水没した長生炭鉱から人骨発見 遺骨収集求める遺族に国「対応困難」

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北上田剛 高絢実
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 戦時中に183人が死亡した海底炭鉱「長生炭鉱」(山口県宇部市)の水没事故をめぐり、遺骨収容をめざす市民団体が潜水調査で骨のようなものを見つけ、県警による鑑定の結果、27日、人間の骨だと判明した。遺族や市民団体は国による調査や遺骨の収集を求めるが、国は「対応は困難」などとして否定的な態度を崩していない。

 国が実態把握に消極的な姿勢をとるなか、市民団体の努力で遺骨の可能性がある骨の発見に至った。

 市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(刻む会)によると、25日、坑道内を潜水調査していた韓国のダイバーが大腿(だいたい)骨のようなものなどを見つけ、このうち3本を持ち帰った。26日の調査でも人の頭蓋骨(ずがいこつ)のようなものを見つけて持ち帰った。ほかにも、横たわった人の骨のようなものがあったという。

 県警が鑑定し、宇部署は27日、「形態学的検査の結果いずれも人骨と判明した」と発表。左大腿骨、左上腕骨、左橈骨(とうこつ)、頭蓋骨と認められるという。

繰り返してきた潜水調査

 長生炭鉱は1942年2月3日、天井が崩れて海水が流入した。亡くなった炭鉱員ら183人のうち、約7割が朝鮮半島出身者とみられている。当時の炭鉱会社が事故直後に坑道を閉じたため、長生炭鉱の存在は忘れられた。

 刻む会は坑道に残されたままの遺骨収容をめざし、昨年9月、閉鎖されていた坑道につながる坑口を掘り出した。翌月から坑口や、海面に突き出た排気塔からの潜水調査を繰り返してきた。資金はクラウドファンディングなどで集めた。

 一方で、国による遺骨収容や財政支援を求めて交渉したが、厚生労働省は消極的な姿勢をとり続けてきた。

 厚労省では社会・援護局が戦没者の遺骨収容を進め、DNA鑑定も導入している。だが、戦没者遺骨収集推進法の対象は、戦闘行為などで亡くなった人で、水没事故の被害者は対象外となる。

 戦中・戦後に日本で亡くなった朝鮮人労働者の遺骨に関しては、2005年の日韓協議の合意に基づき、職業安定局の人道調査室が調査を担当している。しかし、長生炭鉱の犠牲者については、海中のため遺骨の具体的な所在が特定できないことや、安全性が確認できないことなどを理由に挙げ、調査を拒んできた。

父親の骨を早く墓に

 事故で父親を亡くした愛知県の男性(83)は27日、「父親の骨を早く墓に入れてやりたい。一人でも多く家族の元に戻してあげられるように、政府にも協力して欲しい」と話した。刻む会の井上洋子共同代表も「ご遺骨が出てきたのだから、日本政府がふる里にお返しする責任があるのではないか。遺骨には政府を変える力があると思っている」と国の対応を求めた。

 今回の発見で人骨の所在が特定されたことになるが、厚労省の担当者は同日、「安全性の懸念が払拭(ふっしょく)されておらず、対応は困難だ」と話した。福岡資麿厚労相も26日の会見で「現時点では、安全を確保した上での潜水調査に資するような新たな知見は得られていない」「現時点で財政支援の検討は進めていない」と述べるにとどめた。

長生炭鉱をめぐる経緯

1942年2月 海岸の坑口か…

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この記事を書いた人
北上田剛
山口総局
専門・関心分野
行政
高絢実
くらし報道部|社会保障担当
専門・関心分野
外国人、在日コリアン、社会保障全般