少し前のことなのに、写真を見返すともうずいぶん前のことのように感じる。春の写真には父がいて、ときどきあなたがいて、わたしはまだ髪が長くて、白い服ばかり着ている。どの日も、どんなときも、苦しさの影はたえずあったけれど、それでも確かに、一瞬一瞬を、生きていたんだなと思う。愛しいと言ってしまうと簡単だけれど、でもほんとうに、そうとしか言えないのだよ。だれだってそうだよ、たぶんね。少しずつ秋がその衣を厚くして、気がつくころには風もつめたくなっているのだろう。九月、終わってしまったな。九月、がんばったな。期限切れフィルムがまだまだたくさん残っていて、今年中に使いきるという目標を達成すべく、また写真を撮りにいきたいな。秋のあなたに、できれば冬も、つぎの春も、その先も、会いたいです、会いませんか、会いましょうね、いつもありがとう、おやすみ。
CARVIEW |
Old Spring
なつかしさをさがす
夢にて
なにも新しいものが生まれない関係性、昔の知り合いに久しぶりに会ったときに感じるあの虚しさ、それを家族へ、仲のよかった弟にさえ、感じる。もう終わっているんだな、と改めて思った。今日見た夢にて。
秋の朝
するするとほどいてほしい、こんなあほみたいな縛りの数々。もうなにもかも遠くなって、いまの自分をほんとうの意味で傷つけることはないのに、損なうことはないのに、経験したすべてのことが脳には記憶されているなんて話を聞くと、途方もなさすぎて倒れそうだよ。浅はかな人々と、なんにもわからなかった幼稚な自分と、そうそう、秋の朝のつんとしたさびしさをこの前においで思い出したよ。だれが悪いとかじゃないけれど、なにもかもよくなかった気がしてしまうよ。ほんとうはどうだったの?そうだね、もう細かくは覚えていないや、わたしも一緒。
初秋
なにか心が弱くなって、気がつけば秋で、まともに生きるのまともってなんだろう。ただ自分であることのどれだけの困難を味わえばその気持ちのよい肌にふれられる?限りある時間のなかで、少しずつ減っていくいのちのときを、ほんとうは一緒に過ごせたらどれだけいいだろうって、そんなことばかり考えてはなんだか最近とっても眠い。秋のはじめのあまさが切なくて、愛しくて、こんなふうに泣きたいよ、生きたいよって思ったよ、あなたは元気?元気でいてね。
朝焼けの話
朝焼けってあまりいい意味じゃないんだったよね? そんなことないんじゃない? え、そうだっけ? 意味なんてつけなくていいのにね、ただきれいだねってそれだけでいいのにさ。 そうだよね、きれいだね、だけでいいよね。 意味なんてつけなくたってどうせ今日は今日でしかないのに。 なにかかなしいの? ううん、べつに。 でもさ、夜より朝のほうが残酷だよね。 そうだね、残酷だね。 オレンジ色って痛い色だよね。 うん、すごく痛い。 でもオレンジジュースは好きだなぁ。 わたしはグレープフルーツのほうが好き。 グレープフルーツ、苦いんだもん。 だから安心するんだよ。 安心するの? そう。 安心したいの? そう、なのかも。
アイスクリーム
ほんの少し寝ただけで目が覚めてしまい、もう眠れそうになかったから、あきらめて起きた。こういう朝はいつも、アイスクリームが食べたくなる。そんな何年もを過ごしてきてしまったために、いつしかアイスクリームはかなしいものというイメージになってしまった。青くあおく、かなしいもの。あまくて冷たくて、かなしいもの。閉めきった部屋のカーテンの隙間からちいさな光がいくつもこぼれていて、それを見られたことだけは、目が覚めてよかったと思った。
青
夕暮れどきに、少しずつ、わたしを手放していきたい。離れ離れになったもうひとりのわたしを、呼んでみたい。青く澄んだものほど、かなしく愛しいものはないのに、それを知らずに去ってゆくものたち、移りゆくものたち。彼ら、彼女たちに、心からの祝福を、幸いを。そう願うばかりで、佇むばかりで、微笑むばかりで、そんな、いのちばかりで。
虫の音
書く意欲がない。脳が疲れているのか。だんだん夜に秋の気配を感じるようになってきた。虫の音(ね)という日本人の感覚は美しいな。疲れたなぁ。
白夜
真夜中の猫の叫び声がこわい。だんだん明けてくる東の空がこわい。音もなく沈黙する自分の部屋がこわい。ときどき聞こえてくる両親の咳や物音がこわい。あかるいうちに洗濯したい洋服で溢れかえっているのに、昼間の時間にわたしは存在しない。かといって夜と仲がよいわけではない。ほんとうはどこにもいないのかもしれない。姿のみえない猫と変わらない。何度いいきかせても時計は狂うから、わたしたちはきのう、ついに別れた。
引用をストックしました
引用するにはまずログインしてください
引用をストックできませんでした。再度お試しください
限定公開記事のため引用できません。