第5回参院を「憲法の守護者」に 憲法学者が提案する暴走抑止のための制度

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聞き手・各務滋
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 「衆院のカーボンコピー」と言われ、いま一つ存在感が薄い参院。投票先と一緒に、未来に向けて「参院2.0」への改革案も考えてみたいものです。参院を「憲法の守護者」に――と提唱している憲法学者の田中祥貴さんに話を聞きました。

 私は参院に「憲法の守護者」の役割を持たせる改革を提唱しています。

 10年前の安保法制の成立過程への疑念が出発点でした。それまで一貫して違憲とされてきた集団的自衛権が、政権が代わると融通無碍(むげ)な憲法解釈の変更によって合憲とされました。与党にも見識ある議員は少なくないのに、党議拘束のせいで埋没して、審議には反映されません。こんな政治が許されるなら、立憲主義が損なわれてしまう。憲法保障のあり方に強い疑問を感じました。

 憲法を守る存在として日本でまず思い浮かぶのは裁判所ですが、裁判所は具体的な事件なしに抽象的な違憲審査を実施できません。抽象的な違憲審査を行う機関としては内閣法制局がありますが、あくまで内閣から独立した存在ではなく補助機関に過ぎませんので、十分な統制は期待できません。

 これらを補完する役割は、権力分立の原理から、国会が担うべきでしょう。議院内閣制の下では衆院は内閣と一体の存在ですから、参院に期待せざるをえません。それは「良識の府」にふさわしい役割でもあるはずです。

 国会の二院制は本来、両院の間で抑制と均衡を働かせ、多数派の暴走を抑えるための制度です。連合国軍総司令部(GHQ)が一院制への改編を考えていたのに対し、憲法問題調査委員会(松本委員会)が「抑制と均衡」を理由の一つに挙げて二院制を主張した経緯があります。軍部が暴走し民意を操作・過熱させ戦争をした歴史を持つ私たちにとって、抑制と均衡を保障する仕組みは不可欠だと思います。

 しかし現実は、想定通りに機…

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この記事を書いた人
各務滋
論説委員|社会社説担当
専門・関心分野
教育、オピニオン
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    河野有理
    (法政大学法学部教授=日本政治思想史)
    2025年7月7日9時43分 投稿
    【視点】

    参議院の構成に関して改革が必要であるとの主張には賛成だ。ただ、参院が常に衆院のカーボンコピーであったわけでない点には留意が必要だろう。 現状では、政府が滑に法案を通過させるには衆院と参院が同じ政党ないし政党連合によって過半数を掌握している

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  • commentatorHeader
    境家史郎
    (政治学者・東京大学大学院教授)
    2025年7月7日11時22分 投稿
    【視点】

    「「衆院のカーボンコピー」と言われ、いま一つ存在感が薄い参院」という書き出しで始まる当記事だが、近年の日本政治研究者の中でこのように考えるのは少数派である。いくつかの意味で参院は衆院の「カーボンコピー」ではなく、政治過程において独自の存在感

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