予想に反して秋らしく気温が下がってきましたね。落葉樹などは老化を始めています。暖地型の芝も、もちろん休眠に向けて老化モードです。
この記事では、日照条件が極めて悪い我が家の庭で、今年10月から「来年の芝のため」に実践するすべてのプロセスと使用肥料選択の考え方などを説明します。秋の芝生の管理に役立つ殺菌剤、肥料、除草剤の選び方、入手方法についても詳しく解説します。
(月刊 芝生の雑学 10月号ライブ配信より ↑画像をクリックすると解説動画をご覧いただけます)
1.芝刈りもローラーもやめる
植物の葉って、人間が余計なことしなければ受光態勢を整え、最も日照を受けやすいように互いの葉を避けながら姿勢をつくります。健康な芝の場合、芝刈り頻度を落とすとコンナ風に一生懸命背伸びしてピンピンと立ちます。この状態が一番、光合成効率が良いわけです。そっとしといてあげます。
もちろん、芝刈りしたい人は続けてもかまいません。もう少し美しい芝生が楽しめますからね。プロターフと違い、家庭園芸の場合は何ら制約を受けないことが多いでしょうから、どっちを優先するかはお好みで。
2.秋の序の口は肥効が長い緩効性肥料がオススメ
芝は、温度がおちてくると代謝の速度を次第に落としていきます。しばらくの期間、根からの吸収は緩やかながら続きます。最盛期に比べ根の吸収速度は落ちてきますので、肥効は撒いた直後から緩く長く持続するタイプの肥料が適しています。
ただし、肥料の撒きすぎには注意です。芝が食べ残すと、それは冬雑草を育てる餌になってしまいます。葉の色を見ながら必要な分を小分けに少しずつ与えるとコントロールが効きます。
また、有機肥料のみを使っている人は、その肥料の性質をよく確認して肥効の出方に注意してくださいね。(※秋は地温の低下により、狙いどおりの肥効が間に合わない場合が想定されます。)
3.病害発生の3因が揃いやすい
高麗芝の好適温度は25℃から35℃。ラージパッチの病原体は20℃が好適温度だと云われています。温度の低下に伴い芝の生理代謝速度が落ちると、さまざまな外敵に対する抵抗性も落ちます。そこに好適温度になって増殖を加速した病原体が一気に襲ってくる・・・これが、秋の病害の構図です。
そのほか、代謝が遅くなった芝は、さび病など風媒感染の菌にも侵略されやすかったり、春に発症する春はげ症やゾイシアデクラインの菌なども秋に襲ってきます。我が家ではその何も発生実績があるので、さび病胞子以外の病原体は土着しているものと考えています。秋の殺菌剤使用は毎年、必須となっています。
芝生の病害発生の3因について詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。
これは2級芝草管理技術者の研修で、石原バイオサイエンス 田中明美先生の講義で教わりました。
秋の病害防除のためのオススメ殺菌剤
特に秋に注意すべき病害
これら2つの病害は土着性です。この病害が出たことがあるお庭では毎年繰り返す可能性が高いです。一方、一度も出たことがないお庭では、あまり神経質になる必要はありません。
ラージパッチ
病原菌は土や残渣の中に潜んでいて、温度が20℃くらいになると急に増殖して生きた芝を襲い、枯らすまで侵略してしまいます。輪郭が大きな、帯となって枯れてくるのが特徴で、発症した部分は根元が腐り簡単に抜けてしまいます。
春はげ症
ラージパッチと同じく、土や残渣の中に潜んでいて温度20℃前後で急に増殖して芝を襲い感染します。秋には症状が出ずに冬の間芝の体内に潜伏し、春になって発症します。発症してしまうとGWを過ぎても芝がなかなか緑にならずハゲてしまうのが特徴です。発症してからでは防除できず、秋の感染前の予防対策が重要となります。
ラージパッチ、春はげ症などに卓越した効果がある薬剤
オブテインフロアブル
高温時にも薬害が出にくい特長がありますので、残暑の戻りが想定される秋口の殺菌にオススメです。
ただし、グラステン等同じSDHI剤を使用している人はローテーションになりませんのでご注意ください。(同じSDHI剤です)
クルセイダーフロアブル
ラージパッチに卓効な上、冬越しして春に発症する病害についても効果があります。温度が下がりきる少し前に散布すると効果が期待できます。この薬はDMI剤といって細胞膜に攻撃をしかけるタイプです。
フロアブル剤の利点
これらフロアブル剤は、希釈時に粉末が飛び散ることもなく、スポイトで扱えるので比較的安全に作業しやすいです。(※もちろん、手袋・長靴・マスク・眼鏡・長袖長ズボンはキホンですよ)
粉末薬剤の取り扱いのシビアさを知っている人なら、この利点がわかると思います。
ラージパッチ、春はげ症対策には、吸着タイプの展着剤使用がオススメ
病原体が潜伏している残渣は、意外と水をよくはじきます。オブテインもクルセイダーも界面活性剤が多くを占めているので比較的なじみやすいですが、吸着系の展着剤を使うといっそう効果的だと思います。
オーソサイド
さび病が懸念される環境のときに、複数回、噴霧器で散布して芝の茎・葉に付着させます。薬剤耐性菌の発生リスクは低い薬なので、年間使用回数の範囲内でしたら、短期集中的に使っても大丈夫です。
近年の我が家では、芝の抵抗力が強く、オーソサイドの出番はありません。
薬剤ローテーション どんな組み合わせが良いのか?
病原体には、同じ病原菌であって「個性」があって、一つ一つ、得意と不得意が存在することで無数にある中のどれかは必ず生き残るようにプログラムされています。
使用する薬剤の「ローテーション」で重要なことは、同じポイントだけを攻撃し続けないこと。いろんな作用点を攻撃することで、ある特殊な能力を持った個体が繁殖を続けることを阻止するのです。耐性菌が増えていく仕組みは、この古い動画で説明していますので、ご覧いただくとイメージがつくと思います。(たぶん想像と違いますヨ)
プロが選んだローテーション薬剤セット
バロネスダイレクトさんが、家庭向けにプロの知見で組み合わせを考えてくれていますので、薬剤や攻撃点がよくわからない人は、このセットを買うのも一つの選択。概ね、庭の芝生で発生する病害についてはカバーしています。
まずはこっち
アドオンで防御系 とくにシグネチャーは芝自体の抵抗性を上げる薬です
4.芝が殆ど伸びなくなったら晩秋の施肥の好適期
芝は、最終的に「緑だけど殆ど伸びない」状態になります。この時が最も、貯蔵効率が高い状態になります。しかし・・・代謝も極めて緩やかになっていますので、根からの積極的な吸収は期待薄い時期でもあります。
そこで、有効なのが、アミノ酸など葉面吸収の効率が高い液肥の噴霧です。
昨年、我が家の芝生で実証試験したアミノ酸肥料は、ミズホのアミビタゴールドです。
農業用のビッグサイズしかないので、何とか、家庭向けに醤油パックくらいの大きさで製品化してくれないか、ご検討いただきましたが、残念ながらこの秋には製品化されないことが決まりました。気になる方はこちらで調べられます。
アミノ酸は、動物由来のものが即効性で、植物由来のものは遅効性の性質があります。アミビタゴールドは魚類を発酵させてつくった動物性です。芝生の晩秋の施肥にはピッタリなのですが、とにかくデカすぎる。残念だけど今年は家庭芝生の候補からは外れます。
テカミンマックス 味の素
家庭でも調達できる現実的なアミノ酸液肥の一例は、味の素のテカミンマックスだと思います。僕は、今年はこれを使う予定です。サイズも価格も家庭の芝生にちょうど良いです。
晩秋の施肥にアミノ酸を使う理由
- 芝が休眠したら、余計な肥効を土に残したくないという意図があります。なぜなら、冬雑草のエサになってしまうから。
- そして、代謝が落ちた芝は、最終的には葉の葉緑体を分解してアミノ酸を回収します。その経路に乗せる意味でも、とても理にかなった施肥方法です。
このことは、昨年、アミノ酸をジョウロ散布してたら、長野Uスタジアムヘッドの青木茂さんに「この時期は葉面散布でしょ!」ってツッコまれて気づきました。
5.芝の代謝が完全に止まったら寒地型雑草対策
具体的に云えば、スズメノカタビラ対策です。真冬は一旦姿を見なくなりますが、夏前に土に落ちた種が発芽して芝の付け根で待機して冬を越すことが多いようです。
その、冬越しのスズメノカタビラは、特に春に猛威を振るうとか。故に、晩秋の防除は効果的なのです。
高麗芝の代謝が盛んな時期は薬害リスクが高くなりますので、完全に停止したのを確認してから使うことをオススメします。
トリビュートOD
日本芝とバミューダに使える、スズメノカタビラに卓効の選択性除草剤です。
このことは、日本芝草学会でご一緒した薬剤専門家 Envuの三好貴紀さんから教わりました。セミナーの動画が一般公開されているので、このブログの末尾に掲載しときます。
ただし、シバゲンを多用している人はローテーションになりませんので、ご注意ください。(同じALS阻害剤です)
補足説明
秋は何もしなくてもイイんですよ
公園の芝生など、こんなに世話しないところが多いですよね。芝は強い植物なので、何もしなくたってきっと来年のGWごろには、また美しい緑が始まってきます。雑草交じりだって、芝刈りさえすれば「芝生」です。
粗放管理は気楽でちょうどイイ美しさ
僕が云うのもナンですが、趣味で芝生やっている人が、芝生の管理で深刻に悩むってもったいない。
もし悩むとすれば、それは目指す「理想の状態」が高すぎるんだと思います。芝生にはいろいろな楽しみ方があります。
雑草一つ許さない東京40まいるの庭の芝生(集約管理)
雑草ごとオートモアで毎日刈り取り続ける東京40まいる秘密基地の芝生(粗放管理)
せっかくの趣味なんだから、いつだって「楽しまなきゃ」ね。ご自身に合ったちょうどイイ加減を設定してください。
<前提知識の理解に役立つ解説動画集>
芝の老化について
秋の芝生の病害と肥料について
無農薬は可能か?オーバーシードって難しい?など秋の芝生の質問
スズメノカタビラの生態と、効果的な防除方法
芝生の生育に役立つトリビアは、YouTube芝生の雑学 東京40まいる
芝生の生育アドバイスに必要な様々な資格を持つ専門のプラチナグリーンアドバイザー東京40まいるが、一年中、芝生の生育に役立つ旬な雑学を発信し続けています。興味ある方は、ぜひ、チャンネル登録をお願いします。
次の動画か、ブログ、ライブ配信でお会いしましょう。
では、また!
2級芝草管理技術者 プラチナグリーンアドバイザー 土づくりマスター 緑の安全管理士
芝生の雑学 東京40まいる