母のいないカラオケ、最後に歌った曲 16年経っても僕は走ってるよ

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若松真平
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 「次の予定まで時間があるから、カラオケに行くか?」

 8月15日、父から提案されたですけさん(33)は「いいね、行こう」と快諾した。

 お盆で姉も帰省していたので、3人で駅前のカラオケルームへ。

 母が生きていたころは、よく4人でカラオケに行っていた。

 3人で歌うのは10年ぶりくらいで、母がいなくなってからは数えるほどしか行っていない。

 最初にマイクを握った父が選んだ曲が、藤井風の「満ちていく」。

 自信がないと歌わない父だから、相当に練習したのだろう。

 サビでは目を細めながら、見事に歌い切った。

 姉が選んだのは、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」。

 聴きながら、ですけさんは母のことを思い出していた。

 「若い子の歌は難しいねぇ」と笑いながら、歌詞の切れ目で小さく合いの手を入れる母の姿を。

 父がテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」を歌い始めると、姉がこう教えてくれた。

 「私ね、この曲でお母さんからめちゃくちゃ歌唱指導を受けたんよ」

 母のいないカラオケなのに、何度も母の話になっていた。

 プルルルルーと備え付けの電話が鳴って、「あと10分でお時間です」と連絡があった。

 受話器を置いたですけさんは、最後に3人で歌う曲を入力した。

 4人でカラオケに行くと、必ず最後に歌った曲。

 緩和ケアを受けていた母が、はっきりしない意識の中で2度も反応した曲。

 ですけさんが病室で涙した…

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若松真平
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