【犀の角のようにただ独り歩め】
スッタニパータは、
原始仏典の中で最古のものとされる、パーリ語で書かれた経典です。
『経集』と訳され、
長短さまざまな経典を集め、
5章に分けてあります。
もっとも直接に仏陀の教えを伝えているものとされています。
仏教の基本的な教理が比喩を用いて説かれています。
『ブッダのことば――スッタニパータ』
(訳者 中村元 岩波文庫)
の中から、
『犀(さい)の角(つの)』をご紹介します。
「・あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、
あらゆる生きもののいずれをも悩ますことなく、
また子を欲するなかれ。
況んや朋友をや。
犀の角のようにただ独り歩め。
・交わりをしたならば愛情が生ずる。
愛情にしたがってこの苦しみが起る。
愛情から禍いの生ずることを観察して、
犀の角のようにただ独り歩め。
・朋友・親友に憐れみをかけ、
心がほだされると、
おのが利を失う。
親しみにはこの恐れのあることを観察して、
犀の角のようにただ独り歩め。
・子や妻に対する愛著(あいじゃく)は、
たしかに枝の広く茂った竹が互いに相絡むようなものである。
筍(たけのこ)が他のものにまつわりつくことのないように、
犀の角のようにただ独り歩め。
・林の中で、縛られていない鹿が食物を求めて欲するところに赴くように、
聡明な人は独立自由をめざして、
犀の角のようにただ独り歩め。
・仲間の中におれば、
休むにも、立つにも、行くにも、旅するにも、つねにひとに呼びかけられる。
他人に従属しない独立自由をめざして、
犀の角のようにただ独り歩め。
・仲間の中におれば、
遊戯と歓楽とがある。
また子らに対する情愛は甚だ大である。
愛しき者と別れることを厭(いと)いながらも、
犀の角のようにただ独り歩め。
・四方のどこにでも赴き、
害心あることなく、
何でも得たもので満足し、
諸々の苦難に堪えて、
恐れることなく、
犀の角のようにただ独り歩め。
・出家者でありながらなお不満の念をいだいている人々がいる。
また家に住まう在家者でも同様である。
だから他人の子女にかかわること少く、
犀の角のようにただ独り歩め。
・葉の落ちたコ―ヴィラ―ラ樹のように、
在家者のしるしを棄て去って、
在家の束縛を断ち切って、
健(たけ)き人はただ独り歩め。
・もしも汝が、〈賢明で協同し行儀正しい明敏な同伴者〉を得たならば、
あらゆる危難にうち勝ち、
こころ喜び、
気をおちつかせて、
かれとともに歩め。
・しかしもしも汝が、〈賢明で協同し行儀正しい明敏な同伴者〉を得ないならば、
譬えば王が征服した国を捨て去るようにして、
犀の角のようにただ独り歩め。
・われらは実に朋友を得る幸を讃め称える。
自分よりも勝れあるいは等しい朋友には、
親しみ近づくべきである。
このような朋友を得ることができなければ、
罪過(つみとが)のない生活を楽しんで、
犀の角のようにただ独り歩め。
・金の細工がみごとに仕上げた二つの輝く黄金の腕輪を、
一つの腕にはめれば、
ぶつかり合う。
それを見て、
犀の角のようにただ独り歩め。
・このように二人でいるならば、
われに饒舌といさかいとが起るであろう。
未来にこの恐れのあることを察して、
犀の角のようにただ独り歩め。
・実に欲望は色とりどりで甘美であり、心に楽しく、
種々のかたちで、心を撹乱(かくらん)する。
欲望の対象にはこの患(うれ)いのあることを見て、
犀の角のようにただ独り歩め。
・これはわたくしにとって災害であり、腫物(はれもの)であり、禍(わざわい)であり、病であり、矢であり、恐怖である。
諸々の欲望の対象にはこの恐ろしさのあることを見て、
犀の角のようにただ独り歩め。
・寒さと暑さと、飢えと渇(かつ)えと、風と太陽の熱と、虻と蛇と、
――これらすべてのものにうち勝って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・肩がしっかりと発育し蓮華のようにみごとな巨大な象は、
その群を離れて、
欲するがままに森の中を遊歩する。
そのように、
犀の角のようにただ独り歩め。
・集会を楽しむ人には、
暫時の解脱に至るべきことわりもない。
太陽の末裔(ブッダ)のことばをこころがけて、
犀の角のようにただ独り歩め。
・相争う哲学的見解を超え、
(さとりに至る)決定に達し、
道を得ている人は、
『われは智慧が生じた。もはや他の人に指導される要がない』
と知って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・貪(むさぼ)ることなく、
詐(いつわ)ることなく、
渇望することなく、
(見せかけで)覆うことなく、
濁りと迷妄とを除き去り、
全世界において妄執のないものとなって、
犀の角のようにただ独り歩め。
・義ならざるものを見て邪曲にとらわれている悪い朋友を避けよ。
貪りに耽(ふけ)り怠っている人に、
みずから親しむな。
犀の角のようにただ独り歩め。
・学識ゆたかで真理をわきまえ、
高邁(こうまい)・明敏な友と交われ。
いろいろと為になることがらを知り、
疑惑を除き去って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・世の中の遊戯や娯楽や快楽に、
満足を感ずることなく、
心ひかれることなく、
身の装飾を離れて、
真実を語り、
犀の角のようにただ独り歩め。
・妻子も、父母も、財宝も穀物も、
親族やそのほかあらゆる欲望までも、
すべて捨てて、
犀の角のようにただ独り歩め。
・『これは執著(しゅうじゃく)である。ここには楽しみは少く、快い味わいも少くて、苦しみが多い。これは魚を釣る釣り針である』と知って、
賢者は、
犀の角のようにただ独り歩め。
・水の中の魚が網を破るように、
また火がすでに焼いたところに戻ってこないように、
諸々の(煩悩の)結び目を破り去って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・葉の落ちたパーリチャッタ樹のように、
在家者の諸々のしるしを除き去って、
出家して袈裟の衣をまとい、
犀の角のようにただ独り歩め。
・諸々の味を貪(むさぼ)ることなく、
えり好みすることなく、
他人を養うことなく、
戸ごとに食を乞い、
家々に心をつなぐことなく、
犀の角のようにただ独り歩め。
・こころの五つの覆(おお)いを断ち切って、
すべて付随して起る悪しき悩み(随煩悩)を除き去り、
なにものかにたよることなく、
愛念の過(あやま)ちを絶ち切って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・以前に経験した楽しみと苦しみとを擲(なげう)ち、
また快(こころよ)さと憂いとを擲って、
清らかな平静と安らいとを得て、
犀の角のようにただ独り歩め。
・最高の目的を達成するために努力策励し、
こころが怯(ひる)むことなく、
行いに怠(おこた)ることなく、
堅固な活動をなし、
体力と智力とを具(そな)え、
犀の角のようにただ独り歩め。
・独坐と禅定を捨てることなく、
諸々のことがらについて常に理法に従って行い、
諸々の生存には患(うれ)いのあることを確かに知って、
犀の角のようにただ独り歩め。
・妄執の消滅を求めて、
怠らず、
明敏であって、
学ぶこと深く、
こころをとどめ、
理法を明らかに知り、
自制し、
努力して、
犀の角のようにただ独り歩め。
・音声に驚かない獅子のように、
網にとらわれない風のように、
水に汚されない蓮のように。
犀の角のようにただ独り歩め。
・歯牙強く獣どもの王である獅子が他の獣にうち勝ち制圧してふるまうように、
辺地の座臥に親しめ。
犀の角のようにただ独り歩め。
・慈しみと平静とあわれみと解脱と喜びとを時に応じて修め、
世間すべてに背くことなく、
犀の角のようにただ独り歩め。
・貪欲と嫌悪と迷妄とを捨て、
結び目を破り、
命を失うのを恐れることなく、
犀の角のようにただ独り歩め。
・今のひとびとは自分の利益のために交わりを結び、
また他人に奉仕する。
今日、
利益をめざさない友は、得がたい。
自分の利益のみを知る人間は、きたならしい。
犀の角のようにただ独り歩め。」(17頁〜22頁)
ひとり超然としている
孤高の人となる
達観する
聖人となり
奇跡の人となる
世界一悟った人になる
犀の角のようにただ独り歩め
(推薦図書)
『ブッダのことば――スッタニパータ』
(訳者 中村元 岩波文庫)
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