前提
1)肺胞の毛細血管内で1乃至4分子の酸素分子がヘモグロビン分子と配位結合を形成する際の各反応に基づくギブスエネルギー値の変化(ΔrrG)は等しく、
0乃4分子の酸素が配位したヘモグロビン分子の連動するギブスエネルギー値の変化(ΔrG)の差(ΔΔrG )に関わりなく自発過程であり得る負の値です。
ΔrG₀は両性イオンである各グロビンの等電点の値(pI値)と血液のpH値との差の絶対値に連動するギブスエネルギー値の変化を表します。
又、異なる両性イオン間のΔrG₀の差をΔΔrG₀で表します。以下、ΔrG₀を連動するギブスエネルギー値の変化と呼びます。
各ヘム機構と酸素1分子との配位結合形成に基づく反応ギブスエネルギー値の変化を(Δ r' G₀)で表して、
上記の連動するギブスエネルギー値の変化(ΔrG₀)と区別しています。
2)体の組織の末端において、デオキシミオグロビン(MG0)とオキシヘモグロビンA(HGA4)がレドックス反応してオキシミオグロビン(MG1)とデオキシヘモグロビンA(HGA0)とが生成する際、
各レドックス反応に基づくギブスエネルギー値の変化の絶対値|Δ r' G₀|は等しく、その値は相殺されて零となる。
連動するギブスエネルギー値の変化の差(ΔΔrG )の和は負の値となるから、体の組織の末端における当該レドックス反応は自発過程となります。
3)前提の1)と2)からヘモグロビンの協同性についての解釈は、
各反応における溶質に対する溶媒和に基づくギブスエネルギー値の差(ΔΔrG )に依存することになるので、
各反応に基づくギブスエネルギー値の変化(Δ r' G₀)については考慮することなく、連動するギブスエネルギー値の変化の差(ΔΔrG )について検討します。
4)肺胞の毛細血管内で1乃至4分子の酸素分子がヘモグロビン分子と配位結合を形成する際の各反応は同一又は極めて類似する反応であるから、
生成物についての熱力学的支配による説明は反応速度支配による説明と一致するものとします。
反応生成物のより大きな熱力学的安定性はしばしばその反応の活性化エネルギー値の低下をもたらすことはよく知られているところです。
5)オキシヘモグロビンAがデオキシヘモグロビンFとレドックス反応をする際の、反応に基づくギブスエネルギー値の変化(Δ r' G₀)は相殺されて零となります。
6)反応に基づくギブスエネルギー値の変化(Δ r' G₀)は、連動するギブスエネルギー値の変化の差(ΔΔrG)を含まないものとします。
ヘモグロビンについての熱力学的考察
1)ヘモグロビンの協同性
ヘモグロビンの協同性とは、
4個のヘム機構を持つデオキシヘモグロビン1分子に、1分子の酸素分子が配位すると次の酸素分子の配位する反応速度が加速され、
4分子の酸素分子が配位するまで反応速度の加速が連鎖すること、及び、
オキシヘモグロビン1分子から、1分子の酸素分子が解離すると次の酸素分子の解離する反応速度が加速され、4分子の酸素分子が解離するまで反応速度の加速が連鎖することです。
2)連動するギブスエネルギー値の変化 ΔrG₀
ΔrG₀は両性イオンであるヘモグロビン等のグロビンの等電点の値(pI値)と、
血液のpH値との差の絶対値に連動するギブスエネルギー値の変化を表します。
又、異なるヘモグロビン等の両性イオン間の連動するギブスエネルギー値の変化(ΔrG₀)の差をΔΔrG₀で表します。
ヘモグロビンは両性イオンであるから、両性イオンについての酸の強さ(pKa値)、(両性イオンの)等電点(pI値)及びpH値と連動するギブスエネルギー値の変化(ΔrG₀ )を表す式を用いてみます。