近年、不登校を経験する子どもは増加傾向にあり、学校以外の学びの場や代替の制度に関心を持つ保護者や本人も多くなっています。実際、「不登校特例校(学びの多様化学校)」という制度も文部科学省が設け始め、「フリースクール」も多数存在しています。しかし、両者は制度上・実態上、教育的な意味合いや利点・制限が異なります。
どちらを選ぶかによって、進路や卒業資格、出席扱い、費用、通いやすさなどに影響が出ます。本記事では、まず両者の制度的な定義を整理し、その後「違い」「メリット・デメリット」「選び方のポイント」「注意点」を詳しく解説します。
対象とする読者は、不登校支援を探している保護者・本人・教育関係者などです。特に、どの道を選べばいいか迷っている人にとって役立つ内容にしていますので、参考にkしてみてくださいね。
「不登校特例校(学びの多様化学校)」とは何か
制度的定義・背景
「不登校特例校」という名称は、かつて文部科学省が「不登校児童生徒対象の特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」として設けた制度ですが、最近では「学びの多様化学校」という名称に変える動きが出ています。
法律上は、学校教育法施行規則第56条(および準用規定)に基づき、「不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程」を編成できる学校として、文部科学大臣が指定できる制度となっています。
これは、一般の学校制度の枠組みをそのまま当てはめにくい不登校の子どもたちの実態を考慮し、授業時間の柔軟化、通学時間の調整、科目数の調整などが可能となる教育制度を認めるものです。
学びの多様化学校(不登校特例校)の主な特徴
以下は、制度的・実務的な観点から整理した特徴です。
項目 | 概要 |
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運営主体・位置づけ | 一条校(正式な学校)として運営。文科省指定校として扱われる。 |
転校・編入 | 現在在籍している学校から、不登校特例校への転校・編入が可能。 |
出席扱い | 通学すれば通常の出席扱いになる(出席日数としてカウントされる)ことが原則。 |
卒業・進路書類 | 卒業資格(高卒)を得られる、成績・内申書など進路関係書類を発行できる。 |
教育課程の柔軟性 | 標準的な指導要領に縛られず、授業数、授業時間、教科構成などをある程度調整できる。 |
費用・公私区別 | 公立なら授業料は基本的に無料(通常の学校と同様)だが、私立校では授業料が発生。 |
設置校数・地域偏在 | 全国にはごく少数(例:10都道府県に21校程度)しか設置されていない状況。 |
入学・選考 | 学力検査・面接等を行う学校もある。年2回以上入学可能な所も。 |
たとえば、2022年時点では全国で21校程度(10都道府県)に設置されており、首都圏に偏っているという指摘もあります。
こうした実態をふまえると、「不登校特例校=学びの多様化学校」は理論上非常に魅力的な制度ですが、アクセス性や実際の選択肢の少なさがハードルになることがあります。
「フリースクール」とは何か
基本的な定義・性格
フリースクールは、学校とは異なる「学校外の支援施設・教育施設」であり、不登校あるいは学校に通えない子どもたちに対して、学習支援、生活支援、居場所提供を行う場を指します。
フリースクールは、学校制度とは異なる理念で運営されることが多く、「縛りを減らした自由な学び」「自己選択性」「子どもの主体性重視」「体験活動重視」などを特色とします。
運営主体は民間団体(NPO、一般社団法人、大学系団体、個人など)が多く、公的な学校とは違い、法律上の学校ではありません。
主な活動・プログラム例
フリースクールによって内容は多様ですが、以下のような活動を行うところが多いです:
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講義形式授業やワークショップ型授業
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社会体験・職場見学・インターンシップ・地域活動との連携
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自然体験・アウトドア活動・農業体験など生きた学び
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アート、音楽、演劇、手仕事など創作活動プログラム
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オンライン参加型プログラム、ハイブリッド型スクール形式
因みに、フリースクールは入学資格を特に設けていないケースが多く、年齢・学年を問わず受け入れることも一般的です。
費用・運営実態
フリースクールの費用は施設によって大きく異なりますが、文部科学省の調査等によれば、月額で約3前後が平均例というデータもあります。
また、入会金や施設維持費、教材費などが別途かかることも多いです。
運営形態・規模もさまざまで、十分なスタッフを擁するスクールもあれば、小規模な場でゆるやかに運営しているものもあります。
不登校特例校とフリースクールの「違い」比較して整理します!
以下では、両者を対比しながら、「違い」「注意すべき点」「選ぶ際の視点」を整理します。
比較:不登校特例校&フリースクール
観点 | 不登校特例校(学びの多様化学校) | フリースクール |
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法的地位・制度性 | 正式な学校(公立・私立)/学びの多様化学校 | 学校外施設であり、法律上の「学校」ではない |
転校・在籍 | 転校(編入)が可能、通常は在籍校を外す | 元の学校に在籍したまま通う場合が多い |
出席扱い | 通学すれば出席扱い(出席日数にカウント) | 条件次第。学校・教育委員会の判断で出席扱いになる場合あり |
卒業資格・進路資料 | 学校として扱われ、卒業証書取得可能。進路書類・成績証明も発行 | 基本的には進路資料・卒業証書は発行されない(元在籍校に依る) |
教育課程の柔軟性 | 標準枠を超えた調整可能(授業時間・内容の調整など) | カリキュラムは柔軟、独自方針で支援・体験重視 |
対象学年 | 小・中・高校レベル(設置されている学校による) | 小学生~高校生まで幅広く受け入れがあり得る |
アクセス性・設置数 | 極めて少数・地域偏在 | 全国各地に多数。地方でも存在しやすい |
費用 | 公立なら無料、私立なら授業料あり | 基本的には有料(入会金・月額等) |
選抜・入学 | 面接・学力検査を課す学校もある | 入会制。選抜がある施設もあるが流動性高い |
主な目的・役割 | 正規学校として通学を保証しつつ、不登校者に配慮した教育 | 居場所提供、学習支援、社会性育成を重視することが多い |
なぜ違いが生じるのか。制度的背景と理念の違い
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制度的枠組みの違い
不登校特例校は、「学校」であって、義務教育・高等学校教育の枠の中で、制度的に子どもの権利・義務・進路保障とつながるものです。一方フリースクールは、制度外(学校外)の選択肢であり、制度的な義務・進路保障とは必ずしも直結しません。 -
理念・運営方針の違い
フリースクールは「自由」「子どものペース」「体験重視」「自己選択型学び」の理念を重視し、型に縛られない柔軟な関わりを重視します。一方、不登校特例校は学校としての枠組みを持ちつつ、柔軟性を導入するハイブリッド型の制度です。 -
実態の違い・普及度
不登校特例校はまだ全国に数校程度という希少性・地域偏在性があります。
フリースクールの方が設置数が多く、地方への普及率も比較的高いという現実があります。
メリット・デメリットを比較する
選択肢として両者を比較したとき、以下のような利点・欠点を考える必要があります。
不登校特例校のメリット
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正規の学校としての保障
卒業資格(高卒)が得られ、進路資料(成績証明書・内申書等)も発行されるため、大学受験・就職などで不利益を受けにくい。 -
出席扱いによる保障
通学した日が出席日数にカウントされるため、出席日数が要件となる制度(例えば進級や奨学金など)でのクリア条件を満たしやすい。 -
教育課程の配慮
授業時間数や時間割、教科配分などを柔軟に設計できるため、体調・適応状態に応じた受け入れが可能。 -
社会的認知・制度連携
公的制度との連携がしやすく、補助・財政支援などを受けやすい可能性がある。
不登校特例校のデメリット
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設置数が少ない・アクセス性が低い
住んでいる地域に設置されていない可能性が非常に高いため、通学が現実的でないことも。 -
制度の未成熟性
制度導入されて年月が浅いため、運営ノウハウの蓄積や現場対応の成熟度には差があり、「柔軟性を謳いながら現場で対応が難しい」ケースもあり得ます。 -
通学に体力・時間的負担あり
通学そのものが困難な状況がある子にとっては、毎日の通学が大きな負担になる可能性があります。
フリースクールのメリット
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柔軟性・選択自由
時間・場所・学習スタイルに融通が利くことが多く、子どものペースを尊重できる。 -
居場所機能・心理支援重視
まずは「学校に行きたくなくなった子の居場所をつくる」ことが目的であるスクールが多く、無理を強いらない関わりができる。 -
アクセスしやすさ
地方でもフリースクールが比較的多く、選択肢が多い場合がある。 -
体験型・社会性重視のプログラム
教科指導だけでなく、体験学習・地域交流・プロジェクト活動など、学び以外の成長機会を重視するところが多い。
フリースクールのデメリット
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進路保障・卒業証書の欠如
卒業証書の発行は通常できず、大学受験や就職時に不利になる可能性がある。 -
出席扱いにならない可能性
学校や教育委員会が認めないと出席日数として認められないことがある。 -
費用負担が不透明
民間運営のため授業料・施設料・入会金等が高額となる施設もあり、家庭にとって経済的負担が大きい。 -
制度外ゆえの不安定性
運営基盤が脆弱な施設もあり、継続性・安定性に不安が残ることがある。
どちらを選ぶべきか?選び方のポイント
不登校特例校とフリースクール、それぞれにメリット・デメリットがあります。最適な選択をするためには、以下の視点・チェック項目をもとに判断するとよいでしょう。
チェックポイント一覧
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通える距離・アクセス性
通学が可能かどうか。交通費・通学時間・体力面から無理のない範囲で通えるか。 -
卒業資格・進路保障の必要性
大学進学や就職を考えているなら、正式な学校制度としての保障が必要かどうか。 -
出席日数扱いの確実性
制度的に出席扱いが確実か、教育委員会や在籍校の対応がどうか確認する。 -
費用負担
授業料・施設費・教材費などコスト面の見通しを明確にし、継続可能か。 -
運営方針・教育理念との相性
子どもの性格・学習スタイル・ペースに合うかどうか。自由度を重視するか、制度保障を重視するか。 -
スタッフ体制・支援体制
講師・支援者・カウンセラーなどの人員がどれくらいいるか。相談体制やケアがあるか。 -
入学・選考制度
すぐに入れるか、面接や試験があるか。入学時期の柔軟性(年何回受け入れ可能か)を確認。 -
実績・評判
先輩の卒業・進学実績や保護者の評判、地域での信頼性を調べる。 -
継続性・安定性
運営基盤のしっかりしている団体かどうか。長期的な運営可能性。
ケース別おすすめの選び方
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大学進学志望が強い/進路保障が必要な場合 → 不登校特例校が優先候補
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まずは居場所を確保したい・通学が厳しい場合 → フリースクールでゆるやかに始め、状況を見て制度校に移行する
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子どもの性格が自由・個性重視型 → フリースクールの自由度重視型プログラムが適合することが多い
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体調の波が大きく、毎日通学が難しい場合 → 柔軟に通える制度・支援がある学校を検討。オンライン支援制度等の併用も視野に
注意すべきポイント・リスクとその対応について
選択肢を比較する際には、いくつか注意点やリスクがあることも覚えておきましょう。
制度の変化・整備状況
出席扱いの確約性
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フリースクールでは、「出席扱いになる可能性がある」とされていても、実際に在籍校・教育委員会の判断に委ねられることが多い点。
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学校法規・取り扱いが学校ごと・自治体ごとで異なるので、事前に「出席扱いになるか」「卒業資格が得られるか」を書面で確認しておくことが安全です。
進路・受験対応
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フリースクールに長期間通いつつ大学進学を目指す場合、大学受験対策(受験科目・対策授業など)が十分提供されているかを確認する必要があります。
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不登校特例校であっても、入試制度や受験方式(一般入試・推薦・AO等)への対応力があるかを見ておくこと。
継続性・運営リスク
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フリースクールは運営基盤が脆弱な施設もあり、閉校・縮小といったリスクがあります。
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学校側の制度変更、補助金支援の変化など政策面の影響を受けやすい制度もあるため、長期視点で見た継続性を重視した選択が望ましい。
コミュニケーション・契約の明確化
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入会時に活動内容・支援内容・費用構成・退会条件等を明確にしておく。
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支援・相談体制(カウンセリング、メンタルケア、教員対応など)がどこまで整っているかを確認。
心理的・社会的側面
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弱っている心を無理に通学させるのではなく、まずは安心できる居場所づくりを優先すべき。
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子どものペースや意志を尊重し、「制度を押しつけない」ことが重要。
まとめ)選択肢を知ったうえで、自分に合った道を探そう
「不登校特例校(学びの多様化学校)」と「フリースクール」は、どちらも不登校・学校適応困難な子どもに対しての受け皿として重要な選択肢ですが、制度性・保障性・柔軟性において異なる性格を持っています。
制度保障・進路保障を重視する場合、不登校特例校が強力な選択肢になります。一方、まずは安心できる居場所が必要、通学が難しい、自由な学びを重視したいという場合には、フリースクールが適している可能性があります。
ただし、どちらを選ぶにせよ、「通えるかどうか」「進路対応力」「支援体制」「費用継続性」「制度変動リスク」などを慎重に検討することが不可欠です。
保護者のみなさんもお子さん本人も、納得して幸せな生活ができることの一助になれたら幸いです!