「こども食堂」の名はもう使わない 名付け親が感じてきた疑問と怒り

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聞き手・田中聡子
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 官民が後押しし、全国で1万カ所を超えるほど広がった子ども食堂。その「名付け親」であり、13年間、東京都大田区で子ども食堂を運営してきた近藤博子さんが、この春、「こども食堂」の名前を使わないと宣言した。一体なぜ――。取材を申し込むと、こう返ってきた。「言わなければならない時期だ」

「近所のおばちゃんのおせっかい」のはずが

 ――「言わなければならない」とは、何をですか?

 「『ちょっと違うんじゃないか』と、ずっと感じていたんです。13年前、食を通じて近所のちょっとしたつながりができればと思い、子ども一人でも入りやすいように『こども食堂』という名前で始めました。『近所のおばちゃんのおせっかい』くらいの気持ちだったんです」

 「その後、驚くスピードで全国に広まりました。『子ども食堂っていいよね』『すばらしい活動だよね』と応援してくれる人も増えていった。おかげで寄付や支援が集まって助かった面は確かにあります。でも、増えていくことが『いいこと』なのかという疑問はずいぶん前からありました」

 ――たくさんの子どもたちが利用しています。「いいこと」では?

 「『子どものことを心配している大人がこんなにいる』と分かったのはうれしかったですし、子ども食堂が支えになっている子どもや親も実際にいます。だからといって、子ども食堂でなんらかの問題を解決しようと考えるのはおかしい」

増えていく役割

 「数が増えるのと並行して…

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    雨宮処凛
    (作家・反貧困活動家)
    2025年9月13日14時18分 投稿
    【視点】

    ネットカフェ難民、日雇い派遣、ワーキングプア、偽装請負、ロストジェネレーション、非正規公務員、奨学金問題、低年金で働かざるを得ない高齢者・・・。 これまで、そんな言葉が注目され、話題となり、忘れられていきました。が、これらすべてに共通するのは「貧困」です。 私自身、貧困問題に関わるようになって今年で19年。このインタビューは、首がもげそうになるほどうなずきながら読みました。 「まるで今その問題が生まれたかのように『発見』し、対策をアピールする。そんなことが繰り返され、『なぜその状況が生まれるのか』『そうならないためにどうすればいいか』という議論を社会がしてこなかった」 この原因のひとつには、メディアの姿勢もあると思います。 なぜなら私自身、この19年間にわたり、冒頭に掲げたようなキーワードがあっという間に消費され、「オワコン」になっていくのを見てきたからです。 年越し派遣村をピークとして「ブーム」のようになった「貧困」はその後ゆるやかに減速し、社会は急速に貧困に慣れていきました。 だからこそ、ちょっとやそっとのことではもう注目されない。派遣村以上の「絵」がないと取材もされない。 貧困問題を訴えたいなら、次々と「新語」「真新しい現象」を発明してメディアに上手にプレゼンしないと見向きもされないというような姿勢を感じたのは一度や二度ではありません。 もちろん、真摯に取材を続ける方々も知っています。 しかし、圧倒的に少数派。 そんなことを繰り返しているうちに日本はすっかり貧しくなり、取り返しのつかないところまで来てしまったと感じます。 もっとも責任があるのは政治ですが、「新しい現象」を消費するだけで積み上がっていかない議論にずっとむなしさといら立ちを感じていた身として、近藤さんの言葉に深く共感しました。

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    高祖常子
    (子育てアドバイザー)
    2025年9月14日7時45分 投稿
    【提案】

    子ども食堂の元祖である近藤さんが、このように意見してくれたことは、とてもよかったと思いますし、新聞社には今後もこのような記事を取り上げていただければと思っています。 実際、子ども食堂を視察する議員もいますし、手伝っている人もいるでしょう。

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