深夜によく話したKさんは、北の人でした。
穏やかな語り口、でもわずかに性格の荒さが垣間見えて、生活を愛し誠実に暮らしているような、そんな人でした。短気だけれど、もうどうにもならないと思ったらどっしりしてしまうタイプと語っていて、人間が大嫌いで、格好つけで、面倒見はいいけどお願いされないのは嫌いで、胃腸が弱くて、蕎麦屋に通っていて(食べるのがとても早い)、ネパール料理屋が行きつけでビリヤニが好き。
Kさん。私がこんなに詳細にあなたのことを記すのは、いつか忘れてしまうからです。私は、もうあなたと話すことはないはずです。
私がくすくす笑っていると、よく、「なぁに?」と笑いの滲んだ声で聞いてきましたよね。あの言い方、私にも移ってしまいました。
「あのねぇ」っていう呆れたような言い方も、「うるせぇよ」って笑いの入った乱暴な言い方も、「あたしの行きつけのネパール料理屋のね、」という話し始めも、「ちゅるさんは時差があるところにお住まいなんですよ」っていう配慮され切った言い方も好きでした。
足が大きい話も、それを受けて「背が高いんだ」って言い当てた時の言い淀んだ感じも、行きつけのネパール料理屋の家族の話も、聞いているの好きでした。
「趣味嗜好が同じ」と言われていたのも嬉しかったですよ、私は。読んでいる漫画や物事に対する考え方が、不思議なくらい似ていましたよね。
身の回りのことを話せる、そして面白がってくれる数少ない相手でした、私にとっては。
個通限定なのかと思うほど、いつもふたりっきりでしたよね。夜、あのサーバーへ上がってくる人は少なかったから。
「まだ寝ないのね?なら飲み物取ってくるから」と付き合ってくれ、「そっちの時間で0時になったら寝ますよ」と突き放され。
声の向こうでカランって氷が鳴る音がして、シュッってライターの音がして、向こう側の夜を思い浮かべる、そんな密やかな時間が好きでした。
でもね、Kさん。私だめでした。
嫌なことを言われるのが親近感の裏返しと知っているけれど、それでも許せなかった。言われたくなかった。
そしてそれより、あなたを嫌いになることが嫌いでした。だから、まだ好きでいるうちに、離れることにしました。
未練あります。
もっともっと、内緒話するみたいに話したかった、足元にじゃれつく猫をいなすように扱われるのは心地良かったし、私に対する話し方が優しいのも分かってた。うじうじうじうじ、二週間も思い出しては関係を絶って良かったのか考えてしまっているけど。
どうみてもあなたが原因のようなタイミングで抜けてしまって、傷つけてしまったんだろうとしょんぼりするけど。
それでも、私は、あなたをずっと好きでいたかったんです。
ねぇ、Kさん。今はまだ、あなたのことばかり思い出してしまうけど。
でも、私は知っています。
この感情もいつか忘れて、良い思い出だけが残るってこと。時間は、私の味方だということ。
3ヶ月の間、本当にありがとうございました。
あなたの配慮ある話し方も、一人称の「あたし」も、深い声も大好きでした。
また遊んでくださいね。