授業と違いリアルな学校生活では距離が気持ちに影響する行事もたくさんありました。席替えはその最たるもの。仲良し達と席が離れて寂しかったり、 “違うグループ”の子が隣になって仲良くなっていったり。あぁ、懐かし~。
これは、通学路の駅で知り合ったDK2人の一方が他方の制服のネクタイを結んであげる距離まで互いに近づき、そして… ?というお話。はなから結論は見えたとしても、なにせ途中経過が……わぁ……くすくす……ひゃあ…… いやもう初々しさに居たたまれないよ~っ、よ~っ、よ~っ、よ~…ょ~…(こだま)
フォロー様方やレビュアーの皆さんの悶絶撃沈っぷりまで可愛いときた。
あぁー、あと2コマ先には、きっと…!もっとみる▼ -
私の「苦い」には、「甘い」があった2021年9月11日(2篇84ページ)
仕事が休みの日の明け方。ふ、と目を覚まして枕元のスマホを手に取る。今日はオフだし、と寝そべったままシーモアを開き本棚を眺め、半日前に買ったばかりのこの短編集を選びゆっくり最初の『悲恋の夏』を読み始め……30分後、ガバッと起き上がり何でだよと叫んでいた。
胸の内をざらりと擦りながら落ちていく苦さ。かれこれ40年(以上)、古今東西・多種多様な本を読んできて、別に初めて触れる感覚でもない。でも微睡みながら味わうには、あまりに苦すぎる…。美しいタイトルに油断してはいけない。釘を刺すどころか、彼は人の心にも人生にも楔を打ちやがっ…打ってのけた。
この余韻が抜けないまま2篇目の『十年の桜』へ。1篇目とは別個の短編。高校で同級生だった男2人が再会。その偶然の小ささと、それが導く結末の大きさとの衝撃的な不均衡。苦い…。だが苦いとはここまで痛みに振り切った感覚だったろうか?自分は苦味の認識がいつの間にか甘く鈍(なま)っていたのかも知れない。
この2つの作品、登場人物の容姿に関する描写がほぼない。容貌の美辞麗句が不自然に並ぶBL小説群とは一線を画し、読み手の読む力を覚醒させる。直接描写なしでも人物像を脳内に結べるか。たまにはこんな風に試されるのも、いいな。
*色々あり、しばらくレビューから離れていましたが私は元気です(魔女宅のキキ風に)。これからも、自分が向き合いたいと思った作品のレビューを、自分のペースでゆっくりと書いていこうと思います。
*フォローしている皆様方のレビューからも離れていたので寂しかったです。きっと未読は200近くに上りますね…これを書き終えたら一つ一つ拝読します!
*唯一読めた恋の分量の4人のフォロー様。感動しました。私は今回の皆様方のように、立ち止まり、(なぜなぜ坊やと共に) 恐れず深く物語に入り込んで思索し、混沌の中から自分の内面をも取り出す行為そのものがレビューの醍醐味の一つ、と改めて思いました。毎度それがいいとまでは言いません。でも耳触りのいい言葉やふんわり表現で濁してそれらしく装える人もいるでしょうに、敢えて抜き身で斬り込んでいき考える姿勢を心から敬愛しますし、自分もそうありたいと思います。もっとみる▼ -
視点を変えると、表紙の雰囲気まで一変するネタバレ2021年9月3日このレビューはネタバレを含みます▼ 短編です(41ページ/100pt)。
人の間に埋もれがちな大人しい個性の大学生トバリが、入学式の日に自分と真逆の華やかな容姿で人好きのする同級生ミツに声を掛けられ…。
“恋の分量”と思っているのは果たして誰なのか?それは本当に“量”なのか。
トバリ視点で進むこの物語を、第三者視点で眺め直すと、人慣れない青年が目をつけられ揺さぶられ…という話に見えてくる。
テーマは普遍的でもミニマムな表現が却って印象を強め、いつまでも胸に余韻を残します。
(9/13追記)
*フォロー様方へ:
「この話は単に性格や考え、価値観の不一致、恋の“分量”の違いでは?」------との見解、わかります。まさにトバリも最初はそう思っていたと私も思います、「わかり合えるかも知れない/わかり合えるはずだ」的に…。
私が注目したのは反復する描写------たとえば初めて二人が体を繋いだ時にミツがトバリの首を手加減なく絞めたこと(息がヒュッとなるほどの力がどれ位のものか自分でやってみると分かる)。または、恋人をというより物体を見るような無機質な目を向けるミツの視線に、翌日まで尾を引くほどトバリが感じた恐怖。あるいは、二人の関係が変質したことをトバリが一方的に自分の非だと思い込んでいること。もしくは、それまでの優しい口調が一変し、「離れないでね」でなく「離れないよな?」と強く言われてトバリが目を見開き体を震わせたこと等々のディテールです。
言葉に乗せた感情の、ミツへの伝わらなさ加減や彼の反応の異質さは、トバリが単に“悲しい”ではなく“怖い”と感じるほどのレベルや性質ですよ、と読み手に伝える作者の意図的な繰返し、と自分は受け取りました。
感情や良心、罪悪感や共感性の欠如、冷酷さとエゴイズム、特異な自意識。他方で魅力的な外見と振舞い、口達者。優しさと脅しを使い分け自分の思惑どおりに他人が思考・行動するよう誘導するのが巧み…… 反社会性パーソナリティ障害(ASPDいわゆるサイコパス) の特徴そのままを作者が描いた風だなぁと思いました。
サイコパス相手では諸々の不一致の折り合いなど望めないから逃げるが一番、なのに思考操作され逃げられず搦め捕られてしまう……一般小説でも少女漫画でもBLでも'90年代末から多くの作家が繰返し描く定番人気テーマの一つで、この作品をその系統だと解釈するなら、セオリー通りの展開と結末、とてもいい短編だと思いレビューしました。 -
本編は就寝前に、大切に1話ずつ読みたいネタバレ2021年8月31日このレビューはネタバレを含みます▼ トレンチコートに中折帽、独特の髭スタイルが年齢不詳な男の職業は、“鞄図書館” の司書。その手に提げたクラシックなボストンバッグは他人が開けても中は空っぽ。でも男の手を介せば鞄の内側はあらゆる書物を所蔵する無限宇宙の図書館へと変じ、命綱を伝えば利用者自ら鞄の中に入っていくことも可能。本の貸出期限は1年間…。鞄は人語を操りゲーテの名言を語って聞かせる。これはそんな司書と鞄図書館が世界を巡る中で出会った人々と描く物語の数々。
この100ページに満たない作品は「鞄図書館」という4巻まで配信中のシリーズ(便宜上、本編と呼ぶ)に未収録の3話分と書き下ろしの「鞄図書館プラス」1話からなるオムニバスです。本編同様、各話にはそのテーマに絡む1冊の本が原本の装丁そのままに登場するので、その本を知っていればいるほど、読んだことがあればある分だけ、グッと胸が熱くなるはず!(夢中になった本達が登場する度に自分は卒倒しかけます) …とは言え、原本がストーリーの解釈を左右したりはしないので、知らなくても心配ご無用、ちゃんと紹介があります。
「プラス」に登場するのはH.G.ウェルズの『タイム・マシン』。わずか15ページのお話が胸にドスンと来た。最後まで読み、まさかと思い最初から読み返す。最後で涙が噴き出す。無論予想はしていた。だけど、わかっていて、それでもそうするのか…! “彼” には可能であることは「彼」にとってアイロニーか、それとも希望、賭けなのだろうか?“彼” を何者と考えるかで幾通りも解釈できそう。
鞄の中に広がる無限の広さと深さを持つ図書館。本書ではチラとしか出てきませんが本編で見るその階層構造の素晴らしさには、本好きの夢がたくさん詰まっています。 -
自分の視線は、相手を正しく捉えている…?ネタバレ2021年8月29日このレビューはネタバレを含みます▼ 新しくフォローさせていただいた方をはじめとするフォロー様方のレビューリストから選びました。
新しく人と知り合い関係を築いていくそのいき方は、いつどこでどんな状況で出会ったのかとか、互いの立場がどんなものかとか、自分と相手がどんな性格でどんな物の考え方をするかとか、これまでどんな風に人間関係を築いてきたかとか、今ちょっと考えただけでも少なくともこのくらいの条件で何十、いや何百、何千通り(あるいはそれ以上)の道筋を辿りうるでしょう。
いつ、かしこまった口調が砕け、顔の表情や身振り手振りがより親しげなものに変わり、互いの物理的距離が近づくのかは、気の遠くなる可能性の中から互いに選択を繰返しながら徐々に1つに定まっていくのでしょうか。
このお話の春次(しゅんじ)と睦(むつみ)は、救急搬送されてきた患者とその主治医。その初対面の日。いきなりタメ口をきき密着してベンチに座り互いの手や口から煙草を取り合い、気落ちした風の相手の頭をわしゃわしゃとかき回したりと、二人は独特の道筋で近づいていく。
このルートが自分の慣れ親しんだ道筋やテンポとかけ離れている読者ほど2人を苦手に感じそう。
とはいえ決して軽薄ではない。途中停止や戻るボタンがない人生は前へ前へと進み続ける時間の連続で、“一回性”のもの。それを思い出し春次が意地を捨てたことで2人も前に進めた瞬間があったと思います。
タイトルのラブラドレッセンス(一語の単語)は、それ自体の成分構造と光の干渉によりラブラドライトという鉱石が放つ青みを帯びた閃光のことで虹色とか玉虫色と喩えられ、見る角度や場所・時間で何色にも変化して人の目に映るとか。例えば同じ人を前にし同じ優しさに触れたとしてさえ、受けとる人間次第で違った閃光に見えるということを示すために巧みに選ばれたタイトル。
誰にでも一様に向ける優しさを浮気性とか不誠実な行動と同一で嫌なものと受け取ったことがあるのはこの元カノだけでしょうか…?と作者が問うているように感じた。優しさ属性の人をただの多情な人間と見誤ってはいませんか… ?と。 -
池玲文/嶋二/硯遼/ハジ/せいか/カサイウカ/松本ノダ/鹿島こたる
『ステキなオジサマはもれなく**』2021年8月26日8人の作家によるイケおじ作品集・全259ページ。レビューのタイトルは池玲文先生による巻末の名言を拝借しました(伏せ字**の答えは↓に)★敬称略した作家名の後の『/数字』は作品ごとのページ数です
【5 More Days Till Christmas/池玲文(いけれいぶん)/10】クリスマスまであと5日。帰宅した旭(あさひ)をサンタ姿のジェイクが出迎え、そのまま濃厚ラブに突入~!巻頭から神が降臨。これぞ『成熟』の極み、溢れ出す色気の凄み!光輝にくらむ目には修正など無いも同じ(ちゃんとあります)
【笑わないメルヘン/嶋二(しまじ)/34】おっさんの真価、それは『ギャップ』にある!がテーマ。強面(こわもて)なのにドジっ子、強面なのに猫にモテる---可愛いしかない。「一(いち)おっさんが“不器用” に腰かけて甘えるな」は名言!
【狩人と魔物/硯遼(すずりりょう)/36】保護した魔物の子どもと深い森の奥で暮らすハンターのアルヴァンの苦悩と希望。『言葉が通じないもの同士の愛と優しさとエロス』がテーマ。誰か~ショートフィルムにしてくださ~い!
【Not if/ハジ/36】殺し屋の蘭(アララギ)と運び屋の櫟(イチイ)は7歳差の恋人同士。仕事でささくれた心の浄化は、ふわふわのアレで決まり!異名同実(いみょうどうじつ)の常緑樹である「蘭」と「櫟」の名を持つ2人の『バディ』感が超いい!
【部下と上司と壁の女王/せいか/36】あ、タイトルはそういうネーミングだったのか!と途中で気づく。『上司と部下』が手に手を取り足に足を絡め(?)くぐり抜けていく怒涛のマルチハラスメント!続編ありそう
【今夜だけのナンバーワン/カサイウカ/26】『デリ ヘル』店長の薫と客の弓彦との相互一目惚れストーリー。穏やかで、はにかみやで、少し臆病。そんな大人の2人の雰囲気と睦み合いが最高で萌える
【50歳、最初の恋のはじめかた。/松本ノダ/42】50歳で『DT』の三田さんが若き男性ダンサーに一目惚れ。三田さんの柔らかく真面目な人柄、好きにならずにいられないよ。26歳のトモの色気は瑞々しく清潔、なのに悩殺的で反則。1粒で2度泣けるラブストーリー。大好き
【アダージオNo.53/鹿島こたる/42]】耽美的な絵柄が紡ぐ『年上』バレエダンサーと『年下』ピアニストの純な恋。ラヴェルのボレロを踊るモローのカットがジョルジュ・ドンそのもので美しい(そしてバーの名前がベジャール)!懐の深さまでもがセクシーな大人のモローに痺れる
★**=「至宝」もっとみる▼ -
無力な人々の、結末のその先にあるもの2021年8月22日こちらを見つめる表紙のシブいイケオジと視線を交差させ、ドキドキとおもむろに開いた1ページ目、この無音の3コマの部屋の様子や物の位置、表情だけで彼がどんな人であるか3割がた説明しきる先生の描写力。まただ。1コマの持つ意味とパワーでまた否応なく足止めされ隅々まで目を凝らしてしまう。
BLではなく青年マンガ枠の46ページの短編。
役員登用を蹴り閑職に追いやられたアラフィフの尾崎部長とその息子の修一、異動してきた女性部下の沖本の3人が織りなす想定外のストーリー。
そもそも“無力”って何のことだろう?確かに登場人物のうち2人には“力”がある、なのに“無力”とは…。不要で無意味な力?客観的なそれというよりは主観的な無力(感)に近いのかな。自分が夢も希望もなく人生を精力的に生きていけないという以上に、自分にとって意味ある存在が力強く生きていく力になってあげられない、それが彼の感じる “無力”の正体なのでしょうか。
切実なまでの親の心に胸を衝かれる。憤りや苛立ち、申し訳なさや哀しみ、気がかりに憂い、身を捨ててでも救いたいかけがえのなさ。それらを皆ひっくるめて愛しさと呼ぶのだろうか。
はたして何人が無力な“人々”だったのでしょう?2人?3人? あるいは…?
珍妙な紹介文は事前に読まない方が無難です
(8/30までセールにて 65pt)もっとみる▼ -
小さな変化の一歩として、伝えたい2021年8月21日セールになっていた英語版を先に読み、ついで日本語版のこの本も読み、読んだ以上は伝えなくては…と思ったので短くレビューします。
今年の6月にも英国BBCを始め各国や日本で大きく報道された、数年前からいま現在進行形で起きている人権弾圧の生き証人たちの経験を描いたシリーズ(21ページ)。
絵が淡々としているだけに凄惨な内容とのギャップが衝撃的です。
テロや戦争、飢餓や感染症など世界で起きている問題はあまりに巨大で、とても自分ごときが何かしたところでなんの力にもなるまいと感じるのは無理もないことだと思うのです。経験したことがないことに対し、どこからどう対処すればいいのか最初は分からなかったと多くの災害ボランティアの方々も言っています。
ただ以前、国際貢献をしているある日本人の活動家の方が、自分が知り得たことをただ別の誰かに話すだけであっても、その口伝えがいつか遠く地球の隅々まで届いたり、力のある企業や政治家たちを動かすこともあり得る時代ですと仰った言葉が希望をくれました。
1人でも多くの人に伝わりますように。もっとみる▼ -
作者お得意の、喘ぐ攻めと煽る受け2021年8月19日灰原歩(あゆむ)はある晩、電車内に脱ぎ落とした革靴を拾ってくれた男・火神尊(ひかみたける)と出会う。お礼がてら彼を酒飲みに誘い…?
この作品は「聞くBL小説」シリーズのCDドラマの書き下ろしシナリオを作者自らがノベライズした67ページの短編。トラックごとに主役が入れ替わるCD同様*、ノベルズも章節ごとに視点が切り替わりテンポよくお話が進みます。
(精神や肉体疲労時のエロス補給に即効性ある気がします)
タイトルにサンドリヨンとあるからといってシンデレラをなぞる展開かと予断をもって読むのは禁物です。サンドリヨンという言葉はあくまでも、目の前で見知らぬ美人が靴を脱ぎ落としていったその状況を火神がロマンティックに表現したもの。火神がその言葉を使ったことで、サンドリヨン=灰原が火神好みの容姿だったんだなぁとか、きっかけを作ってまた会いたいと瞬時に認識したんだなと読み手が理解できる仕掛けなのです。よって、灰原にシンデレラ的な不幸なあれこれなど期待(?)するべからず。
ところで小説やコミックスを読みながら設定や展開に「そんなことってある?」ともし思った時には(滅多にありませんが)、自分という枠組みにとらわれているサイン点滅かもと思うことにしています。はたして自分という人間はこの世のありとあらゆる森羅万象やら、約79億もの人類の性格と言動すべてを統計的に知っているつもりかよ、と。事実は小説より奇なりと言い、事実の方が想像の上をいくのだから小説が自分の枠を超えているくらいで、いちいち驚くなかれと。「ありえない」は案外「知らないだけ」かも知れませんよね…。
*CD販売元のst-noix ブリリアントプリンレーベルのサイトでサンプル音源をたっぷり視聴できます。自分は「歩…」と切羽詰まった火神の声が聴けるサンプルNo.7が好きだなぁもっとみる▼ -
軽やかなやり取りに、きっと惚れちゃうよ2021年8月17日のどかな探偵事務所に(時々)舞い込む様々な依頼を、探偵の史佳(フミカ)と助手の狼(ロウ)がドタバタと解決するかたわら、1話ごとに2人の距離もちょっとずつ縮まっていくオムニバス・ストーリー。
全6話+書き下ろし。第1話では迷子のペットを探し、ネコを飼うことに。第2話では家出した人を探して、オウムを飼うことに。第3話では特殊清掃して、金魚を飼うことに。おっと、そもそも存在しない第0話で、“あるもの”を飼い始めたんでした…。
ルックスも性格も行動さえチャーミングで読めばきっと惚れちゃうフミさんとロウ。室内にある家具や家電や雑貨の1つひとつに至るまで、柔らかい手描き(風)のタッチがキャラ達の人柄やたたずまいとも相性ぴったり。
なんといっても、軽みがいい!2人のやり取りなら無限に見ていられる。
心をユルくしたい時、オススメの1冊です。
*フォローさま、佐狐探偵事務所に真相究明を依頼したいと仰っていた件、自分は事務所の者ではありませんがお答えできます…。分冊版は2021/07中旬頃レーベルから40% OFFクーポンが出た時、7/21に新刊で第6話を出すもののその1週間後の7/28をもち諸般の事情で販売終了する旨のお断りが掲載されていました。自分は分冊版で入手していましたが、書き下ろしがあるとのことでこちらも購入、特典ペーパーも4コマもたっぷりあって幸せ満喫です。もっとみる▼ -
潮騒の捉え方で、作品のラストが変わるネタバレ2021年8月16日このレビューはネタバレを含みます▼ お話の舞台である1994年(平成6年)と言えば今から27年前。随所に散りばめられた時代を象徴する小物や固有名詞、言葉遣いなどに心があの頃へと飛んでしまい、ともすれば作品を見失いそうでした。つくづく、物や言葉が心に働きかける力は強大ですね…。
これは、何にでも終わりは来るから最初から期待しないでおこうとする20代半ばの屋敷(やしき)と、突然相手が何も言わずに自分の元から去るのを見るくらいなら始めないでおきたい30代半ばの比奈岸(ひなぎし)という、およそ恋愛に発展しそうにない臆病な2人の男達が一生に一度の本気の恋ができるのかを見届けるお話。
「関係が人に知られたら終わり」という言葉のもつ意味が2人それぞれで違ったことが苦しかった。屋敷と同じく打ちのめされて壁に寄り掛かってしまいたかった。急に消えるなといつも繰り返すあなたがそれを言うのか、と。だったら今のこの関係は何だと思っているのかと…。
潮騒とは何だろう?この言葉がもし仮に、寄せては返す波のことだとするならば、近づいては離れてを繰り返す危うく脆い2人の関係とイメージしてしまいそう。でも潮騒という言葉の本義は、潮が満ちてくる時に波が音を立て騒ぐこと、その響き、と辞書にあります。それを踏まえて物語を読み返すと、あぁこの言葉は2人がざわざわと相手に惹かれていく心の中の潮騒のことであるとも言えるし、再会からラストに向かい彼ら2人の関係が長い時を掛けてついに満ちてきたと暗示する言葉でもあるように思うのです。
電車の中。知られたら終わりだと、かつて振り払い離れた手と手。あれから6年後の今度は…?
人が自分の内深くを見つめ、惑いつつ悩みつつも自分のあるがままを受け入れると、こんなにも優しい人になる。美しく愛しい。気持ちが安らかになりました。 -
簑浦と諸戸、2人の“ままならない”愛ネタバレ2021年8月14日このレビューはネタバレを含みます▼ 多くの推理小説や怪奇幻想小説を著した江戸川乱歩が、男性の同性愛をテーマに書いた名作のコミカライズ*。電子版で約600ページの原作長編小説をnaked ape先生がほぼ忠実に再現した全3巻(各200ページ弱)。原作の魅力の凄みとコミックスならではの情感を味わえる作品です。
大正時代の風物を背景に2つのモチーフが両輪となり物語は進みます。1つは主人公・蓑浦金之助(みのうらきんのすけ) が、恋人の木崎初代(きざきはつよ) を端緒とする連続殺人事件の真相を追う推理小説。2つ目は蓑浦と、彼を同性愛的に愛する諸戸道雄(もろとみちお) との間でせめぎ合う肉体的欲望と精神的愛のお話。乱歩自身は、この同性愛要素は画家の岩田準一との熱心な研究の投影だとクールを気取ります。が、コミックスを読めば誰でもが一目瞭然「こっちが主題でしょ!」それほど主役2人の心理描写が細やかで濃密かつエロティックです。
初対面は蓑浦が17、諸戸が23の時。2人は互いの極めて美しい容姿と内面に惹かれ合いますが、諸戸から向けられる愛がそれを超えた性質のものであると察している蓑浦は、銭湯で諸戸に体を触らせても唇は許そうとしない。決定的な拒絶をしない代わり受容もしない蓑浦のこの態度は、再会した8年後も変わりません。人の心を弄ぶ嫌なヤツですか?でも同性愛について知る術も相談相手もなかろうこの時代に、未知に飛び込まないことを誰が責められるでしょう。まして家も頭も姿もハイスペックな医学者の諸戸には傲慢さが微塵もなくどこまでも優しくエレガントなヘタレ、もとい紳士。優れた年長者と交流を望むことが罪でしょうか?諸戸が蓑浦を自分のテリトリーに囲いたいと熱望することと、蓑浦が諸戸に自分の思う通りの美しい人であって欲しいと距離を置くことと、どこが違うでしょうか。
とは言え!諸戸が己の叶わぬ恋に感じる哀切と絶望、わずかな希望と願いの凄まじさが、読み手の共感以上の同情を誘うことは身をもって理解しています。蓑浦、少しは諸戸の夢を叶えてやれよ!と煩悩に忠実な内なる自分が何度吠えたことか。
これより先の物語後半は、愛も事件も怒涛の展開です。閉じ方までもが壮絶で美しいこの物語が、誰かの心に届きますように。
*コミカライズ作品は他に環レン先生版と長田ノオト先生版(読みホ) あり
*いち恋をレビューされたフォロー様。私も後夜祭に参加してましたよ!楽しかった〜(そして眠かった) -
乱歩と準一の、なまめかしいBL的関係2021年8月13日フォローしている方々が夢野久作作品をレビューされた時、彼と互いの作品を論じ合う仲であった江戸川乱歩の長編小説をちょうど読んでいるところだったので、すごく嬉しくなり、本を持ち寄り回し読みしていた女子校時代のノリで「やっぱり好きなんだー!」とひとり快哉を叫んでしまいました。
怪人二十面相に明智小五郎、少年探偵団などの“探偵小説” (ここではあえて“推理小説”と云わず) に胸ときめかせ心踊らせた小学校時代を経て、中学では作者についてある重要な認識を得ることになりました。
それは、江戸川乱歩は「男色の研究家」であったということ。あぁ道理で!怪人や明智、小林少年の間に何か胸をドキドキさせる只ならぬ気配を感じていたのは自分の錯覚じゃなかった!と深く納得したものでした(この辺の史実、学校では教えてくれないことでした。今はどうなんだろう)。
ところで彼には共同研究者がいて、それが美人画で知られる竹久夢二の愛弟子にして大層な美形としても有名な岩田準一です。
この作品は、そんな江戸川乱歩と岩田準一とが時代の中で互いをどんな風に愛したのかを、九州男児先生がBL的に「こうだったかも」との妄想解釈で描いたものです。
全3巻トータル約90ページで、1・2巻は読み放題あり(各巻150pt)。
あぁ2人の楽しいオタ活ぶりと、奥ゆかしく上品で、ちょっと切ない愛の行方を覗いてみて欲しい…。もっとみる▼ -
あの時、あの場所に、彼が来なかったらネタバレ2021年8月12日このレビューはネタバレを含みます▼ 昼間なのに、目を開けているはずなのに、目の前にかざした自分の手すら輪郭を失う、そんな闇しか見えないほどの絶望をご存知だろうか。
この作品を読み語ろうとする時、自分はもう明日には生きていないのだと思い詰めた20代の時のある夜の情景と、そこにいてくれたある友人の姿が心に蘇る。
愛情も憎しみもあらゆる感情が渾然一体で簡単に捨てられるべくもない家族との激しい軋轢が始まり、疲弊しきった10代の半ば、新たな火種を生むよりも家族の望むよう我を収めて自分の思考も感情も捨てる方が楽になれると、それから絶え間ない“譲歩”を続けた。
20代半ばのある日、もうこれ以上譲ったら自分はカケラも残らないという瀬戸際に立った時、ふっと、もういいか…と思った。もうじゅうぶん頑張った、という思いが静かに心に満ちてきた。当てつけでも何でもなく、ただ力不足だったからここまでが自分の寿命だったんだ、と。でも、こんなダメな自分だけど好きと言ってくれている人達に何も言わずに消えて今までの関係を裏切ることは絶対してはいけない気がして、1人の友人に電話をした。もう、だめかも知れない…と一言やっとの思いで告げただけなのに「すぐ行くからそこで待ってて」と深夜の高速を飛ばしてわずか30分で駆けつけ、助手席に座りポツ、ポツと話す私の右手を握ったまま黙って話を聞き傍にいてくれた。
須藤が、簡単に父親を切り捨てられる性格や思考の持ち主だったら、この物語は生まれてさえいないだろう。父親と真木と婚約者からそれぞれの“最後通牒”を突きつけられ、それぞれに対しあれかこれかでは割りきれない思いを抱きながら奈落の底でもがき苦しんだ末に、一瞬、死の誘惑に駆られた須藤を、真木が文字どおりこの世に繋ぎ止めた。あの場面こそが自分には最もリアルで、この物語の核心とも感じられた。あと少し何かがずれていたとしたら。あの日、あの場所に、あのタイミングで来ることができる可能性をもつ“唯一人”の人である彼が、もし現れなかったら。命を救い救われることもないし、互いの真意を知ることも、共に生きる人生もなかっただろう。
生きていて、生きていてくれて、本当によかった。きっと2人もそう思っているに違いない。
(思い入れがある作品ゆえ、フォロー様方のレビューと少し見解が違う部分はどうか平にご容赦を…) -
お話巧者の作者に、まんまとしてやられたネタバレ2021年8月9日このレビューはネタバレを含みます▼ 76ページに3つの短編。3編とも最後に視点を半回転ずつずらされ「く…っ」とくる、してやられた感。巧みな話運びに悔しいけど踊らされ泣かされた。
【なつの遊戯 美術室の秘密】26ページ。女好きで人気者の後藤に密かに憧れている安部が一人居残る美術室に、後藤の幼馴染みの吉沢が現れて動き出すDK3人の関係が安部目線で描かれる。「用件あるなら…」から立ち始める○亡フラグに「志村(安部)~っ、後ろ~!」と思わず叫びそうになる(ご存知かな)。
【あきの遊戯 友達だけど肉体 関係】(タイトル…) 24ページ。前編の3人+1人の関係を後藤目線で描いたお話。10人中9人はきっと、彼をかわいそうと思うはず。彼が何をしたって言うの?と。あぁ、何もしていないよね…。だからこそ残酷。
【幽霊と秘密の性活~みだらに同棲中~】(いつぞやの三流サブタイトルの悪夢ふたたび)26ページ。澄彦(すみひこ)の前に現れた死んだはずの鳩羽(とば)。生前の鳩羽と澄彦のやり取りが可愛いだけに現実に対して二人それぞれが感じている悲痛さが生々しく他人事に思えず、一度読む手が止まりました。一つの言葉が真逆の意味を帯びて人を苦しめるその理由が胸に迫る。
(クーポンで8/11まで40% OFF)
※作品は紹介文とは似ても似つかないお話です
短編には長編とは異なる短編独自のレビューの難しさがあると感じていて、あらすじ即ネタバラシになりそう、とは言え「取りあえず読んでみて」の連呼ばかりでも伝わらないかも知れず、何を捨て何を拾うか常に迷います… -
二人のオタオタにハラハラして、ヘロヘロネタバレ2021年8月8日このレビューはネタバレを含みます▼ 困難な壁が出現!さて問題。そんな時、あなたならどうする?何くそと正面から乗り越える?それともできることをしようと迂回路を探す?壁の消滅や協力者の登場を願ってしばらく待機する?或いは先に進むことを諦め引き返す、もしくはいっそ何もかも投げ出しちゃう…?人により場合により違うにしても、もし恋人同士の間で違いがあったら…?
「転勤が決まった恋人と過ごす、最後の3日間」というキャッチだけ見、甘切なげなストーリーを勝手に予想しつつ読み始めた冒頭1ページ目、主役の一人が他方に転勤を告げるその告げ方にいきなりフリーズ。
だって2人の関係に直接影響するそんな重大なことを、目も合わさず物を食べながら話すなんて…違和感ありすぎる。しかも最初の一言目は(描かれてないけど) 多分「転勤が決まったよ」の一言だけでしょう?主語も、どこに行くかも、いつから行くのかも、こちらから尋ねて初めて答えるそのお座なり感を目にしたら、あ、別れるつもりなんだ…と自分なら疑心暗鬼になりそう……と思ったら、次のページで志信(しのぶ)も顔を歪ませて同じことを言っていた。わかる!
逃避してるの?強気なフリ?別れの選択を恐れているのは誰?二人は続くの?終わるの?と残り少ない日々のすれ違いにハラハラ。忙しさを装い相手の本心をそれとなく窺い合うやり取りにも気を揉んでヘロヘロ。
関係を築いてきていても不意の出来事にオタオタしてしまう不恰好さも大人の可愛さ。愛してるよ二人とも。志信も最後にふぅとため息をついたかな。やれやれ。
★以下また一時的にすみません★
※これを書き終えて投稿直前にレビュー欄でフォローしている方々の(フォロー前の)レビューを発見。少し見解が違い投稿を迷う……が多様性の一つとして何卒ご容赦を~っ(えい!)> < -
異なる価値観の地平を越えてくるものネタバレ2021年8月4日このレビューはネタバレを含みます▼ 69ページの短編。
「ガーデン」とは花や果物・野菜などを育成・栽培する土地。コンクリートでできたガーデンに捕らわれていたのはどちらなのか…?
一瞬これは倫理観を問う物語と思いそうになりますが、違う見方もできるのかなと思います。倫理というと人間の行いについての戒めで、人が社会生活で守るべき道徳やモラル、行動規範や善悪の基準 云々……要するに「人としてそれってどうなのよ?」と糺すのが倫理。
だが朱鷺(とき)はクローン技術で再生された天使で人間ではないと最初に示され、彼が行う一切は "人間の" 倫理には抵触しない。僕たち人間は他の生き物を食べるけど天使は人間を食べないでと言ったも同然の清春(きよはる)も、その倫理観では朱鷺を納得させられなかった。人間が朱鷺に対してしていることもまた、彼が人間ではないという理由でこの世界では不問にされている。
この物語を倫理による糾弾とは別に考えようとするなら、
「朱鷺さん、大切にされているんですね」
「『優しい考え方』をするんだな君は」
という2人の会話に鍵がある気がします。
何かを判断をする際、先にインプットされている情報やら価値観が基準になる以上、必ず何らかの予断や先入観、ひいき目で物事を見ているはず(自分では世界をありのまま正しく見ているつもりであっても)。あの先生の作品だから間違いないとか(私か…)、逆に坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとか。誰かにとっての最高が別の誰かにとっては最低とか(自萌え他萎え)。価値観の地平を異にする朱鷺と科学者らのように、何をどうしようと相容れない同士はいる。みんなも朱鷺とわかり合いたいんだと性善説に立つ清春が見る世界と、自分を汚れ役として搾取する人間に倦んでいる朱鷺が見る世界とは、両極くらい遠くかけ離れていた。それでも(それだからこそ)その地平を越えて2人の間に血や種属に基づくばかりでない理解と愛が生まれる物語に、何度読んでも感動してしまう。 -
人と人を離し、或いは結びつける言葉とは2021年8月1日私たちが普段日常で交わす会話は、たとえば「ちょっと行ってくる」のように、主語もなければどこへ行くとも言わず、ちょっとがどのくらいの時間(あるいは日数)なのかや、いつ戻ってくるのか(そもそも帰ってくるつもりなのか) すら告げず、しかも直前の会話を受けてではなく数日前のやり取りの続きをいきなり始めた場合であっても、相手と自分とが積み上げ、重ね、撚り合わせてきた関係の文脈の中で大抵は正しく認識・理解される……改めて考えると、これってすごいことですね。
このお話は、気まぐれで田舎にやってきた野島大也(だいや)が3年前から当地に住む尾田川祐介(ゆうすけ)と出会い変わっていく中で言葉により関係を見つめる、40ページの短編です(8/3までセール)。
フォローさま始めレビューされている方々が皆、口を揃えて仰るように絵が本当に美しくリアル。目が痛いほど日差しが眩しい夏の青空、草いきれが感じられる乾いた田舎道、年長者たちの顔に刻まれた優しい笑顔、日が落ちてから縁側で涼む夜風、寝そべった背中に感じる柔らかい畳、そして汗ばんで少し湿った祐介の髪の毛も、大也が胸に感じたヒリヒリする痛みまでもが、ありありとそこに息づいて感じられ、なんとも言えない幸福感に浸りました。もっとみる▼ -
どう救済されるかを、最後まで見届けたい…ネタバレ2021年7月30日このレビューはネタバレを含みます▼ 幼児に性的暴力を振るう胸くそ悪い連中(言葉遣い失礼)の多くは、子供が他の大人に助けを求められないよう「俺にこんなことをさせるお前が悪い/お母さんに知られていいのか?/お前だってこれが好きなんだろ」などと子供を一方的な暴力の被害者ではなく共犯者に仕立て上げることで抵抗を封じるといいます。事の発覚をまぬがれ、或いは自分の罪悪感を軽くするための卑怯の上塗り。立場でも力でも論理でも自分を守る術を持たない幼い矢代がまんまと餌食にされていく様は、見ていて悔しくて吐きそうでした。
望まない性行為を強要され体も心も屈服させられた苦痛を一人で抱えるしかない子供は、苦痛を緩和させる自己防衛として例えば多重人格* や記憶・感覚・意欲の減退、摂食障害や薬物依存などに陥ることも多いといいます(そういえば『残酷な神が支配する』のジェルミや『gift』の勁もそうでした)。「とりあえず生きているだけ」という矢代の言葉に、生きたいとか死にたいとか思う熱量すら持てない彼の乾いた絶望が浮かび上がるようでした。
これまで無価値なガラクタのように自分の体を男たちに投げ出し暴力的性 交を重ねてきた矢代にとり、彼を傷つきやすいもののように隅々まで優しく慈しむ百目鬼の愛し方は、過去に傷ついてなどいないと思い込もうとしてきた矢代の根幹をぐらりと揺るがしたはず。それは吐き気を伴うめまいのような感覚だったことでしょう。
傷ついた自分を認めることは、耐えがたい悪夢も同時によみがえらせるということ。それゆえ通りを歩く母子の姿から目をそらしたり(7巻)記憶を喚起させるものを直視せず固く封印してきた。しかし辛い時には辛いのだと、悲しい記憶を悲しかったのだと感情を解放させることでしか救われない苦痛もある。暴力に泣いていた幼い自分の幻影を見つめ涙した矢代の表情に、ここからどうか救われてくれと祈らずにいられません。
愛し愛されたいと願った友人のためにヤクザに身をやつした矢代。以降の凄惨さの殆どを知らない百目鬼が矢代の本質をそれでも「綺麗だ」と肯定したことが重要だと感じます。
ヨネダコウ先生がこの物語のテーマの1つに「(魂の)救済」をおいていらっしゃるなら、矢代はきっと救われる。それがどのようになされるのか、佳境に入りつつある物語をみなさんと一緒に見届けたいです。
*現在は解離性同一性障害と言うようです -
夢と希望、そして絶望を教えてくれた作品ネタバレ2021年7月27日このレビューはネタバレを含みます▼ *2021/07/29まで還元・立ち読み増量中*
→全320ページ中125ページ=表題作まるっと立読み可。
【11人いる! 】【東の地平 西の永遠(とわ)】【スペースストリート】 の3部立て。
【11人いる!】宇宙大学への入学を夢見る出身星系もバラバラな受験生たち。10人ごとのチームに分けられ試験会場の宇宙船に着くと11人いる!…と始まるお話。トラブルに次ぐトラブル!彼らの合否の行方は?
初めて読んだ中学生当時も結末を知っている今も、手に汗握りストーリーを追います。極限状態で彼ら一人ひとりの取った行動はどれも皆まごうかたなき人間の真の姿で、自分を棚上げして高みから彼らを非難できますかと読み手に突き付けるかのよう。緊迫の中、カッコいいタダと可愛いフロル*の間で育まれる好意に気持ちが救われます。
【東の地平 西の永遠】宇宙大学に入学した仲間と別れて国に戻り王位を継いだ“王さま”から届く招待状。友人代表で訪ねたタダとフロルは突然起きたクーデターに巻き込まれ …?
戦争、陰謀、暗殺、人質。国の対立に人の思惑が交錯し、もつれ、そのほどけない網目の中に夢と希望をもがれて落ちた人の運命に、突っ伏して泣いた当時を思い出します。
自分が知り得た情報だけをもとに形成した"正義" を振りかざし行動する可能性は誰もが持っていて、だからもし彼や彼女(或いは誰か)を100%罪人と糾弾すれば自らも同じ穴の狢になるのだと教えてくれた作品でした。ここでもタダの誠実さとフロルの真っ直ぐさに救われました。
萩尾望都先生の作品との出会いがなかったら、どれほど味気ない人生になっていただろう。ありとあらゆる感情や条理・不条理などを作品の数々で教わった気がします。
1コマ1コマに凝縮されている物語の緻密な構成や重層的なエピソード、展開のスピード感と躍動感、キャラ1人ひとりの粒立った魅力と厚みとリアリティ、細やかな心情描写、美しい描線…どれ一つを取っても誰も追随できない極致にあり、他のレビュアーさまの"唯一無二" という表現こそがピッタリですね。
*フロルを両性と書いているレビューがありますが、男女未分化と仰りたかったのかなと思います -
生涯で、ただ一度きりの恋をしたふたりは…2021年7月25日2018年日本公開の同名の映画をご覧になったことはありますか?(自分は今年の始めにHuluで見ました) イタリアを舞台に、17歳の少年エリオと、アメリカから来た24歳のオリヴァーのひと夏の恋を描いた映画で、人物の佇まいや風景、エリオの純情やナイーブさもオリヴァーの笑顔も、ふたりの恋の駆け引きもキスも愛の交歓も、何もかもがきらきらと輝くような美しさを放っていました。
こちらはその映画の原作(上下巻) です。
エリオの一人称で書かれたこの作品、映画を観るだけでは分からなかった場面の流れやエリオの心情がよく分かった…などという生易しいものではありません。
彼がオリヴァーに夢中で恋をし、その愛を身も心も狂おしいほど欲する一喜一憂が、これでもかと描写されていて、読み手である自分はその感情の奔流に飲み込まれて苦しいほどでした。人はこんなにも瞬間瞬間、絶え間なく感情が動いているものだったかと呆然とするほど。自分なら自分の目からすら隠したくなるようなエゴや惨めさやなりふり構わなさも、つぶさに明らかにされていて、こちらの心臓までやられそうでした。
そして実に、映画はふたりの恋の触り(ハイライト) でしかなかったことに驚愕。いえ、むしろ原作にはあの夏から20年先に至るまでのさらに素晴らしい恋の軌跡が描かれていました。あぁ、本当に読んでよかった…!
一生に一度、出会えるか出会えないかという恋をしたふたりの物語に、何度も胸が震え目に涙が浮かび、身体中がしびれる喜びで満たされました。
(販売終了になる前にDVDやBlu-ray、サントラを購入決定)もっとみる▼ -
"好き"を知らない野間に、試練の予感が…ネタバレ2021年7月24日このレビューはネタバレを含みます▼ *2021/07現在 5話まで*
5話までは、これから野間(のま)に起きる試練の前触れのように感じられました。
野間はこれまで人を好きになったことが多分ない人で、だから他人が自分に寄せる"好き"という気持ちも今は理解できていない 。
なぜそう思うか…例えばこれまで野間の恋愛が長続きしてこなかった理由は明確には描かれていません。が、他ならぬ "野間目線"で進んでいるお話の中で "描かれていない" のは、"野間自身が分かっていない(知らない/考えようとしない)から描かれない" のでは?と思うのです。もし分かっていれば1コマ目の「あなたには僕より相応しい人がいると思う」という言葉は「あなたからは好きだという気持ちが感じられない」という時の常套句の一つだと気づきそうですよね…。
「相良(さがら)の気持ちが分かりにくい」というコメントが散見されるのも同じ理由で、"野間が相良の気持ちを分かっていないから描かれていない"、だから読み手に伝わらない/伝わりにくいのでは…と思います。
実際には1話目だけでも相良の気持ちは作者が暗示してくれている気もします。例えば相良が野間の誕生日を覚えていたこと、野間の転職に合わせ彼の職場に近い物件に引っ越したこと、冗談めかしたポーズでルームシェアを提案したこと、相良自身は他に恋愛相手を作ろうともしないこと…等々、野間の "面倒くさがりで流されやすい" 性質を読んだ上で野間の外堀を埋め、取り込んでいく…なかなかの策士だと思いました(もっとも相良なりに必死なのかも知れませんが)。
人の"好き"を理解できるためには自分も人を好きにならねばならない(逆もまた真)。両思いになるには、野間が自分を理解し相良を理解できるよう色々変わる必要がありそうです。
とは言えあくまで個人的予想にすぎず、日常的関係の描写のまま終わるのかも知れませんが。 -
脳内に大放出した快感物質に、もぅ溺れそう2021年7月23日*2021/07現在4話まで*
とある時代のとある国。踊り子で男娼、囚われの身のヨルがハイブリッド種* のアムランに買われ身請けされる。ヨルの戸惑いをよそにアムランはヨルを見知っているようで… と、この導入部だけで好みの要素は幾つ入ってた?と息が荒くなりそうな萌え設定。
流麗なラインが描く体の躍動感としなやかさが絡みの激しさと美しさを倍増し、陶然となります。アムランの神秘性と獣性を見ると脳内にドーパミンやエンドルフィンが放出して多幸感に包まれ、心と体の感じやすさを映すヨルの生き生きした表情に心臓を撃ち抜かれました(もはや"死に体"状態)。
ちなみにアムラン獣ver.の動物は、1日約50回 (1回約20秒) 交尾することで知られ、作者さまもそれをご存知の上でのアレのよう…?(ケニア等ではオス同士のカップリングも実際に目撃されるそうです)
あるキーワードが2回登場し、トランプの神経衰弱よろしく2枚抜きしてわかった事実はあれど、まだまだ伏せられたカードが多く楽しみが続きそうで嬉しい!
表紙の美しい2人がずっと気になりつつ単話売りだからと目を逸らしていましたが、最新4話が出た機会にレビュー欄をチラ見。いまフォローしている方々がフォロー以前に相次いで陥落していた…のが購入の決め手です(いや自分のせい!…でも"信玄餅"でコーヒー吹きました )。
*ハイブリッド種:作中、人間⇔獣に姿形の変容が自在で秀でた能力をもつ高等種もっとみる▼ -
いつか結晶化するように、と記される物語2021年7月22日宮沢賢治や長野まゆみの著書を通じて鉱物に魅せられた一人ゆえ、この作品を手に取らずにいられませんでした(厳密にはスマホにダウンロードですが)。
石の研究者・ベントが、鉱石を食べるイーリスと出会い、旅を共にしようと持ちかけて始まるお話。
細密画のように繊細で美しい絵が綴るのは、鉱石のように硬質で静謐な物語。一つひとつの出来事をことさらに大げさに描き出さない表現が生々しさを削ぎ落とし、エピソードの細部に捕らわれてしまいがちな読み手の注意を彼らの心情、心の絆の変化に集中させます。
同時に、真っ青な空とか虹色にきらめく瞳といった言葉一つでいま目にしている絵に心の中でただちに彩色を完了させる変換力や、静止画のようなコマとコマを脳内でなめらかに繋げられる補完力が読み手に求められていると感じました(要は想像力です)。
作者がファンタジーの王道を詰め込んだと言う通り、幻の種族、生き別れ、善良な年長者、旅の道連れ、苦難と克服、人を信じること、生きる目標…などを始め物語を盛り上げる魅力要素がいっぱいです!
時を止めることはできず記憶は風化していこうとも、未来の誰かに届けと願いを込めて記す目録に果たして何が書いてあるのか、作者が読み手に想像の自由をくれたことも嬉しい。
種族の血ゆえ少年と見紛う外見でもイーリスは25才。その年齢に、俺はあと×年は生きるというベントの発言、さらにこの時代の医療や寿命は現代ほど高くないだろうとの推測を加味すると、無精髭で年嵩に見えても意外やベントは30才くらい…?人生という旅を共にすることにした血の繋がらない兄弟のような2人、とイメージして読み返しました。もっとみる▼ -
きっと今日も、どこかの空の下でふたりは…2021年7月19日山麓の村で薬草の売買を生業にしているオンブラが、ある日引き会わされたのは、病気の友人のためにとある薬草を探しているというシリウス王子。協力する代わりに山中の小屋で家事をすることを求めるが、オンブラにはシリウスに対して実は屈託があるようで…?と始まるお話。
小屋への道すがら、オンブラが示した無自覚な気遣いに気づくシリウスに、あぁこの人は、ただ蝶よ花よと一方的にかしずかれ与えられてばかりだっただけの王子ではなさそうだ、と分かります(後に、凄絶な過去の一端が明らかに…)。他者に優しくできない人が、他者から示されたものが優しさだと気づけるはずがない。ささやかな人の気遣いに気づき感謝できるのは、自分も同じように人に気を配り心を砕いたことがあるからに他ならない。シリウスの生来の気質、気だては、ある方のレビューにある「無垢で曇りがない分、芯が強い」という表現がピッタリです。
他方、オンブラは王子に対し憎しみを滾らせているようでいて、とある因縁ゆえに憎まなければならないんだと必死に自分に言い聞かせ奮い立たせていることが見てとれ、その心を思うと辛い。
愛と憎しみは、あたかも白と黒のように「反対・真逆」のものとの認識が普通だ。が、本当にそうなのか。白に1滴ずつ黒を混ぜていって黒に到達した時(同じく黒に1滴ずつ白を加えていって白に到達した時)、間には無数のグレーが存在することになる。同様に、仮に一点の曇りもない愛と憎しみがそれぞれ存在するとしても、間に無数に存在するグレーの感情がその2つを繋いでいるとすれば、「憎みたい/憎んでいる」と「愛したい/愛している」は1つのループ(輪)の上にある感情であって、相反するものとは言い切れない(むしろ、愛と憎しみの本質的な反対概念は無関心だ、と言われてもいます)。それゆえ、オンブラの心理は「憎しみが愛にいきなり逆転した」のではなく、感情が1滴ずつ溶け込んでいくことで「憎しみから愛へと移行していった」のだと表現できるでしょう。
異なる2つの言葉で分けられたために引き裂かれた感情と、子供が背負うにはあまりに重い枷をよくぞ耐えてきたねと言ってあげたい。きっと今日も、どこかの空の下で、シリウスの可愛い誘いに抵抗できずにいることでしょう。
1ミリの誤解の余地もないほど細部まで丁寧に説明された作風で、読み手はハッピーエンドを信じて読むことができます。素敵なおとぎ話でした。もっとみる▼ -
いま、この時に会えて、よかった2021年7月17日フォローしている方のレビュー冒頭の「まっさらで読みたい方はレビュー読まずにどうぞ」の言葉にフラッと心惹かれ、そのままレビューも作品紹介も見ずに読みました。そして改めて先の「予想を全て覆されて泣けた」というレビュータイトルの言葉が沁みました。
先日まで看病が続き、そこに暑さ疲れも重なって熱を出し2日ほど寝込んでいる間、うつらうつらしている合間合間に、兄も父も亡くなって昔からの自分を知ってくれているのはもう母しかいないんだなぁ、とぼんやり考えていたところだったので、両親と兄弟との関係の割り切れなさや祖父母の慈愛を示すエピソードの幾つかが、思いも掛けない深さで胸に刺さりました。
あるいはもしかしたら、過去のいつかの時点で自分は、同じような過去を持つ主人公たちの同じような話を読んだことがあったかも知れません。それでも、いま、このタイミングで読めたことに勝る感動はないと思いました。
人よりも抜きん出ていなければ愛される資格はないと思い詰めていた魂と、愛されるためには人と同じでなければならないと思い込んでいた2つの魂が出会い、起こした奇跡。
このお話に出会わせてくださったフォローさまに感謝します。もっとみる▼ -
茅根と井関よ、永遠なれ!ネタバレ2021年7月16日このレビューはネタバレを含みます▼ ヤンキー高校の美形教師・茅根律(かやねりつ)と彼が担任している硬派なヤンキー生徒・井関瞳悟(いせきとうご)の恋物語。『ファンキー・ヤンキー・ベイビーくん』の続編。
学校では生徒指導をきちんとし崩れたところは何も感じさせないのに、どこか危なっかしい茅根。男たちを惑わす煽情的な空気感をまとっているのに本人は無自覚・無頓着・無警戒で隙だらけ、すぐ男たちにつけこまれてしまう。おまけに冷蔵庫の中はほぼ空で生活能力もほぼ皆無。このアンバランスさは、どこから来るのか?
茅根の無防備な可愛さに瞬殺された井関の前に立ちはだかる茅根の過去の男・滝口篤哉(たきぐちあつや)。最近のヤクザらしく下部組織とはいえ幹部なので汗水たらしてシノギをしないのか、たびたび茅根や井関の前に出没します。ですが (解釈が分かれるところですが) 滝口自身は茅根のことを、気に入りの玩具程度にしか思っていないなと感じました。ただその気に入り方というのは、肉体的・精神的に痛めつけた相手が苦しんだり悲しんだりすることで己の嗜虐心を満足させてくれる存在だという意味でのお気に入りなのだろうと…。あるフォロー様の言う通り"筆舌に尽くしがたい"悪そのもの。
信じた男の手引きで十代で痛めつけられた記憶が幾度も茅根の体を竦ませます。心の一番大事なところで人を信じ愛し、人からも信じ愛された感覚を持てないと人の心は荒んでいく。もともと養子で寂しさを抱えていたことと相まって、投げやりで生活感のない生き方しかできなかったのかも知れないと思いました。
でもどんな苦しい過去があっても他者の言葉と行動によって恐怖心を克服し、再び人を愛せるようになるのだと信じようと思えたお話でした。
ま、それはさておき初めてのベッドインであんなことされた日にゃ、井関のロープほどの太さの忍耐力では言わずもがな、ナイロンザイル並みだったとしてもブチッと行っちゃうよ…。
絵柄については…いまベテランでもデビュー当初は既存作家似と言われ続けた作家様たちや、自ら他作家の影響を受けたと公言している先生方もおられ、自分は気にしませんでした。
(フォローしている方の優しいコメントに原形なく溶けました…自分こそ日々励みにしています。そして別のフォロー様。目が早く快復されますように) -
言葉や理屈より、拳でわかる愛もある…!2021年7月16日姫野菊華(ひめのきっか):ヤンキー高校の2年で番長。色白で小柄、パッと見は可憐なDK。だがその実体は、喧嘩じゃ負け知らずの男気のカタマリ。
千秋実朝(ちあきさねとも):金融関係勤務(いわゆる借金の取立屋)。長身でメガネの一見インテリ色男。だがその実体は、胡散臭い笑顔と腕っぷしに自信ありの変態。
これは、主役の二人を筆頭に、男たちが手加減なく殴り合うバトルシーンが痛快で爽快な少年漫画ときどきBL、です。
「喧嘩?殴り合い?野蛮!」と早合点するなかれ。喧嘩する連中イコール理力・知力が低い脳筋と思ってはおられまいか?そうではないのだ。素手で殴り合うということは、ただ己の身一つで相手に真っ向から対峙すること。殴った方も殴られた方と同じほどのダメージをその拳に受ける。だから全力でぶつかり合うそのぶつかり方で、自分そして相手がどんな人間であるかを誤魔化しようもなくさらし合い丸ごと受け入れることになる。まさに言語化する以前に "身を以って知る" 境地、「我と汝」なのだ。「対話」なのだ。
あぁ、彼らのバトルシーンを見ていると幽☆遊☆白書やHUNTER×HUNTER、BLEACHに胸を熱くしていた時代を思い出す…!
菊華の友人のイケメンず・高久潤平(たかひさじゅんぺい)と井関瞳悟(いせきとうご)、美形な担任教師の茅根(かやね)、先代番長の松久保(まつくぼ)、山園学園理事の甥っこ・"坊っちゃん"こと山園優(やまぞのすぐる)など、エピソードに事欠かなさげな美味しいキャラが揃い踏みで、もっと彼らの話をたくさん読みたい…!
そしてバトルが激しいほど一口が激甘に感じる、あのシーン。相手を好きすぎると却って相手の気持ちを読み損なうリアル。でも、人が誰にでも100%本音を言ってると思うなよ、千秋~(苦笑)。もっとみる▼ -
愛すればこそ、の迷走もあり2021年7月13日以前、ある小説家が、自分は出版社やSNSを通じて読者の声を知る他に書籍販売サイトなどにレビューを見に行くことがあり、レビューの数=読者数ではないがレビューが少ないと手に取りにくい人もいるだろうと思うと、どうか一言でもレビューをお願いしますと祈る自分もいる、と笑っておられました。
レビューが多い人気作や優れたレビュアーの方達が投稿している作品は安心ですが、自分が感動や色々な感情をもらった作品にレビューが少ないと、私もごまめの歯ぎしりであっても何かできることはないかと落ち着きません…。
このお話は、広告代理店勤務の木野一(はじめ)が、誰にも内緒の週末ごとのお楽しみ(着ぐるみイベントに行くこと) の最中、ついに理想の"恋人"に出会う…という55ページの短編です。
主人公が、着ぐるみモルモル愛が高じてまんまと公私混同してのけたり(?)、モルモルとそれを演じる加賀谷を天秤にかけてみたりと、可愛くておかしくてハラハラするエピソードがテンポよく続きます。恋も初めてのあれも瑞々しい!
宇喜多作品を読むのは『switch』『鵺』に続き3作目ですが、自分が文章を読み書きする時のリズムと近い部分がある気がしています。
タタタ、タタタ、タタタ、タ、タタタ、タタタ、タ…
タタタ、タタタ、タタタ、タ、タタタ、タタタ、タタタ、タ…
ある作品に惹かれる理由にはそういうこともあるなぁと改めて気づかせてくれる作品でした。
ところで冒頭の小説家は、レビューの内容をどう思うかと訊かれ、作品を送り出したからには肯定・否定どう思われてもいいと言った上で、レビューには面白かった辛かった泣けた笑ったという読後感を綴ったものや内容に踏み込んで考察するものなど色々あることがよく、自分のフィーリングに合うレビューを探すのは楽しいと思う、自分自身は本の内容紹介プラス考察というオーソドックスな書評スタイルがしっくりくる…というようなお話をされ、そういうものか、と感じたことを覚えています。
自分がレビューを書くようになってからは常にそれが頭のどこかにあり、内容紹介に挑戦しますが、いつしか迷路に入り込み、"紹介"ならぬ"暴露"になって猛省、つい先頃も投稿後ものの数時間で書き直す羽目に…。あぁ、穴があったら己を埋めてやりたい(運悪く配慮に欠けたレビューを目にされた皆様には心の底からお詫びします)。もっとみる▼ -
鍵のかかる部屋に、封印するものは…?ネタバレ2021年7月12日このレビューはネタバレを含みます▼ 大学卒業後8年ぶりに偶然再会した沢村と萩野。ほどなく互いがゲイだと知ることになり…?と始まるお話。
わずか15ページのこの物語、少々「問題作」の様相を見せ、作者推しで文句なく高評価という声のほか続編を求める声(2人のラブが見たいから/短かすぎて分からないから)もある一方、やはり低評価の声(短い/物足りない/恋人がいるのに浮気したから)も結構あり…。
ただ、学生時代は親友同士だったのにずっと会わなかったのには相応の理由があったに違いなく、「お互いに臆病だったんだろうな…」という沢村の独白が、紺野先生が残してくださった手掛かりかなと思いました。
何に対する"臆病"? 学生というまだ社会において何者でもない身で先が見えない恋に踏み出す不安? うまくいかなくなったら友人同士としての思い出も失くすかも知れないことへの不安?
(モラル重視派の方々には受け入れてもらえないだろう個人的意見ですが) 何にせよ、2人が臆病ゆえに中途半端な形で思い出の中に置いてきた「恋」に終止符を打つためにしたことだという気がしました。長い恋患いだったから事後数日は反動や余韻があったでしょうが、沢村のあれは「これでお互い決着できた」という表情に思えました (だからもちろん続編不要でしょうし、あったとしても別CPの脇で少しエピソード紹介される程度でいい気が…。同じ出版業界にいるライターと編集者ですしそれならありそう?)。
今度こそ本当に恋に決別して鍵のかかる部屋に封印する、という意味なのかな…?と。 -
テオとフィンセント、互いが宿命だった二人ネタバレ2021年7月11日このレビューはネタバレを含みます▼ 19世紀末を生きた2人の天才、フィンセント・ファン・ゴッホと弟のテオドルス・ファン・ゴッホの知られざる愛憎の軌跡とその生涯を描いた作品。
兄と弟として生まれ落ちた2人はお互いを、ずば抜けた才能の持ち主だと気づき、その才能を愛し誇りにも思う一方で、なぜそれが自分には与えられなかったのかと失望し、その才能を羨むとともに憎みもします。
ただ唯一確かだったのは、彼がいなければ今の/これからの自分はいないこと。逆もまた真なりで、自分がいなければ今の/これからの彼はいないことも、分かり過ぎるほど分かっていた。愛も喜びも憎しみも怒りも互いの運命をも分かち合おうとした瞬間は、ドラマチックで感動的でした。
フィンセントが、偶然出会ったある家族の亡くなったばかりの長男の絵を描いて贈ったエピソードには泣きました。大切な人を亡くすと、してあげられなかった事ばかりを思い返して自分を責める日々が何年も続いたりします。そんな後悔や自責の念に沈みながら思い浮かべるかの人は悲しそうで苦しそうな表情ばかり。フィンセントの絵が、この先この家族の気持ちをどれほど救うことになるだろうと思うと胸がいっぱいになりました。
「大人のBL」という触れ込みがあったそうですが、個人的には兄と弟の間にそれは全く感じません。ただテオがとても魅力的なので、評論家のボドリアールやアカデミーのジェローム卿、戯曲家のジャン・サントロにひょっとしてロートレックもみんなテオに …?という想像(妄想) の余地は感じました。
なお、「史実/実話と違う」という評をネット上でもあちこちで見かけましたが、ことこの作品に限ってはその議論は無意味なはず…なぜってこの作品は、これまで私たちが史実や実話として信じていた通説に挑戦するお話だからです (地球の周りを他の天体が回っていると思ってきたでしょうが実は地球が自転しつつ太陽の周りを回っているんですよ、的な)。
作者が素晴らしい想像力と創造力を発揮し、歴史上の人物たちの姿を借りながら、表現したいテーマを描いた壮大な物語。「もしかしたらこうだったかも知れない」という彼らのアナザーストーリーを読めて自分は良かった。それに尽きます。 -
作品紹介は読まずに、どうぞ…ネタバレ2021年7月10日このレビューはネタバレを含みます▼ 八重澤高峰(たかね)とアレックス・ウォン。超高級ホテルのスィートルーム専属バトラーと中国人の富裕な美形実業家として出会った2人。気づいた時には、もう恋をしていた…。
読み始めて間もなく「ん?この人、本当にバトラー?」と違和感を感じます。何か言われるたびにいちいち驚いたり慌てたり、あまつさえ「は……?」なんて言い返したり …。そこに阿部佳さん*や新井直之さん**がいらしたら「あらあら」「おやおや」とたしなめられそうな素人くささ。
いったい、それはなぜなのか?その理由となっている事情(それぞれが負う背景) が、2人の物語をドラマチックに、かつ、やるせなくする所以となっています(ですから、作品紹介文でいきなり暴露されていることに驚愕。読まない方がいいです。これでは118ページしかないお話の少なくとも最初の16ページ、ことによっては丸ごと全部、読む楽しさを奪うようなもの。これを書くなら作品紹介文にも「ネタバレを含みます」表示をつけて欲しい…)。
こんな事情を抱えて人に恋をするとどんな気持ちがするものかとじっくり想像することで、その先の物語をより味わえることは間違いありません。
恋する人をただ見つめるだけでフワフワと浮き立つ心地がしたり、同じ空間にいるだけなのに幸せで胸がジンと熱くなったり、恋しい相手の元恋人の存在に心乱れたり、なのに相手の「好き」に「好き」と返せなくて苦悩したり……するだろうなぁと想像したり共感したりする楽しさを、英田先生の巧みな筆運びで存分に味わえます。先生お得意の「品があるのに、いやらしい」あのシーンもラストも堪能しました!
続きはいらない派です。ゲップが出るほど(失礼)満腹になるより腹八分目が好きなので。あぁ、妄想って楽しいなぁ。
*阿部佳さん:『わたしはコンシェルジュ』(講談社文庫)
**新井直之さん:『執事のダンドリ手帳』(クロスメディア・パブリッシング) -
「本番いきます」「え!?いきなり本番!?」ネタバレ2021年7月8日このレビューはネタバレを含みます▼ (2021/07/31まで読み放題)
時代はちょうど第3次声優ブームでTVゲームやBLのドラマCDがガンガン製作され始めていた頃。ある日、声優の久江信乃の元を、離婚した妻が女手ひとつで育てた高校生の息子・南夏也(なかや)が訪れるところから物語は始まります。
2人分の生活費のため、そして声優としての幅を広げるためBLドラマ界に乗り出した信乃は、天性の「受け声」で一躍人気者に。その一方でBLドラマを地で行くように同業・同性の小泉天竜や水沢輝志(てるし)に迫られ、一瞬も気が抜けず…?
お話の導入部は、セオリー通り主要キャラ達の人となりを紹介するエピソードでスロースタート。今どきのスピーディな(ちょっぴりお手軽尻軽な)BLを求めている方には少々じれったい始まりかも。ですが、恋愛に発展していく布石はしっかり打たれていき、展開にワクワクしながら気づけば一気読みしていた、となること請け合いです。
作者の高口先生が激愛する声優の大塚明夫さんにアテ書きした(と噂の)小泉天竜×久江信乃の声優CPおよび信乃の息子・南夏也×布施映日(あきひ)のアイスホッケーCPを中心に、男同士で惹かれあい愛しあう葛藤と陶酔が描かれます。
とにかく天竜という男、いい男すぎて、しんどい!余裕の構えで信乃を口説いていたはずのその天竜が、涙もろく天然で男殺しの信乃におちていく過程はいっそ官能的です。
紙版の初出は1996年。「BLドラマ声優たちが実際に恋愛していたら? 」というファンたちの妄想を具現化した先駆的作品です(ドラマCDは口説き文句や喘ぎ声のたびに腰が砕けました…)。
フォローしている方のレビュー発見!(嬉) 先生が絵で作る雰囲気は本当にエロいですよね。 -
画面から、ほとばしるものネタバレ2021年7月6日このレビューはネタバレを含みます▼ 捜査検事の日浦は悩まされていた--傷害事件に巻き込まれ消息不明となった司法修習同期の弁護士・影山が、毎晩やって来ては自分を抱く夢とも現実ともつかない感覚に。会いたい…その一念で事件の真相と影山の行方を追いかけ暴いた真実とは…?
伝奇やホラー、オカルト、ミステリー、はたまたSFやファンタジー系がお好きなら、影山の弟が家のあちこちにぶつかっては小さい傷を作っているというお馴染みの描写を見て「二人羽織的なアレねー」とピンと来そうですが、その要素が、それをなさしめる人の情念の底深さを感じさせ読み手の官能を突きます。それは同時に、生死を推し測る唯一の手掛かりでもあるため、影山が現れなくなり焦燥感でいても立ってもいられなくなった日浦にこちらの感情も同化し、緊張を孕んだまま一気にクライマックスまで導かれました。
日浦目線で描かれる2人(3人)の表情は、あのシーンであってさえ抑制が効き淡々としているというのに、たとえば昔のアルバムを見ていて心情を吐露する場面では、どれほどの激しさとひたむきさで互いを欲しているかが画面からほとばしるように伝わり、その対比に胸が熱くなりました。
熱いと言えばレビュアーの皆さんの視点と表現力がすごすぎて胸熱です。確かに魂が呼びあってました!日浦のパンむぐむぐ、嬉しさを我慢しきれず口元が歪んじゃうニヤ顔(たまりません)!西田先生のお宝コメントは最高ですし、この作品は「愛読書」ですし表紙絵は待受にしたい!はぁ、拾いきれない…(今さら自分がレビューする意味あるのか…?)
自分がフォローしているある方が別の作品のレビューの文頭に、ともすると「好きすぎるとレビューしそびれてしまう」と仰っていました。まさに…! レビューを書くと自分の中で一つ区切りがついてしまうのか、作品に一旦サヨナラするような気がして寂しくなり、思い入れのある作品ほど片手間にレビューしたくはありません。去年約10年ぶりにBLに戻り1年間リハビリのように読んできた中で再会した西田作品の数々。レビュー始めたばかりで早くも好きな気持ちとの板挟みに…。 -
萌えが過ぎて、今にも死にそうです…ネタバレ2021年7月4日このレビューはネタバレを含みます▼ 中編と短編の2つのお話。
[ラブストーリー] 中世、スペイン(たぶん)。助修士ダニエルと騎士レオナルドが4度出会い恋をしていくお話ですが、なんと言っても見所の1つは、2人が 2ターン連続で「目で会話する」こと、そしてその視線の応酬で何を伝えあったか見ているこちらにも分かること…!1ターンならまだしも2ターン、しかもそれが数回。まんまと萌えに突き落とされました(はぁ)。
ダニエルの表情の変化にもときめきます。
がしかし獣道を行く自分的に最大の萌えは司教様(ファザー) とダニエルの関係。わずかな言葉からの推測(邪推ともいう) ですが、ダニエルが告解すると言った時は「愛いやつ」と思っただろうなとか、そもそもダニエルが(キリスト教的に) 許されない欲望を持ったのはあなたが原因なのでは?とか、ファザーはダニエルの相手を知りたかったのか~などと妄想が暴走して、もぅ… (死)。
ところで、意気消沈の表現がハゲワシに突っつかれる腐肉って……空前絶後ですよ、西田先生。
[パラダイス・パラダイス] 出張で南国にやってきた海外事業部の野沢次長と技術部の柚木は、帰国を前に船のトラブルで無人島に漂着し…?と、消費期限が昭和で切れてたはずのストーリー設定、なのに、あぁ確かにこの人はこう考えそうだし言いそう~、とか、うゎこんな何でもない時にそんな流し目を寄越すなよぉ、とか、そのまま覆いかぶされ~、とか、もぅ満ち足りちゃった顔をして~、とか、ホントずるいよ次長~などと悶えている内に、設定がなんだバカヤローという気持ちになりました。
…もう萌えが過ぎて、思考も死にかけです。 -
つらいだろうけれど、応援したいネタバレ2021年7月3日このレビューはネタバレを含みます▼ 【みえない友達】の読み始めは、こーちゃんとゆうとが『毎日野球や虫取りして法面から落ちたり』する場面や『男の遊びと初恋感がごちゃごちゃ』に対して「うんうん、小学校低学年の頃ってそうだよね!」とうなずきながら楽しんでいた、ら……ゆうちゃんのことが事件になっていない、の辺りから「もしかして…」とイヤな予感が。
(刑事)事件として扱われていないってことは、そちら側が「善」で逆側が「悪」だということだろうし、つまりは悪と認定される「何か」が現に起きたということなんだろう…いやだ…知りたくない…。
そして、ゆうちゃんを連れていったのが誰でどんな職業か明らかになったことで、予感が確信に。『半年間にあったことは全て… 』のくだりは辛くて途中でいったん本を閉じ、もとい、スマホを伏せました。
何度もフラッシュバックする過去の辛い記憶がいかに人間にダメージを与えるか。様々な文献で読んだり、そうした記憶を「消去」する施術について耳にした人もいるでしょう。
辛いことは忘れたいし無かったことにしたいと思うのは当たり前の人情。でも或る出来事だけ都合よく忘れることは難しい。じゃあまとめて消せばいい、と研究した人達が実在するのです。でも私にはその先が恐ろしい。一定の記憶を失くしたことに気づかずにいる間はいい。でも大切な思い出も一緒に失ってしまったと知る時はきっと来るはず (え、覚えてないの?と人に指摘されるなどして)。一部記憶が欠落していると知ってなお、自己同一性(自分は連続・一貫していて同じ一人の自分だ、という感覚)を保てる?昨日の自分と今日の自分は同じ、と確信できないのでは?そんな心もとない感覚で生きる人生で幸福を感じられるの…?
苦しまぬよう忘れさせようとした人たちの気持ちは愛の一種には違いなくとも「しろう君はお前のことなんて夜見た夢のように忘れてる」とまで言う必要はあった…?
記憶を取り戻す決心をした彼を応援したいです。
草間先生がこの物語を、何もかもつまびらかにする創造主(神) の視点では描かなかったことが、話が分かりづらいというレビューにつながっていると思いますが、むしろそこがリアルでいいと感じます。「自分は何もかもお見通し」と自信満々な人達こそ「何も分かってないな」と思うこと、ありませんか?出来事の経緯も人の心情も「よく分からないなぁ」と謙虚に思うくらいで丁度いいと先生が仰っている気がしました。 -
誰になんと言われようと、好きなんだ!2021年7月1日修道騎士の美しき司令官レオナールを敵の帝国軍将軍ジェマルが国に連れ帰るところから始まるお話。修道騎士ってことは中世の十字軍?どこの?…と即座に思われた方はかなりの歴史好きとお見受けしますが、こと、この作品については背景など深く考えずに物語として楽しんだもの勝ちかと…。
個人的には、絵を愛でる作品と思っています(もちろんお話も大好きですが)。伏し目がちにした横顔。吐息をもらす唇。背後から切りつけられ思わずのけぞる体。闘技場を上から見下ろす視界…。漫画家だから当然だよと言われればそれまでなのですが、小笠原先生は本当に「描く」ことがお好きなんだなぁ~と感じ入り、アングルの一つひとつにまで見入ってしまいます。
あぁ、絵を愛でると言うことでは、数あるあのシーンも外せない魅力。レビュー欄をご覧になれば、レビュアーの皆さま方の興奮の理由がおわかりいただけるはず。
ともあれ、誰がなんと言おうとジェマルはレオナールが好きだし、レオナールはジェマルが好きなんです。そして私もこの作品が好きなんだ!それだけです。
(午前3時起きで仕事に仕掛かる生活3日目、自分がフォローしている方々のレビューに癒しと感動と勇気をいただいていることに心からの感謝を捧げます)もっとみる▼ -
何度でも浸りたくなる世界観ネタバレ2021年6月29日このレビューはネタバレを含みます▼ (2021年7月8日まで値引) 時は昭和初期に近いある時代(作者註)、所は吉原の料亭[幻月楼]。主役は老舗味噌屋の若旦那にして目元涼しい二枚目・升一郎と、芸事より怪談が得意な幇間にして実は役者並の容色の持ち主・与三郎。殺しや怪異な事件の解明を軸に、二人の男の駆け引きの行方は …?と、ここまでで「王道か」と速断されるのは忍びない…。
今よりももっと夜の闇が深く、幻想と現実の境界がはっきりしない狭間にあるような世界。のらりくらり、引いては引かれ、いつまでも定まらない二人の関係に焦らされますが、それが不思議といい心地です。
「ああ、もうしょうがないお人だよ」「おいたをなさっちゃいけませんよ、若旦那」「この勝負、あたしの負けらしい」といった与三郎の口ぶりも物語の艶を深めます。
「切られの与三郎」という二つ名は、歌舞伎の「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の主役から。体中なで切りにされた刀傷は誰によるものか。1巻で明かされるいきさつは凄絶で業の深さに鳥肌が立ちました。
『百鬼夜行抄』(1995-)も大概ゆっくりですが、この『幻月楼奇譚』(2004-)は3-4年に1冊!それでも待とうと思わせる、他では味わえない余情があります。 -
僕の自慢の兄の話ネタバレ2021年6月29日このレビューはネタバレを含みます▼ 自分のことは自分が一番よくわかってる、と信じていたのは幾つの頃までだったかな。実際は全然違っていて、口に出してみて初めて「あ、自分ってこんなこと思っていたんだ …」と自分の気持ちに気づくことも結構ある。このお話の中で母親が息子に対して不用意な発言をした時、言われた本人よりも早くそれをたしなめ、兄を弁護する言葉を口にした自分自身に驚いていた弟のように。
「良い子に育ってくれたと思っていたのに」という発言は「子どもは私が主役の人生劇場を幸せにするための脇役」と考えている印象もあって、親が子に言うワーストフレーズ上位に入っていそうだが、そうは言っても母親の多くは、男だろうと女だろうと息子の相手は大なり小なり気に入らないものらしく、その心情自体は責めきれないな……と周りを見渡してそう思う。今回は男だという口実があって余計反対しやすかっただろう…と言っては皮肉に過ぎるかな。
嵩大は、長男としての役割以外にも孫としての役割、兄としての役割、育ての親的・主婦的な役割などたくさんの役割を生きる中で、我慢に我慢を重ね気を張りつめ続けてきたから、なな君に甘えさせてもらえてやっと息がつけたんだろうな…と、ラスト、彼の屈託のない表情を見てそう感じた。
最も胸打たれたのは弟の最後のモノローグ。「本当は皆に言いたい。格好よくて家族思いでゲイの 僕の自慢の兄の話」--うん、伝わったよ、史くん。私も10年前に亡くなった自慢の兄の話を君にしたいな。
…って、ん!?BLには何一つ触れずじまいか…! -
「夜はおまえのみだらな下僕に…」2021年6月28日王位を継いで2年、17歳の王・ヘルマンが、隣国の王から国の安寧と引換えに身を捧げよと迫られ思い余った末に取った行動は…?
明日には敵に手折られんとする主人公が、恋する相手にはじめてを捧げるというお話は王道でもあるでしょうが、相手の美しい馬丁が騎士のごときリード +α で主人公の体を官能に開いていくそのエロみが、池玲文せんせいの表紙絵の美麗さと相まって、いい味わいになっています。
ストーリーよりはエロ重視の方へ。63ページの短編(アプリ限定)です。
(フォローしている方が手早いエロ補給をご所望のご様子、自分もわずかでもお手伝いできたらと既読の短編から選びました)もっとみる▼ -
行かせてくれ!と走り出したい2021年6月27日(読み放です)
移民街で生きる17歳のユキ(ユキオ)が病弱な弟の入院費のため盗みに押し入ったヤクザの事務所で、青道会若頭・兵藤に出会うところから物語は始まります。
友人から寄せられる好意。過去の因縁との決着。ヤクザの抗争の背後にある思惑。消息を求めて彷徨う、かの地。外しても外しても絡みつく桎梏。誰にも知られてはならない関係 …。
謎が謎を呼び巻を重ねるごとにハラハラが増す……のに、ん?誰と誰がいつ出会っていたっけ?この人たちはどんな因縁?と少々混乱。そこで登場人物たちの相関図を自作してみたらストーリーがクリアに!俄然、面白くなってきました。
いま自分がフォローしている方の(フォローさせていただく以前の) レビューを見つけ感動…!「『囀ずる鳥は羽ばたかない』に匹敵する読みごたえ」というレビューがピッタリです(流石)。
読みながら何度「止めないでくれ!」と叫びながら、制止する家族や友人の手を振り切って物語の街に走って行きたくなったことか(いや行けないし)。兵藤の目がこちらを見るたびに(見てない) ドキっとして思わず目を伏せてしまいます(バカ)。
開いていた物語のループが6巻で戻ってきた感。いよいよ次からクライマックスに向かうはず。私もいつまででも待ってます!もっとみる▼ -
優しいふたりネタバレ2021年6月26日このレビューはネタバレを含みます▼ ずっと好きだったと親友・久野(ひさの)から突然告白され、でも今日で終わりにすると告げられた吉永。出会いから今日まで、共に過ごした10年が実はふたりにとって同じものではなかった―――吉永が、初耳情報の多さにどこからどう考えればよいか分からず、タイムリミットが刻々と迫る中、若干の思考停止に陥っても仕方なかった…と思います。もし言えるものなら言いたかったことでしょう、「考える猶予をくれ」と。
でも、この10年の間、こちらの想像も及ばない思いの数々があったろうに、察しの悪い自分に何ひとつ責める言葉もなじる言葉も投げつけることなく、ただ傍にいた優しい親友に対し、なおも時間をくれなどと言えようはずもない。
吉永にとっても久野は紛れもなく大事な存在で、だからこそ精一杯の真心で応えたい。それが「俺だってお前のこと大切にしたいよ」という独白の「俺だって」に現れている気がします。できもしない約束や、いっときの気休めを口にして久野の苦しみをさらに長引かせることなく「ごめん」と告げた吉永は素敵で、彼の目に滲む涙は優しいなと思いました。
そして久野は―――彼には、この半日がどんな風に進み、どんな風に閉じるのか、、、自分の告白に対して吉永がどんな風に驚き、混乱し、そしてどんな風に自分に対峙しようとするか、、、どういう結論を出そうとするかということまで、おそらく予め全て見通し、承知の上だったことでしょう。親友として10年、誰よりもそばに居て、様々なことを分かち合ってきたはずだから。
その上で、それでもこの日、久野は吉永に、自分の長年の思いに応えてもらうつもりは初めからなかったように感じられました。
彼はただ、路地裏で人知れず咲き散るあの桜のように、吉永の目に見えずとも “思い”がそこにあったこと、その存在を知ってもらうことで、その思いが報われ昇華する瞬間を一緒に見届けて欲しかったのではないか、とそんな気がしました。
思いを断ち切るのがどれほど辛いことか。恋を諦めたことがある人なら誰しも久野の涙に共鳴せずにいられないはず。
互いを深く思い合う彼らが、どうか幸せになりますように…。
フォローしている方々のレビューが、また素敵な作品に出会わせてくれました。ありがとうございます。みなさんのレビューを読むといつも、友人たちと思い思いの本を読みながら図書館で過ごした中高時代の優しい時間を思い出します。 -
「恋とは、どんなものかしら」2021年6月25日恋の病にかかった人に現れるハート型の発疹。このアレルギー反応はちょっと厄介でクセモノですよ。
恋愛の何がいいかって、相手の何気ない視線だとか、さりげない言葉だとか、ふとした行動だとかに「も、もしかして嫌われちゃった?」とガクーッとなったり「やっぱり私のこと好きだよね?」とヒャッホ~ゥとなったりするところですよね?(あくまで個人の感想です)。
ちょっとした視線や言葉や行動の裏にある相手の本当の気持ちを、ああかな、こうかなと推量して、当たったり外れたりに一喜一憂。反対にこっちの気持ちを誤解されたりナイスキャッチしてもらえたりにも、一喜一憂。このアゲとサゲが代わりばんこにやってくるのが、しんどいけど醍醐味なんです(あくまで個人の 以下略)。
でも、このアレルギーがあるせいで、「マークがある!ってことは好きってことだよね」と結論に飛びつきかねない。「相手にハートマークが出てるイコールこちらのことが好き」「こっちにマークが出たイコール相手のことが好き」と『わかったつもり』になっちゃう。言葉で確かめるまでもなく気持ちは明らかだ!となっちゃいかねない。
それでいいじゃん?何か問題ある?
うん、確かに、もし人間の気持ちが全部「あれかこれか」「オンかオフか」「好きか嫌いか」だけでできているなら、それもいい。でも人の気持ちって「好きだけど(今は)嫌い」「トータル好きだけど、ここは嫌い」とか、グラデーションだったりするから、大雑把な二択では自分でも把握できないし相手にも伝え切れない。
抗アレルギー薬に「飲むと、好きという気持ちが自覚しにくくなる」という副反応を設定された末広マチ先生は天才ですね。ハートマークは可愛いし一見わかりやすいけど、やっぱり生き生きとした気持ちを言葉と態度でも相手に伝えたい!
このお話の二人は、小さい時いじめっ子から守り守られた幼馴染み同士。誰よりも強い絆と思いで結ばれている王道の安心設定、ピュアッピュア系BLで、気持ちが前向きになれます!
フォローしている方がこのお話を紹介してくれました。ありがとうございます。さ、私は嵐のヤツに「お前はモーツァルトか(ケルビーノのアリアか)!」とツッコミを入れつつ、王道を離れて獣道に行こうかな?もっとみる▼ -
周囲を軽々とブン回すアーニャが好き2021年6月25日冷戦下、西国(ウェスタリス)のスパイのエース、ロイド・フォージャー(暗号名・黄昏)が、こちらもそれぞれワケあり・思惑ありのヨルとアーニャを妻と娘に仕立てて偽装家族を演じつつ、東国(オスタニア)総裁を監視する任務に奮闘するお話。
任務遂行中の黄昏のクールな格好よさをスタイリッシュで洗練された絵で描きながら、他のキャラと絡んで話がコメディに転ぶおかしみがクセになります。
「スパイが主役なら or このキャラ設定なら、ストーリーはこうあるべき」「この先のエピソードはきっとこうなる」などという、我々読み手たちの古くさく月並みな想像をあっさり裏切り、キャラの過去のシリアスな因縁や、私たちの日々の閉塞感すら軽くかわしながら疾駆していく展開が痛快です。
この晴れ晴れと軽やかな魅力を体現しているのがアーニャですよね!ボケであると同時にツッコミでもあり、その生来の特質ゆえ、混乱した事態を俯瞰する一方でますます攪(カク)乱もする。状況に振り回されているようで逆に周囲をブン回す!時にユーモラス、時にシニカル、ネガティブとポジティブをクルクル行き来する彼女の発言や表情が私たちを魅了してやみません。
各巻の表紙絵がミリタリー感あるオリーブドラブ色で統一されていてオシャレ、かつ、キャラにぴったりな椅子とか遊びのある小物配置にくすぐられます。ダークファンタジーにお疲れ気味の皆さまや、ギャグや物語性が好きな諸姉諸兄、だけでなく、ディテール好きな方々にも、ぜひ。
シーズンを重ねるにつれ、いっそうきらめきを増すオープニングとエンディングの映像と、軽快で洒落た音楽。息づかいまでもが「彼らそのもの」だと思わせる声優陣の演技。この作品の魅力のひとつが「軽妙洒脱」(=あっさりしている中に面白味があり、洗練されていること) だと改めて感じさせてくれるアニメも、言わずもがな、最高でおすすめ!
(ちなみにレビュー当初は、連載が何年も不定期な某有名漫画と同じことが起きないかと不安なあまり、最新刊を買っても読めずに次を待つサイクルの繰り返し。
ですが、2022年~のアニメ化を機に編集ご担当者のSNSをフォローし始めると、作品の面白さを届けようとする氏の熱意にほだされ、声優陣によるぶっ飛び「キャラクターお絵かき」に爆笑したりするうちに不安も薄れ、最近とうとう最新刊まで読みきりました。
そしてもう、当然のごとく次が早く欲しいです…)もっとみる▼ -
絵で仕掛ける見事なトリック!2021年6月24日猟奇連続殺人犯に精神科医・浅野克哉が戦いを挑む。
犯罪ミステリーやサスペンス系の映画・小説が苦手な方は、精神的・肉体的な暴力描写があるのでご覚悟を。逆に『サイコ』『羊たちの沈黙』『セブン』『ハンニバル』等の映画や『FBI心理分析官』などの犯罪実録に馴染みがある方なら、あちこちに巧みに張り巡らされたエピソードや記憶の断片という伏線を一つひとつ把握し、魅力的な造形と内面を持つ人物たちに心を鷲掴みにされながら息もつかせぬスリリングでスピーディな展開にのめり込むはず。ひとたびこの世界観に足を踏み入れて、抜け出せる人などいるだろうか。
2021年現在4巻まで発行。仮にこの先の物語の流れが定石通りに、特定→追跡→攻防→対決→大団、と進むとして、あと2~3巻…?もっともっと溺れるほどこの物語に浸りたい。
皆さんのレビューにもあるように4巻の読了後に1巻に戻ると、あぁ、それで下だけなのねと腑におちる。作者が読者に仕掛けたトリックのキレはアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』みたいで痛快です(話の内容やオチのことではありません)。もっとみる▼ -
初めから、互いが運命だとわかっていたネタバレ2021年6月24日このレビューはネタバレを含みます▼ 運命を変え望みを叶える魔法の水鏡が導く王子エリュシオンと護衛士グレイルの数奇な運命。
高貴な生まれで美貌のエリュシオンに物語の序盤で共感できる人は多くないはず。何しろ、無知蒙昧なうえ傲慢で癇癪もち、人に対する思いやりもなく、自分が愚かであることも分からぬ愚か者として描かれていますから。
容姿以外、人から愛される美質が何一つない彼が誰かの愛を求めようとするなら、いっそ生まれ変わるくらいの大転換が必要だったでしょう。
そして、その通りのことが起こります。
ならず者たちに凌 辱され死にかけていたところをグレイルに抱えられて救出され、体を清めてもらう。目がちゃんと開かず言葉もうまく話せず歩くこともできず、食事も排泄も人の手を必要とする彼に、グレイルはこれまでの名を捨てさせ新たにシオンと名乗らせる……。
まさに、彼は一度死んでから赤ん坊となって再び生を得、グレイルの手で取りあげられ産湯を使い、重湯を与えられ、名付けられました。安全に眠れる場所や生きるために必要な知恵と道理を授けられ慈しんで育てられた。こんなシオンが可哀想なだけのはずがない。
贈り物をしたいと思うことで恋しいとはどういうことかを知り、受け取ってもらえなかったことで悲しいとはどういうことかを知った。人に感謝すること、されることの喜びを学び、人をあてにせず一人でも戦う勇気、恋しい人の役に立つという生きる目標まで持てるようになった。頑張ったね、シオン。
グレイルは冷酷どころか、初めからシオンにずぶずぶでしたね。初対面で骨抜きにされ、関心のないポーズで下層街まで様子を見に行き、救出してからは3日間つきっきりで看病(1人で!)、その後も毎日見舞い(時には日に2度!)売り飛ばすどころか隠れ家に匿って下僕とし(退路断ち!)王宮内の官舎に伴った(まんまと同居!) ……強がりも枚挙にいとまがありません…。「グレイルのひどい仕打ち」というシオンの主観に読者は惑わされないでね、と作者はわざわざ初期に『萌芽』の章をグレイル目線で書くことで種明かししてくれる親切ぶりです。
シオンが暴行されたことが必然などであるはずがない。でも生きる間に人の悪意や暴力にさらされることも辛いが現実だ、という作者のメッセージ、ファンタジー作家の現実感覚の現れかなと思います。
ここまでがこの大長編のほんの半分までのお話。後半の一層甘く切ない2人を多くの人に見届けて欲しい。 -
副題は三流(以下)ですが、物語は逸品2021年6月22日(読み放は2021/6/30までです)
「映画みたい」と称される作品は少なくないですが、この作品の描写は映画そのもの。たとえば映画では、画面の中のストーリー進行とは無関係に人物の独白が淡々と流れるシーンがよくありますが、この物語にはその手法が多用されます。
同時に、過去と現在、さらに少し先であろう場面の映像やセリフがストロボのように点滅し交錯します。
カメラのピントが合っている人物はクッキリと、そうでないものはぼやけて見える、あのコントラスト(対比萌え)がコマの中でも再現されています。
人物の心情表現も然りで、最も知りたい部分には触れずにスルッと画面が移るのも映画的。いつ恋に落ちたとか何故惚れたのかとか、ともすると心情に強い光を当てて影も消えるほど隅々まで照らし出す作品が多い中では異色な部類。何でもかんでも説明されるのは興醒めという方はお好きなはず。結構難解ですが、そのわからなさも醍醐味です。わからないな~と反すうしている間ずっと作品を楽しんでいられますし…ね?
あぁ、再会のシーンが無音で進む美しさときたら…。
1945年1月、ドイツ--5月に降伏することを知る由もなく、第2次世界大戦下に愛しあい生き抜こうとするナチ党武装SSのマイヤー軍曹とローベルト中尉のお話です。もっとみる▼ -
痛いところを…ネタバレ2021年6月21日このレビューはネタバレを含みます▼ 息子のなつきが父親の自分と同じゲイ?しかも自分がいいなと思っている相手に恋してる!?…と気づいた父親の目線で語られるお話です。
とてもいいお話でした。
ただ…あぁ、この作者は痛いところを突いてくる…。
ひとつには、初めての恋に揺れる息子の姿に、同じ年頃で恋に破れた昔の自分を投影する余り、お節介を焼いてしまう父親の愛すべき鬱陶しさ。告白された直後の相手にあんな畳みかけ方をしたら、相手は逃げ道を失うよぉ。本人同士で話し合って二人なりの落としどころを探せたかも知れないのに「(傷つかないよう)断ってやってくれ」なんてー。なつきはあなたのコピーじゃなく別人格なんだよ?…と思いながらページを繰っていったら、父親は「お前は俺とは違うんだな」と自覚して愕然としていた。あ…いい親だ…。
ふたつめは、元妻が、会うたびに夫に「だまされた」「嘘つき」と繰り返す結構なしつこさ。子供が3歳の時分に別れて以来、定年の翌年、息子の結婚式の日まで、何十年、同じことを言い続けるんだ~(と思ったら直後のコマで元夫が同じことをグチってた)。私の両親を見ているようだ。夫婦あるあるなんだとちょっと安心(?)しました。
なつきは賢い子でしたね。14歳にして、告白したら相手からの答えは「Yes」も「No」もあり得るんだとわかっていて覚悟していた。覚悟してはいても悲しいに変わりはなく、そこが切ないですね。自分が14歳の時、こんな覚悟してただろうか。
今回も(またまた)フォローしている方々の少し前のレビューを拝見し、購入。レビューを拝読しては時に声を出して笑ったり、時に泣きそうになっています。オススメを全部読んでみたいけど、資金が……ジレンマです。 -
君のいない人生に喜びなんてない2021年6月21日表題作+2作品の短編集。
お話を読む前にみなさんのレビューを見て3組ともハピエンだとわかったとしても、作品の素晴らしさと感動は少しも損なわれませんのでご安心を。「どういう結果になったか」より「どんな過程を経たか」にこそ独自の表現があって、それを味わうことイコール読むことの喜びだろうと思います。
芸術はディテールに宿るとは先人の言葉ですが、作者の描く人物たちの目つき口元、首や体の傾き、手の握りや開き具合、立ち位置やアングル、映り込んでいる小物の1つひとつに至るまで、「確かにこれ以外にはあり得ない」というバランスでそこにあり、しばし見入ってしまいます(床に転がっているチッチの足の角度や、玉手ちゃんが食卓で後ろ手に隠し持つ携帯、八木が飲み物の湯気の熱さにしかめた顔つき etc.)。
3編3組の主人公たちは皆、「この人がいない自分の人生はどうなるのか」と考える岐路に立たされ、彼らなりの結論を出します。その過程がとても素敵でした。
表題作『子連れオオカミ』には『オオカミの血族』という続編があります(そちらの読後に再び本書目次のカラーイラストを見ると感慨無量です…)。もっとみる▼ -
テーマは奉仕愛ネタバレ2021年6月20日このレビューはネタバレを含みます▼ 『子連れオオカミ』の続編+別作品。
『オオカミの血族』父親同士が恋人になり子連れ同居したその後のお話で主人公は子どもたち。チッチへの実らなかった恋と父親たちへの反発から家を出、疎遠にしてきたあっくんが、チッチの結婚式でのんに再会して…?
家を出るあっくんに「泣きたくなった時のお守り」を差し出すのんの純情よ…。みそっかすにされようと子どもの時からあっくん一筋ののんがくれる優しさと背中の温もりと愛を受け入れ、自分からも一歩を踏み出せたあっくんが愛おしい。あっくんに「お前、こわい」と言われ、やっと一人前の男として意識してもらえてよかったね、のん。
『sweetie』『gloria』『gloria!』税理士の塚本が何もかもなげうって愛を捧げるのは愛しい君(sweetie)。塚本に人としての道理を諄々と説いたはずが荷物をまとめてやってきた姿を見、唖然とする宗一郎。その顔のバックに書かれた「明後日」の文字に笑い転げた。Gloria~!(神に栄光あれ!) -
顔レビはこれしかないでしょう…ネタバレ2021年6月19日このレビューはネタバレを含みます▼ 全集#3【ぼくらの時代】より[ぼくらの気持ち]のレビュー:大学時代のバンド仲間、薫・信(シン)・泰彦(ヤス)の3人が1年ぶりに一堂に会し旧交を温めたその3日後、編集者のヤスが担当する年収2億超の人気少女漫画家が殺される。おホモだち疑惑をかけられながら薫と信はヤスにかけられた嫌疑を晴らそうと…?
全集のラインナップでも一目瞭然、30年間に新刊だけでも約400冊もの本を上梓し幅広い創作分野で活躍した不世出の天才作家・栗本薫さんは、現在のBLの始祖でもあり、竹宮惠子や木原敏江、定広美香らと交友、自ら書く傍ら彼女の小説道場から今もベテランとして活躍中の秋月こお、英田サキ、榎田尤利らを輩出したことでも有名です。
『ぼくらの気持ち』は江戸川乱歩賞受賞作『ぼくらの時代』の続編。ミステリーの謎解きの楽しみもさることながら、[原稿依頼]→[構想]→[絵コンテ]→[ネーム]→[下絵]→[ペン入れ]…とマンガの制作手順に則った章立てでストーリーが進む演出が憎い。
またなんと言っても、当時(1979年)のマンガ業界・(やおい)同人誌業界の赤裸々な描写がすごい。この作品に出会って数年後、高校に入り友人に誘われて初めて行ったコミケも、まさにこんな感じで、作品そのままでしたね…。これを読めば、BL以前の「やおい」全盛期の時代感を心ゆくまで楽しめます。
2021年6月現在、なんと値引き中!これだけの作品数とお宝情報が入ってこのお値段…ありがとうございます。
BL好きなら差し当たり
#2【真夜中の天使】
#7【朝日のあたる家】
#11【終わりのないラブソングⅠ】
#12【終わりのないラブソングⅡ】
#17【JUNEⅠ】
#28【JUNEⅡ】
を作品紹介文を参考に選ばれてはいかがでしょうか。
ちなみに『ぼくらの気持ち』はシーモアさんで単体でも電子販売されています。 -
洋画のワンシーンのようネタバレ2021年6月19日このレビューはネタバレを含みます▼ 1945年、ドイツ--とくれば第2次世界大戦。2年前の2月に日本軍もドイツ軍も各地で大敗を喫し、9月にイタリアが降伏。くだんの1945年は5月にドイツ、8月に日本が降伏し戦争が終結した年。このお話では、その敗戦まで秒読みのドイツで戦闘機パイロットのフォークト少尉とフェリックス整備兵の間に生まれた恋情が物語られます。
お話には書かれていませんが、フェリックス(Felix)を辞書で引くと、ラテン語で幸福(happy)、幸運(lucky)を意味する名前なのだそう。あぁ、それで「幸運に恵まれた男だな」という発言なんですね。
フォローしている方のレビューに(また)ふらふらと誘われて読み、想像していた以上の官能的な描写にやられました(黒手袋を外した手を見つめた…?なんてエロティック!)。
読み始めから終わりまで、時に観客となり、時に監督となって映像を観ているように人物が動き戦闘機が飛び、爆音が響きピアノの旋律が流れました。
言葉少なに交わす会話と意味ありげな視線。作品に饒舌さを求める方は「?」となりそう。でも映画『モーリス』や『君の名前で僕を呼んで』などの空気感がお好きな方なら、きっとお気に召すはず。 -
尾上与一/木下けい子/陣闇丸/宮緒葵/みずかねりょう/英田サキ/高階佑/夜光花/笠井あゆみ/樋口美沙緒/yoco/松岡なつき/彩
[DEADLOCK]ディックの過去の一端が明らかにネタバレ2021年6月18日このレビューはネタバレを含みます▼ バハマへと旅立つネトを見送りに行ったロサンゼルス空港で、ユウトとディックは、ディックを本名で呼ぶ男サイラスに出会う。いわくありげな二人の雰囲気に胸がざわつくユウト。待っているだけでは相手を知ることはできない、心に踏み込んでみろとネトに背中を押されたユウトにディックが語った少年時代とは…?
謎多き男ディックが抱えてきた苦悩。誰かにとっての正義が他の人にとっては正義でも救いでもないどころか絶望にもなりうる……真理でしょうが、大人でさえ受け止めるのが難しい事実を、庇ってくれる身寄りも味方もない中、わずか13歳の幼さで目の前に突きつけられたその気持ちを思うと、かわいそう過ぎてやるせないです…。だから、重荷を共に背負うと言ってくれたユウトにしびれました。
それからユウトが、自分も嫉妬する人間なんだと自覚し、ディックにもそう表明できてよかった。そうだよ、君の物分かりの良すぎる態度がディックを不安にさせ、読者の気を揉ませてきたのだよ~、ユウト~。
このお話、二人が同居して2年とあるので、時系列では『琥珀』(ディック、ユウトの家族と初対面)のすぐ後、『PROMISING』(ジーンズ洗濯するしないでケンカのオープニング)と同じ頃です(年表作りに読み返し、途中で力尽きました)。 -
一口サイズだけど、甘くておいしい2021年6月17日書籍紹介文にある通り、シリーズ第1巻『竜は将軍に愛でられる』のエンディングから3ヶ月後のとある1日の朝から翌朝までを、竜人アゼル、将軍ランドール、宰相エイムズ、副官ルースの4人それぞれの視点から描いた短編集。全46ページ。朝ですよ~、将軍……もぅ ///∇/// のどかで、たいがいおバカで、甘いです。でもプチフールサイズの甘さなので胃もたれの心配はないですね。ごちそうさまでした~。
★蛇足ですが、フォローさま~、小さいサイズのお菓子のことはフランス語でプチフールpetit four(意味は『小さい窯』small oven)ですよ~プチ・フルールpetit fleurは『小さい花』という意味で洋菓子店チェーン様のお名前です~;もっとみる▼ -
「ここに帰ってきたいんだ」ネタバレ2021年6月16日このレビューはネタバレを含みます▼ BL読者ならかつて誰もが知っていたタイトル。初出が1993年、最終話完結は2002年と長期・不定期に発表された物語ですが、人間性と愛と再生というテーマは普遍的で、いっそ現代的です。
ただ…(どんな小説やコミックも大なり小なりそうですが) この作品は著しく読み手を選びます。心配な方は試しにチェックしてみてください。
(0)健康面、特に心臓や血圧は安定していますか?(人によっては衝撃的に感じる展開もあります)
(1)BLに女性が(軽く)出てきても大丈夫ですか?
(2)いわゆるリバが平気ですか?
(3)CPが他の人としても平気ですか?(累計複数でも?)
(4)薬物の使用経験がある登場人物を許せますか?
(5)近親者による児童や未成年への虐 待(性的含む)を正視できますか?
(6)あなたは、心が弱く過ちを犯す(繰り返す)人間に寛容であれますか?
(7)あなた自身も不完全で矛盾に満ちた存在の一人であると思えますか?
このどれか1つでもNGがあると、読んでいる途中で不安や不快感を覚え、うっかり作品に対して腹を立てて☆を減らしたくなってしまうかも知れません。そんな時はエピソードの細部から眼をそらし、作品の伝えたいテーマやメッセージに集中してみるといいのでは…と思います。
連載当時、私は上記のうち2つの項目でつまずき、自分がどんな人間かを思い知って心に大打撃を受け完読できませんでした。
作品は、読み手をそのまま映す鏡だと初めて知った瞬間でした。
年月を経て、自分にも他人にも理想と完璧さを求めすぎる狭量なところを少しずつ克服し、自分と他人の失敗や心の弱さも少しずつ受け入れられるようになった今、やっと読み終えることができ、この物語を心から人に勧めたいと思いました。
言葉で語られない相手の心情を人は正しく知りうるだろうか。言葉とは裏腹な心情など人は正しく知りえるものだろうか。
鳥人(とりびと)ヒロミ先生が描く彼らの、じっと見つめる眼差しは、そんな彼らの心の機微--おもてからは捉えにくい微妙な心のおもむきやナイーブさそのものが瞳という形になったかのような、不思議な雄弁さに満ちています。
「ここに帰ってきたいんだ」
この言葉を発するまでの、耳にするまでの、彼らの長き年月と激動、葛藤。この言葉を目にするたび、嗚咽がこみ上げます。 -
どうか幸せに…ネタバレ2021年6月15日このレビューはネタバレを含みます▼ あるものを「おいしい」と言えるのは、それを食べたことがあるから。当たり前ですね。それの歯ざわりや舌ざわりや喉ごしがどんな感じかを味わったことがあるから、「これはおいしい」と言えると。
では、感情は?生活の中には、嬉しいこと悲しいこと腹立たしいこと心満ち足りること等がいっぱいで、今さら味わったことのない感情なんてない?
でも、ワケあって「心が動かないように」生きてくるしかなかった(何十年も!)人たちにとっては、そうすることで悲しいも辛いも淋しいもあまり感じないで済む代わりに、希望も喜びも勇気も薄くしか感じられなかったはず。それはどんなに寂寞とした日々だろう。
彼らが屈託なく「いま幸せだ」と思える喜びを分かちあい、余すところなく幸福を味わい生きていけますように。
フォローしている方々のレビューに導かれて読みました。紹介していただいてありがとうございます。読んでいる間、心が震えていました。 -
ピリッとした味わいをオブラートに包んで…2021年6月15日作者愛が伝わるみなさんのレビューで、このお話のあらましもキャラの魅力も語り尽くされていますが、確かに心が休まります。
たとえ、いい大人のオトコが親しい人の前で自分を七海(ななみ) と呼んだり、脇が甘くて隙だらけのせいで案の定つけこまれたりしても、あざといとかイラつくと言って途中で本を放り出してはいけない。よく読んでいくと、可愛いさ満載の絵柄ながら、作者がどの人物のことも怖いほど冷徹な眼で見つめ、それぞれのちょっとしたイヤな部分をジリッとあぶり出していることに気がつく。近所のおじちゃん、会社の先輩、有田、京子さん、兄ちゃんズも章造も親父さんすら。悪意の自覚のないジョークや噂話、気のきかなさ、エゴ。善人度100%の人間はいない。
そんな現実そのままの生々しさ・苦々しさを和らげ甘く飲み込みやすくしてくれる可愛いらしい絵柄と巧みなストーリーテリング。ピリッと舌を刺す刺激を思い出しては時々読み返したくなり、そしていつ読んでも優しさにホッとします。もっとみる▼ -
さよなら…2021年6月14日『さよならジュリエット』と『密林の二人』『戦場にかける恥』をどうしても読み返したくて購入。
『さよなら~』上司に連れられてきたゲイバーで高校時代の知り合いと言い張るオカマちゃんに出会うも「記憶がない」…と始まるお話(ここまでわずか7コマ!) 途中、サクッ、サクッと刺さるセリフも捨てがたいが、圧巻は一連のエンディング。俗に「再会もの」と呼ばれる話でこんな展開は後にも先にも見たことがない…。
『密林~』『戦場~』第二次世界大戦下のベトナムの密林で、友人同士のジェームズとジョンは××を掛けて戦う…!『戦場~』はアカデミー賞映画のタイトルのパロディだし、ふざけ過ぎの内容を全く受け付けない人もいると思うが、私は当時から作者の多面性が好きだ。
1990年代後半からの短編集で上記3作以外は非BL(少女マンガ枠)。この本の姉妹編に『うすあじ』もあります。もっとみる▼ -
きっと、もっと、ずっとエンドレス!2021年6月13日このシリーズ、どこまで行くの?…という疑問がチラと脳裏をかすめても、無視無視。「好きなキャラのお話はできるだけ長く読んでいたい!」というみんなの欲求を満たしてくれるお話にヤボなことは言いっこなし。
…と言いつつ小声で白状すると「やたら登場人物が多くて」「ほぼ皆オトコ同士でデキてて」「長編化してる」系のお話、コミックも小説もしばらく避けていました。まず「これほどのキャラのラインナップ、必ずあなたのお気に入りが見つかるはず!」と乙ゲー的・カタログ的・戦略的に差し出されると、気持ちが引く→物語に没入できないジレンマに。そして『ツラいエピソードはラブをより甘くするスパイス(スイカに塩) 』的パターンがどのカップルでも繰り返されることや、「みんな同じ攻め専・受け専学校でお作法を学んだの?」と思いたくなるほどアノ時の喘ぎ方や肉体的反応が似通っていることも気になってしまう…。
でも「これはそういうお話なんだから」とそのまま受け入れてみたら、とびきり楽しい世界が待っていました。たまにはユニ*ロ的・画一的な様式美もいいな!そう、これはカッコいい男たちがアレしてコレしてハァハァしているのを楽しむお話なのです。私は武笠×深津推し(大富豪攻めと赤貧受けがおずおずと紡ぐ恋がツボ)。もっとみる▼ -
「私の命に替えましても」ネタバレ2021年6月12日このレビューはネタバレを含みます▼ 辞書によれば「分際」とは身のほどや身分、立場のこと。「××の分際で!」と誰かに言われたら出しゃばらず己をわきまえて言動を慎まねばならない。
第1話『シノワズリ』では、本編『執事の分際』(革命前夜) より30年前のフランスはガチガチの身分制社会で、よもや貴族と従者が「分をわきまえずに」愛を告白したり愛し合うことなどあり得ない時代だったんですよ、という前提が語られる。
続く『小姓の分際』では、13才で名門貴族に仕え始め、長じて執事となったクロードに、病に伏した当主がまだ年若い息子アントワーヌを託す場面で互いに対する思いが描写されるが、ここでも格下の執事から当主へ胸中が語られることはない。
そしていよいよ、『愛とは夜に気付くもの』以降、アントワーヌとクロードの物語に入る。クロードの思いがわからず焦れ続けるアントワーヌ。革命が起きて遂に身分差がなくなった瞬間から、二人はどうなっていくのか?ぜひ、すみずみまでご堪能あれ!
(本筋とは関係ないところで個人的には、結婚と子作りについてのクロードの身も蓋もない表現が好きでたまらない) -
描線1本1本、くらりとするほど煽情的2021年6月12日しなやかな肢体に少年の面差し。多勢に無勢でも立ち向かう闘志や誇り高さとは裏腹に、屈辱的な拷問に苦鳴を放ち身をしならせるヤマモト中尉の姿に、アービング大佐ら敵将だけでなく部下のタカムラもが心を奪われ劣情をかきたてられたのは、無理もない…としか言えない。
時々「そそられる色気」「色気がダダ漏れ」という表現を他作者の作品レビューで見かけても、作中キャラ達のセリフでそう書かれているとそんな気にさせられちゃうよね…と思う場合も多い。が、水上作品では描線のケタ違いの説得力がこちらの全てのシニカルな何かを、凌駕してしまう。体で快感を得てしまった悔しさにヤマモトが噛みしめる唇、寄せられた眉と赤らんだ目元、あふれ出る二筋の涙に至るまで、なんと饒舌なことか!
読み返すたび、季節がめぐるシーンのところで、ふいに涙が出そうになる。深まる心情がひたひたと胸に迫るのだ。誰が誰のどんな虜囚なのか。目でなぞるようにゆっくりと味わってみてはと、そっと勧めたくなる一品。もっとみる▼ -
好きになるはずじゃ、なかったネタバレ2021年6月8日このレビューはネタバレを含みます▼ 誰にでも「こんなはずじゃなかった!」と叫びたくなることの一つや二つはあるはず。ネットで買った服が似合わなかった!という程度なら (イヤはイヤだが) どうにか呑み込める。自分にも落ち度がちょっとはあったかもと己に言い聞かせれば。着用後でなければ返品もできるかも。
けれども、こちらから好きになる要素も、そんなつもりもない(むしろ嫌ってさえいる)と思っていた相手を、自分は実は好きなのかも知れない…!とある日突然、自覚するに至ったら…?
引き返そうにも、既に抜き差しならないほど、のめり込むように好きになってしまっている。どうする!?これまでの自分の態度のあれこれや経緯(いきさつ)などなかったかのように、手のひらを返すように振る舞える…?
これは、友人同士である吉野・三笠・門脇の三者三様の「こんなはずじゃなかった」恋のお話です。
なかでも吉野は、ツンデレの一言で片付けるには勿体ない愛すべき性質の持ち主。確かに、素直にありがとうやゴメンや好きが言えない意地っ張り、自信の拠り所は頭と容姿の良さだけで、三笠を悪しざまにけなす態度は傲慢そのものに映ります。
が、吉野は口こそ悪いものの実際は尽くし型。自分自身の計算高さや臆病さの反対を行く、三笠の真っ直ぐで豪胆な人間性を高校の頃からしっかり見抜いて評価していたし、社会人になって恋を自覚してからは、三笠の要領の悪さをカバーしてあげようとすらする。
彼自身、ゲイとしては実は男とつきあったことがない吉野が、単なる憧れではない初めての恋に取り乱して右往左往し、破れかぶれに滅茶苦茶をしでかしたとて、どうして彼を悪しざまに言えようか。ただ可愛いしかない。初恋における「みっともなさ」や自意識過剰、数々の言動の「痛さ」は、年を経て振り返れば「自分にもそんな時があった」と、きっと誰もが思うはず。
そして、曖昧さのない理数系の思考回路で淡々と生きてきた門脇が遭遇した、不合理で割り切れない、初めての恋。人生においてエラーやバグを生むだけに見える、「感情」という夾雑物を排除し、数式を解くように考え行動してみるのに、大学講師の松下に対しては、どうしてか上手くいかない。それが出来ないのは何故なのか…?最後の解にたどり着くまでの門脇の軌跡のすべてが、愛しいしかない。
初版本は2001年発行(カバー・挿し絵は桑原祐子先生)。20年以上にわたり読み返すたびに胸が震える作品。 -
愛おしく、やるせないネタバレ2021年6月6日このレビューはネタバレを含みます▼ 画家・出泉と出版社編集の南、役者・葛葉の三人が遭遇した怪異譚。第一話「其は怜々の雪に舞い」大正末期、天才作家と謳われた烏鷺(うろ)が雪の高尾山で消息を絶ったその同じ頃、同業である乙貝(おとがい)の家の戸を叩く烏鷺の姿があった。それから2年、烏鷺の新作が乙貝の家から見つかる。二人の間に何があったのか?烏鷺の消息は、そして乙貝の身に起きる怪異とは…?
『其は怜々の…』で始まる詩を詠むに至るまでに、どれほどの深く熱い思い、喜びと高揚、焦慮や苦悩などがあったことだろう…とページをめくる手を止めて考えてしまう。読み手に一定の想像力と共感力を求める抑えめの描写ではあるが、出来事のすべてをつなぎ、長い年月にわたる心情の色々に思いを巡らすとき、この詩のやるせない切なさが胸に迫る。 -
オメガバースの真髄を教えられた2021年6月6日本書の前後にもオメガバース系を結構読んだが、格別に心を打たれた一本。ストーリーについては既に素晴らしいレビューが幾つも上げられているので、少し違う観点から。
昨年、十数年ぶりにBLに戻ってきて衝撃を受けたことが2つ。1つは敬愛する作家陣で引退・他界された方が少なくないこと。もう1つはオメガバースの隆盛だった。正直、違和感を覚えた。
それは、「αとΩが主役でβは (何をどう言い繕ったところで所詮) モブ」という大前提にそこはかとない選民思想の匂いを感じたり (すみません)、成功者αたる運命の番=白馬の王子様が迎えに来て万々歳という昔の少女漫画的・ハーレクイン的・ディズニー的・ご都合主義的テンプレ (まとめてホントにすみません!)を感じたから。
そもそも生理・生殖に縛られた女という性を生きる生きづらさを感じているからこそ、純粋に愛情だけで結びつく関係の理想をBLに求めた人が多かったはずなのに、何故わざわざ妊娠・出産・育児を持ち込むのか…とも。
だが、この作品で腑に落ちた。
そっか、オメガバースは「生きづらさ」というテーマのバリエーションなんだな。制約のない自由などない。そして誰もが等しく生きづらさを感じている。
ともすると「主人公になるべくして生まれた稀少で尊い存在」とか「絶対不可侵の絆で結ばれた2人」などとして描かれがちなαとΩも、そんな「世界の主人公たち」の引き立て役・背景として雑に描かれがちなβも、この物語の中では特別でも例外でもない。
αだから容易に生きられるわけではなく、βだから悲しみを感じずに生きられるわけでもない。テンプレ化された幸せの確約はなく、生きる上での苦しみをどうやって乗り越えていくのかと問いかけるオメガバース。
そこに安穏としていられなくなったのは残念だけど、美化され尽くした世界観からリアルさを取り戻し、登場人物たちの心情をありありと感じられる世界になってきたことを喜ぶべきかも。
そう思いつつ二読、三読してみる。吐木が火傷を負ったを見舞う病室から見えた青空と、に本を貰った女子中学生がこぼした涙が、美しくて胸に沁みた。
そして改めて表紙絵の窓ガラスを伝う雨の雫が、ガラスに映り込んだが吐木をあざむく苦しみにのたうち人知れず頬を濡らす涙、彼の慟哭に感じられて胸を刺した。
もしも似たような理由でオメガバースが苦手な方がいたら、この本をお勧めしてみたい。もっとみる▼ -
まずはお披露目2021年6月4日自称フリーライターと刑事が、共通の敵を倒すため協同し関係を深めていくストーリー。本命の敵との戦いは次巻以降に持ち越された形で、この巻は主要人物のお披露目といった感。いわゆる、「感情表現を排除し、情景の客観的な描写に徹する」というハードボイルドのセオリーに則った筆致によって、強い男同士という輪郭がきちんと浮き彫りになっている。その一方で、(ハードボイルドであろうとするがゆえに)互いに相手になぜ惹かれるかの「心情」が描かれないまま二人が体を重ね続けるので、シーンとしての妖しさはあっても、彼らの肉体が繊細に感じているはずの快楽まではこちらに迫ってこなくて、もどかしい。話の全貌が未だ、小山田先生が描く素晴らしい表紙絵のようにおぼろな薄闇の中、特捜の桐山にはくっきりとした色を感じられ、楽しみ。もっとみる▼
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不穏な予兆にハラハラ2021年6月3日幾多の困難を越えて固く結ばれたディックとユウト。警官としてはユウトが新たなバディともどうにか上手くいきそうでホッとした---筈なのに、何だろうか、この不安は。凄惨な過去を振り返っては、深く愛し合える相手のかけがえのなさと今の幸せをこれでもかと強調される一方、「『ユウト、覚えておいてくれ。この先、何があったとしても俺はお前だけを愛している。お前の幸せだけを願っている』やけに真剣な口調だった」「俺のためにしたことで、いつか取り返しのつかない事態が起きるんじゃないか」と、二人を待ち受ける最悪な事件を予感させる言葉の数々。こうなると新しいバディがあてがわれたことにすら懐疑的になる。どうか作者には、よもや主人公たちの命を軽々に奪うような仕打ちだけは決してしないでくれと今は願わずにいられない。もっとみる▼
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したたる色気にあてられる!2021年6月3日高校剣道大会の決勝で戦った花森勝臣と八重樫剣(つるぎ)。風のように捕らえどころがない剣の表情や言葉に刀のようにハッと胸を突かれる勝臣。他方、がむしゃらな太刀筋を裏切るような勝臣の優しさ、懐の深さに慕わしさを覚える剣。もし、互角の剣士同士としてだけでなく間合いを詰めたなら?もし相手を本気で好きになってしまったら、もう対等でいられなくなるのか?勝臣に心が傾く自分自身から逃げて足掻く剣に対し、剣への恋情を潔く自分に認めた勝臣は腹をくくれと真っ直ぐ剣に向かい合う。互いにのみ分かる言葉や視線の応酬の中に二人の熱情と迷い、覚悟が読みとれ、したたるような色気にあてられてしまうはず!第1話が1990年代に書かれた作品。名作。もっとみる▼
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「溜め」に心惹かれてやまない…!2021年5月25日やむにやまれぬ思いで読み返す。なぜこうもこの物語にずっと心惹かれるのか。ヤクザという立場の危うさ、何かのきっかけで関係が失われるかも知れないという際どさ、対立場面で見せる硬く険しい表情と言葉。そしてそれらとは対照をなす二人の純情と一途な恋。すべてが愛おしくてたまらない!なんのセリフも音もなく表情だけ描かれたコマ、そこに気持ちの「溜め」を読みとり、目元や眉、口元のわずかな角度や開きに心情を汲みとろうと目を凝らしてしまう。マンガはそういうものだけれど、西田先生の「溜め」は一種独特で物語としても美しく釘付けになる。もっとみる▼
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骨太の物語に酔う2021年5月25日20年近く前にも紙版で酔いしれた骨太の物語。使命と恋、その二つを同時に手にできない心の弱さや立場のもどかしさに途中何度もギリギリと胸を締め付けられ、立ちこめる暗雲の分厚さに心が折れかけても、手に汗握りながらシンやイーサンと共に事件の真相を追い求め、主人公たちの力強い絆と恋が成就する未来を祈り続けずにいられない。五百香ノエル先生の理想とする攻め像(金髪碧眼・超絶美形。性格にかなり難ありだがいずれ甘々)が今回も爆発。稀代のストーリーテラー五百香先生の新作が二度と再び読めないなんて今でも信じたくない。再版し電子版のラインナップに加えて欲しい名作がたくさんある。もっとみる▼
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キャラと世界観にしびれる2021年5月25日以前ノベルズ版を手放し、今回、文庫バージョンを電子版で買い直しました。
ノベルズ版の第1巻の発売は1996年。
ヤクザでフェロモン垂れ流しの色悪の攻め・黒羽と、研ぎ澄まされた日本刀のごとき佇まいだが丁丁発止のやり取りで一歩も引かない受け・鵙目の、心情について多くを語らない唇と、相反する雄弁な眼差し、体。痺れる人物像と世界観で当時大人気を博し、後年似た作品が続々登場したことからも如何に人々の想像力を掻き立てたシリーズであるかが窺えます(主人公達の掛け合いから脇役までプチ黒鵙ワールド?と心踊る「真昼の月」、ノベルズ版第3巻の表紙のtransfer?と胸ときめく「VIP」等々、あわせて読むと楽しい)。
出来事を通じて変化していく互いの関係や、それをどう思うのか本心を探りあわずにいられない心情を、語りすぎない情況描写や行間から読み取り味わうのが好きな方にお薦めしたい!もっとみる▼