※本記事は尾崎匠海ラポスタソロ公演『CAFÉ』のネタバレを含みます。
救いと罪悪感
シアターGロッソという箱
幻想の解釈
誰にも言えない予想していたソロコン
開幕!
幾億光年
手紙と『手紙』
幻想を書いた思い
ヒーローの魔法
1.救いと罪悪感
アイドルが突然人生の“目の前に”現れてくれて、辛い局面で手をひいて別の世界に連れ出してくれるように救ってくれることは、ある。どうしようもなく、ある。
それは直接会うだけでなく、パフォーマンスの動画を見たり、ライブのコメントだったり、メールでの言葉だったり、目の前にいないくても“目の前に現れて”くれることが、ある。
かくいうわたしもそうだったから。すきなひとであるところの尾崎匠海さんは、人生で物凄くきつい気持ちになっていたときに出逢ってくれて、わたしの魂のありかを、魂を自由にそよがせることができる世界を教えてくれた。そこからずっと、彼の表現や言葉にたくさんのものをもらっていて、インスタライブでのたったのひとことをお守りみたいに握りしめたり、ある日の長文のプラメでくれたとある文章に一時間ほど声をあげて嗚咽するのが止まらなかったりしたこともある。
最近も、あった。大阪の野外でファンコンサートのあった11月3日の挨拶のときのコメントで、「自分らしく生きてね」と言ってくれたこと。わたしはそのとき人生の選択をしなければいけない局面にいて、大好きな地でそよがせていた自分の魂を殺す道を選ぼうとしていた。でも、まさにその日にレポでこのあいさつがあったことを見て、平塚の浜辺を泣きながら歩いた。なんでよりによってこの日に? と思った。そういう、日蝕 みたいに尾崎くんの行動やくれた言葉がわたしの人生のとある局面と噛み合って、呼応することはいままでにもあった。そういう魔法をここぞというときに、ふとくれる人だった。だから、尾崎くんがわたしのアイドルで大好きだった。
嬉しくて、それを言葉にしてきた。だけど、最近思うようになったことがある。
尾崎くんが伝えてくれたことは、尾崎くんが尾崎くんの人生のとある文脈と背景から思うところがあって伝えてくれたわけで、その意図がわからないのに勝手に解釈して受け取っていいのかな?
わたしはその意図を自分の都合の良いように捻じ曲げて受け取って、「救われた」と言っているだけではないのかな?
上記のような疑問がわたしの中で頭をもたげていて、尾崎くんに自分はなんと伝えたらいいのか分からなくなっていた。
2.シアターGロッソという箱
さて、そんな中でJO1とINIのメンバーがソロコンサートを行うという情報が解禁された。どきどきしながら見ていくと、尾崎くんはシアターGロッソで公演を行うということを知った。
シアターGロッソ!
ニチアサのオタクとしては、あまりにも聞いたことのある会場名だった。
わたしの家庭は父がヒーローものを見る家庭で、物心ついたときから休日の朝は仮面ライダー や戦隊もの 、ウルトラマン がテレビで流れている中で育った。子ども向けのヒーローものは、おためごかしではなくその時代の子ども像が入念に調査されているのがうかがえる。そこに向かって「この世界には希望があるんだよ!」というメッセージを、その年に選択されたモチーフに絡めて、ひとつひとつ丁寧に作り上げられているから、大人になっても台詞一つが純度高く光っていて泣きそうになってしまう。最近ではドンブラザーズの感想を友達と語り合い、キングオージャーをメイクをしながら見て泣いてメイクがくずれるなどしていた。
シアターGロッソの話に戻ろう。その戦隊モノがヒーローショーをやっているのが、まさしくシアターGロッソという会場だ。番組の途中で流れるCMで「シアターGロッソで、僕と握手!」と言いながらその年の赤レンジャーが子どもと握手している映像と音声が流れるので、ニチアサオタクの脳には刷り込まれている会場名だった。
ヒーローショーをやっている会場で、尾崎くんがソロコンをする!
わたしはその時点でもう嬉しかった。尾崎くんはずっと「皆んなを幸せにする」「皆んなの支えになりたい」と掲げているキラキラアイドル担当だから、まさにヒーローでぴったりだと思った。
公演名は『CAFE』らしく、尾崎くんがカフェをオープンするらしい。わたしはわくわくしながら続報を待った。
3.幻想とa‘
おみくじで大吉が出たのだが、今年の運を全部つかったというような塩梅でなんとかソロコンに当選し、どんな公演になるか楽しみにしていた時、それは来た。
VIDEO youtu.be
“あなたと会えるこの瞬間は 当たり前ではない”
“この光景を大切に心にしまっていたい”
最初はカバー曲か……? と思っていたけど、このサビを聞いた瞬間にこの曲は絶対に絶対に尾崎くんがつくってくれた曲だと確信した。“あなたに会える”って、アイドルとファンがステージの上と客席で会うその日の光景を歌っているんだよね。絶対にそう。題名が『幻想』という、一見冷たい意味を彷彿とさせる言葉をそれでも掲げてつけたところも大好きで、わたしは第一印象では「尾崎くんは“幻想”と書いて、“アイドル”と読むんだ」という風に解釈した。
何度も、でも急がず大切に咀嚼したくなるような曲で、毎朝毎晩再生したり、約毎日フォロワーとDMで考えられる解釈を語り合ったりした。冒頭にはグラスに水を注がれて、氷が溶けてかしいだ時のような音が入っていたり、最後にはカフェのドアが開いたときのベルのような音が入ったりしていて、コンセプトのCAFÉを想像させた。どうやって公演と繋がるのか楽しみだった。MVの映像ではアパートの一室を映していたが、大きめの植物がたくさんその部屋に並んでいるのを見て、物言わぬ植物が大衆に何を言われても舞台に立ち続けるしかない表舞台の人の姿に見えるなと思ったり、じっくりと我々が見えないところで表現を磨き育て蓄えるアーティスト性のようなものも感じたりした。
その中でも、やっぱり『幻想』という題名の解釈はいくらしても尽きることがないくらいだった。わたしははじめ、「尾崎くんは“幻想”と書いて、“アイドル”と読むんだ」と思ったけど、フォロワーが「私たちが見ているのは、アイドルの匠海くんを通じて私たちが作り上げている“理想像”としての匠海くんであり、幻想」という解釈を聞いて、わ、わかる……ともなった。わたしはa’という話を聞いたことがあった。わたしたちが見ているのは、アイドルそのもののaではなく、各々がまなざして投影したa’なんだよ、という考え方。ともすれば、わたしが尾崎くんに救いを見出すのも、勝手に解釈したa‘がもたらすものだ。
でも。それでも、と思う。
尾崎くんが自作曲のこの曲のタイトルに『幻想』とつけたのは、絶対に「お前らの見てるのって幻想なんだぜ」ってわたしたちをあざ笑うためじゃない。そういう人では絶対にない。誰よりも真剣にアイドルについて哲学を打ち立てている尾崎くんだ。きっと、「幻想」がもたらす希望を誰よりも信じているからだ。その確信があった。
コンセプトのカフェを想像させるような音が入っているところからも、ソロコンでこの曲を尾崎くんはやるだろう。わたしは当日の『幻想』を聞いて、解釈をまた深めようと思った。
4.誰にも言えない予想していたソロコン
『僕自身の二面性というか 表に立っている自分と プライベートの自分というものを 二つ見せれたら』
ソロコン当日が迫ってきて、どんな内容になるか予想をしたくなる時勢、わたしには誰にも言えない「わたしのかんがえるおざきたくみさんのソロコン」があった。
それは、「コンセプトはCAFÉだけど、キラキラアイドルとしてキメッキメのバチバチ アイドルステージをする尾崎くんと、ほんわかとカフェ店員をしたりお客さんとして来ていたりする尾崎くんの姿の両方が見える公演だったら、死ぬな~♪」だった。
事務所の公式動画で以前尾崎くんが冒頭のような発言をしていたのもあって考えていたものだったが、「いや……まさかね笑笑」という思いの方が強かった。だって、シアターGロッソの公演終了時間は22時と決まっているらしいから、多分21時からやる尾崎くんの公演はたったの1時間だし、そんな時間はないだろうな。
「でも、ファンが見たいものを分かってくれている人なんですよね?」
最近できた、尾崎くんのことを語っている友達にソロコンのその誰にも言えない予想を話した時、その友達は言ってくれた。
「やってくれるんじゃないですか?」
「いや笑笑まさか笑笑」
わたしは「心の底から願っていたことが叶わなかったら本当にかなしいから」という自己防衛反応でその予測がかなうと思わないようにしていたから、笑ってごまかしていた。
そして当日、“それ”はきた。
5.開幕!
いよいよ当日。開園時間になり、かかっていた音楽が鳴りやみ暗転した。客席からステージの上を一心に見つめる。
ステージの後方中心にスクリーンがあり、そこに映像が映し出される。
『ジジジジジ ジジジジジ』
流れてきたのはCAFÉを彷彿とさせる映像——ではなく、スパークするような、緑色の文字で描かれるコードが次々と映るような、衝撃!というような感じのイメージ映像だった。あれ? CAFÉは? そう思っていると、ステージ後方中央にハの字型に並ぶバックダンサーと中央にシルエットが現れる。歓声が上がった。
照明が当たる。そこには白の王子様系衣装を着てギラギラに歌って踊る尾崎くんがいた。
CAFÉじゃない! 聞いてないよ! 彼の古巣エーベックスを想像させるような、イケイケバッチバチのちょっとセクシーさもあるような曲調だった。踊りながらなのに、歌がぶれてなくて、大好きな歌って踊れる尾崎くんだなと思った。多分一曲目だったと思うのだけど、「そのままついてきて、いくよ!」という煽りをいれていて、パフォのときは強気で強引にこちらを奪っていく尾崎くんがいてこれこれ、これだよね~となった。会場は沸いた。
一曲目が終わると、次の曲はサビをみんなで盛り上げてほしいと声出しをお願いして煽っていく尾崎くん。二曲目もアップテンポの曲で、ラップも入っていた。ヘッズ尾崎くんだ……。吐息を入れる感じのパートもあって、悲鳴が上がっていた。ギラギラアイドル尾崎匠海くん。尾崎くんが見せたい尾崎くんと、わたしが見たかった尾崎くんが一致していた。そう、誰にも言えなかった予想の「バチバチ アイドル尾崎くんも見たい」という欲望が叶ってしまった瞬間だった。
二曲目が終わり、暗転してはけていく尾崎くん。みんな思っていたと思う。
待って。そりゃ見たかった尾崎くんだけど、CAFÉってなんだったの?
そうしているうちにVCRが流れ出す。木々のある階段をのぼっていくと辿り着く、僻地にありそうな落ち着いた雰囲気のカフェが映される。そこを昇っていく人影があり、エプロンを身に着けた。今より明るい茶髪でふわふわにまかれた髪の尾崎くんが映る。そうして準備されたカフェに、INIのペンライトを持った女性客が二人現れる。MINIきとるやん、と思ってちょっと笑った。
『INI、かっこよかったよね!』
『尾崎匠海くん、かっこいい。えくぼがいい!』
席に着いて話し始める女性が話しているところに、尾崎くんがコーヒーを入れてやってくる。
『本人ですよね?』
『いや、違いますよ』
何気ない感じで誤魔化して受け流そうとする尾崎くん。どうやらアイドルであることは隠してカフェをやっているらしかった。何度も「だってえくぼありますよね?」とか聞かれるけど、しらを切りとおす尾崎くん。尾崎くんの演技ってコメディシーンの間や、何気なく聞こえる言い方がいいというのがあると思うのだけど、ここでもそれが出ていて「全く知らないです~」みたいに言ってみせる演技が好きだった。会場から笑い声があがる。誤魔化しきってその場を離れて、別のお客さんの注文をとりにいく尾崎くん。でも、実は本当はそのアイドルだからとほほえんでいて……みたいなカットが映し出されてやっぱそうじゃん! となる演出がされていた。そして、明転する。
「呼んだ? あれ、誰かいてここでなんかやってたよね? あれ、誰なんだろうね?」
カフェエプロンを着た実物の尾崎くんが舞台上に現れる。「髪型が違う!」という悲鳴があがった。どうやらさっきのバチバチ アイドルのヘアセットから、ストレートヘアに髪型もチェンジしてきたらしかった。恐ろしいまでのこだわりと観客のツボを押さえている。そして、実際に現れた尾崎くんも「さっきまでの人は知らない人」のていでいて、ライブの演出という感じのストーリーがあって楽しかった。
「今日はラフな感じでいきたいから。みんなと喋りたい。俺の好きなものを知ってほしい。この舞台上でも俺の好きなカフェの感じを再現してみました」
舞台上にはカウンターや植物のセットが置かれていた。「コーヒーもあるから飲んじゃおうと思って」と、カップ にコーヒーを注ぐ尾崎くん。がんばれー! という声が上がって「それくらいできるわ!」と応える尾崎くんがいて笑った。「後ろも盛り上がってる?」とちょいちょい聞いてくれて、後ろの方の席にいたわたしも含め、ペンライトと歓声で応えた。
コーヒーを飲みながらにこやかに尾崎くんは話した。
「平和だね。ラポスタは平和が一番♪」
わたしは尾崎くんが愛嬌を武器に強引にこちらに約束させる、かわいさを資本としてしまうアイドルだな~となる瞬間が好きだったので笑った。
舞台上でたくさんしゃべってくれる尾崎くんの姿を見て、あの少しかすれているけど張りのある声を聞いて「この人ほんとうにいいひとなんだろうな」みたいな気持ちになった(シンプル感情)。引っ張ってくれて、芯の強さを感じさせる気のいい青年という感じで、でもたしかに尾崎くんって本当はなにを考えているか分からないと言われることもあるから、こういう姿はめずらしいなと思った。
6.リクエス ト曲ランキング!
続いては、リクエス トを募ったカバー曲を、色々な事情の関係でもっと歌いたかったけれど一曲だけ披露するという話になった。
発表されたランキングは以下だった。
5位:『虹』二宮和也
4位:『風神』Vaundy
3位:『ウェディング』音田雅則
2位:『One Love』嵐
「早く次いけって感じ?」と言いながらも、「いっぱいみんなと喋りたいからさ!」とランキングが発表されると一曲一曲、想いや背景を語ってくれる尾崎くん。そしてついに一位が発表される。
1位:『幾億光年』
「アイドルラジオでAメロだけ披露した時に、好評だったみたいで……」と尾崎くんは話し、『幾億光年』を披露することとなった。「この曲高いよ~~」と泣き言を言いながら、カフェ店員の服装のまま歌い出す。
いや、上手いからね?
ピッチにビタビタにあてながら、あの空気の織り混ざった声で表現に昇華して歌う尾崎くんの歌声に聞き惚れる時間だった。さっきまで本当にラフな感じだったのに突然百選錬磨のシンガーにスイッチが切り替わってて技巧をみせていて、歌声だけで空気感を変えてしまうのがステージの上の人だなあと思った。ライティングがオレンジがかった光の色になって、尾崎くんメンカラがオレンジだけれど、その切ないような声が、暮れて終わっていく二度とない一日の切ない時間と重なって、すごく似合ってるなと今さら思った。
「むずいよお」
終わってからも泣き言を言ってたけど、うまかったからね?
7.手紙と『手紙』
「文字書くの苦手だけど、文字書くの苦手だけど? 文章を書くの得意じゃないんだけど、手紙を書いてきました!」
ランキングのコーナーが終わって、尾崎くんは便せんを取り出した。「ちょっと紙がちっちゃくて」とわたわたしながらも読み上げてくれた。
応援してくれることへのお礼、ステージの上に立って届けることができる環境に感謝していること、みんなの時間をINIにつかってくれてありがとうということ……読み上げている途中、どんどん声をつまらせていて、「皆んなには幸せでいてほしいです」のところで一番泣きそうになっていた。ひとの幸せを強く願うところで一番感情がこもってしまうというのが、すごいひとだなあ、と思った。特に印象に残ったのが、「活動する中で自分の奥底がネガティブなことに気づいたからこそ、皆んなにはポジティブに前向きにいてほしいです」と言っていたことだ。尾崎くんは明るくいようとする人だけど、自分がネガティブになっているときに物凄く辛かったから、そういう辛い思いをしてほしくなくて、考えすぎて悪い方向にいってほしくなくて、だからこそ他の人に前向きな気持ちでいる瞬間が多くあってほしいと思うのかなと、想いの核にある部分を知ることができた気がして嬉しかった。
手紙を読み終わると、「路上ライブをしていたときも歌っていて、今歌ったらどんな気持ちになるのかと思って」と、HY の『手紙』を披露してくれることになった。サビのファルセットが空気のように清廉さがあるのにマイクによく当たっていて綺麗で、大好きな尾崎くんの歌い方だと思った。サビの最後の「振り向きもしないまま去っていく君の背中を 冷たい日が差すよ」の置きざまが、すっと本当に青色の陽がすっと差し込んだようで、物語みたいに歌う人だなと思った。
8.幻想を書いた思い
「早いもので、次の曲が最後になるんですけど」
会場からえ~と名残惜しそうな声が上がった。楽しい時間はあっという間だ。「それぞれの人生に重ねて聴いてくれたらいいんですけど、」というFrontきをして、尾崎くんは作詞作曲した『幻想』について背景を語ってくれた。
曲を、それぞれの人生に重ねて聴くことを許してくれるのをやさしいと思った。でも、尾崎くんの想いも聞きたかったから、話してくれることが嬉しかった。
自分が生きるのに絶望していたことがあったから、そんな時にも希望はあるんだよと伝えたかったこと、冒頭で二曲オリジナル曲をやったが、『幻想』が一番初めにできた曲だったこと、自分の過去のことも書く必要がでてきたこと……。
「それぞれの希望を」
「俺を支えにしていいから」
そうやって尾崎くんは言ってくれた。そして、最後の曲の『幻想』が始まる。
MVの冒頭にもあった、グラスの氷がかしぐような音は本番でも入っていた。その音が鳴った瞬間、薄青のピンスポがすっと尾崎くんにあたり、まさしくひんやりとしたグラスを想像させた。
ステージの上と客席で、アイドルとファンは逢う。“この瞬間”が、ここにあった。“あなたにどんなことがあっても 僕は君の味方だから今は一緒にいよう”が、本当に言葉の意味がひとかけらも損なわれず、ピントがぴたっと合った映像のようにまっすぐに届いた。「伝えること」を主眼に置いてパフォーマンスをする尾崎くんらしさが今日も健在で嬉しかった。
最後の曲が終わってしまう。尾崎くんが「帰りたくねー」と言いながら、一番最初に出てきたステージの後方中央へとなんとか歩いていく。わたしたちは手を振った。
本当に、終わってしまった。
9.ヒーローの秘密の魔法
『俺を支えにしていいから』
シアターGロッソを後にした帰り道、『幻想』への想いを語ってそう伝えてくれた尾崎くんの言葉を繰り返し反芻した。言葉に書き出してしまえば簡単に見えるけど、それを言う尾崎くんは背負う覚悟を決めている人のそれだった。
「それぞれの場所でがんばろうね」と尾崎くんはよく言ってくれる。わたしはこの言葉が大好きだった。
冒頭で言っていた、読んで一時間嗚咽が止まらなかったプラメの文章について、友達に話したことがある。友達のKさんは、それを聞いてこう言ってくれた。
「きっと、尾崎くんは本当に人を助けたいという思いが強いから、それぞれの人生で辛いことがあったときに、その人のもとに現れてあげたいんだね」
尾崎くんを応援するようになって知った。アイドルとファンは、本当にお互いがそれぞれ辛い時に、リアルタイムで会うことはできない。会える日を待ちわびて、辛い時をなんとかした先で会うしかない。そのことがもう分かっていた。
そうか。それでも、尾崎くんは現れてあげたいと思ってくれているのかもしれない。
だとしたら。
わたしは最近、尾崎くんの表現やくれた言葉に励まされたときに、自分の背景を勝手に絡めて救いを見出すことに、いいのかな? と思っていた。“辛い時にいつも救い出してくれる人”という理想像を重ねて、幻想を見出していることに、罪悪感を感じることもあった。
でも。
でも、ひょっとしたら、アイドルという職業をどこまでも追及している尾崎くんは、本当はそんなの百も承知なんじゃないかな?
承知の上で、本当に辛い時に実際には現れてあげられないけど、それぞれの人の人生の場所に希望として、自分が“目の前に現れて”あげられる魔法が、この世にあることを知っているのではないかな?
尾崎くんは、そういう“幻想”の力を信じている。それぞれの人生で出会う尾崎くんがわたしたちにとってとても大事なものであることを、分かってくれているのではないかということ、許してくれているのではないかということ。
それが「俺を支えにしていいから」という言葉が指すものではないのかな。
反則技みたいな、でもアイドルだからスペシャ ルオールオッケーな、a’の魔法。それを尾崎くんは知っていて、それを必殺技として使うヒーローなんじゃないかと思う。その魔法を、ただひとつ実現させる方法を、尾崎くんは痛いくらいに知っている。
魔法をつかうたったひとつの方法は、一心に打ち込んだ表現で、姿勢で、人の心を打つことだ。
わたしたちが見るものは、幻想なのかもしれない。それでも、尾崎くんがくれるものがあったからこそ、投影される希望の幻想だ。尾崎くんが魂を込めた表現をしてくれなかったら見えなかった幻想だ。
そうして、気づく。
もしかしたら、尾崎くんが見ているのも“会いに来てくれるファン”という幻想のわたしたちなのかな。だから、“そっと胸にしまって”おくなんて表現をしてくれたのかな。あなたが心の中で、理想の混ざったファンの姿を描いてくれて、それを掲げて頑張ってくれることがあるのかな。
だとしたら、なりたい。あなたの日々に現れるふとした希望に。
必殺技返しだね。もう知っている方法はただひとつ。
心をこめることだね。
選んで選んで選んで、選び抜いた言葉で、わたしはあなたがどんなふうにわたしの目の前に希望の光として現れてくれたのか、伝えることにする。
2025/2/2 追記:……というようなことを書いていたら、ラポスタ3日目で尾崎くんが「出逢ってくれてありがとうーー!」と曲の始まる前に叫んでくれた! 神アイドル♪