小言が止まらない朝食タイム
「もうちょっときれいに食べてよ」「残さずに食べてほしいな」
自分の子どもに、朝食のたびに同じことを言っていました。
ご飯粒が茶碗にびっしり残り、汁物はよくこぼす。
おかずも食べ残しが目立ち、もちろん顔や服にはご飯粒が…。
親としては見過ごせず、つい注意が口をついて出てしまうのです。
でも、何百回言っても改善される気配はありませんでした。
小言を言うたびに私も気分が沈み、朝からイライラしてしまう。
こんなスタートを切るのは本意ではありませんでした。
作戦を変えてみたら
そこで、ある朝ふと思いついて作戦を変えました。
「お母さんってえらいな〜! ほら、こんなにきれいに食べられるんだもん」
自分のお茶碗を見せながら、わざとニコニコしてみせました。
「ピカピカで気持ちいいな! 作った人も喜ぶだろうな。あ、私か!」
と冗談交じりに・・・
すると、息子が負けじと「ぼくだってできるよ」と言い出し、
ご飯粒をせっせと集めて食べ始めたのです。
「え? できるの?」と驚く私をよそに、もくもくと食べ続けて——。
最後には「ほら!」と、
まるで生まれて初めてのようにきれいに食べ切ったお茶碗を
得意げに見せてくれました。
その瞬間、私の胸には「嬉しい!」という気持ちがあふれ、
朝から親子でニコニコ笑顔に。
小言ではなく「お手本」と「ユーモア」から始まったやり取りが、
子どものやる気を引き出したのです。
“当たり前”は当たり前じゃない
振り返ると、「きれいに食べる」ことは本来“当たり前”ではありません。
健康で、手が使えて、落ち着いて食事できる環境があるからこそ可能なのです。
それを思えば「ありがたいことだな」と自然に感謝の気持ちが湧いてきます。
私自身、子育ての中で「できて当たり前」を基準にしてしまう癖がありました。
でも、よく考えると“できる”のは奇跡の積み重ね。
だからこそ、当たり前に見えることこそ感謝して、
ほめてあげる価値があるのだと気づかされました。
自分のことも「ほめてみる」
『人生は「気分」が10割』という本の中に、「当たり前から自分をほめる」
という習慣が紹介されています。
例えば、ご飯を食べすぎてしまったとき、
多くの人は「食べすぎてダメだ」と自分を責めてしまう。
でも「おいしくご飯を食べられて幸せだな」と思えたら、
同じ出来事も感謝に変わります。
子どもには「ご飯をいっぱい食べてえらいね」と自然に声をかけられるのに、
自分自身にはなかなかそうできない。
けれど、自分をほめることは自画自賛ではなく、
自分を慈しみ、整える大切な習慣なのだと思います。
「視る」ことで見えるもの
私自身、障がいのある子を育ててきて、
日々思うのは「見る」と「視る」の違いです。
ただ表面的に「見る」だけだと、ご飯粒が残っている、こぼしている、
できていない——そんな“欠けている部分”ばかりに目がいってしまう。
けれど「視る」となると違います。
「この子は何を伝えようとしているのだろう?」
「どうしたら気持ちよくできるのだろう?」
そんな風に“心で視る”ことができるのです。
今回の食事の一件も、子どもが「ぼくだってできるよ」と言った瞬間に見えたのは、
“できていない子”ではなく、“できる力を秘めている子”でした。
その姿を見せてくれたのは、小言ではなく、
私自身が楽しそうにお茶碗をピカピカにして見せたから。
子どもは親の言葉より、親の気分や姿勢に敏感に反応します。
だからこそ、親が「楽しそうにやってみる」ことが、
最高の教育になるのだと実感しました。
「ありがたい」と「ほめる」がつくる幸せ
今回の経験から学んだことはシンプルです。
-
当たり前に見えることにこそ「ありがたい」と感じる
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自分のことも「よくやった」とほめてあげる
-
子どもには「小言」ではなく「お手本」と「楽しさ」を見せる
これだけで、毎日の食卓が驚くほど明るくなります。
私たちはつい「できないところ」を直そうと必死になりますが、
実は「できていること」を認めて感謝するほうが、子どもの力をぐんと伸ばしていく。
その姿勢は、子育てだけでなく、
人間関係や自分自身の生き方にも通じるものだと思います。
ご飯粒ひとつから学べる幸せの種。
「ありがたい」「ほめてあげよう」という小さな習慣が、
子どもの未来も、親の心も、もっと豊かに育ててくれるのです。
「あなたは今日、どんな“当たり前”に感謝しますか?」
一日の中で、つい見過ごしてしまう小さなできごと。
「ご飯をおいしく食べられること」も、「家族と同じ食卓を囲めること」も、
実は奇跡のようにありがたいことなのかもしれません。
子どもをほめるように、自分のことも少しだけほめてあげる。
そんな視点を持つだけで、毎日はもっと優しく、
心地よく流れていくのだと思います。
あなたは今日、どんな“当たり前”に気づき、感謝してみますか?