国際仏教フォーラム2025
2025年9月25日から28日まで、ロシア連邦カルムイク共和国の首都エリスタにおいて、第三回国際仏教フォーラムが開催される。このフォーラムは、ロシアの仏教地域であるカルムイク、ブリヤート、トゥヴァが中心となり、仏教の哲学や文化を現代社会に適用する場として企画されるものだ。
2018年に始まったこのフォーラムは今回で3回目であり、仏教国や仏教コミュニティを擁する国々との対話を促進している。
開会式では、著名な演出家アンドレイ・ボルテンコによる音楽劇「遊牧民の旅」が上演され、カルムイクの民間伝承と仏教哲学を9つのLEDスクリーンで視覚化するとのこと。ロシア連邦副首相ドミトリー・チェルニシェンコ、カルムイク共和国首長バトゥ・ハシコフ、シャジン・ラマのゲシェ・テンジン・チョイダクらが出席し、国際的な注目を集める。
参加国は約35カ国に及び、アジアを中心に多様な地域が含まれる。具体的には、中国、インド、スリランカ、バングラデシュ、ネパール、カンボジア、ミャンマー、韓国、モンゴル、ブータン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、ウガンダ、ベラルーシ、セルビア、ブラジル、ドイツ、スペインが参加を表明している。
ロシア国内からは、カルムイク、ブリヤート、トゥヴァの仏教地域が参加し、特にカルムイクのゴールデン・テンプル(フールルン・スム)が文化的なシンボルとして強調される。
開会式では、中国、モンゴル、スリランカ、ミャンマー、カンボジア、ネパールからの仏教指導者がメッセージを発信し、仏教の多様性と普遍性を示す。これに対し、西側諸国(米国、英国、カナダなど)の参加はほぼなく、BRICS諸国や非西側諸国が中心である点が特徴である。
日本は参加していない
日本は、浄土真宗、禅宗、日蓮宗など独自の仏教文化を持ち、国際仏教イベントへの参加実績もあるが、国際仏教フォーラムの参加国リストに含まれていない。過去のI回目(2023年、ブリヤート)、II回目(2024年、ブリヤート)でも日本の参加は確認されておらず、この不在にはいくつかの背景が考えられる。
第一に、ロシアと日本の外交関係が影響している。北方領土問題やウクライナ情勢を背景とした制裁により、両国の関係は冷え込んでおり、文化イベントへの参加が控えられている可能性がある。第二に、このフォーラムはロシア主催で、中国やBRICS諸国との連携を重視する傾向があり、西側寄りの日本が積極的に関与する動機が少ない。第三に、日本の仏教界は国内中心の活動に注力し、国際的な仏教フォーラムへの参加はインドやタイ主催のイベント(例:Global Buddhist Summit)に限られる傾向がある。
しかし、このフォーラムの趣旨は、仏教の哲学や文化を現代社会の課題に適用し、非西側諸国を中心とした文化外交を推進することである。日本の仏教は、禅やマインドフルネスのグローバルな影響力を持ち、フォーラムのテーマ(現代研究、観光、伝統医学)とも合致するので、政治的配慮や優先度の低さから参加が見送られたと推測されるならば残念なことだ。
国際仏教フォーラムにおける日本の不在は、フォーラムが「国際」と銘打ちつつも、西側諸国を包括しない限定的な枠組みであることを結果的に示唆することにもなりかねない。対照的に、韓国は参加しており、曹渓宗などの代表が仏教哲学や観光の議論に貢献する予定である。また、台湾の不在も、中国の政治的圧力を反映し、フォーラムの参加国選定が地政学的に影響を受けていることを示している。
かくして、日本の不参加は、仏教の普遍性を強調するフォーラムの趣旨とは直接関連しないが、ロシア主導のユーラシア圏の仏教ネットワーク構築において、日本の影響力が限定的である現実を浮き彫りにする。
国際仏教フォーラムの主要課題
フォーラムのビジネスプログラムは、仏教の現代的意義を多角的に探讨する6つの主要テーマで構成される。
第一に、「現代研究における仏教」では、仏教哲学を倫理、環境問題、精神的健康などの現代的課題に適用する学術的アプローチが議論される。第二に、「仏教文化」では、カルムイクの民間伝承やスリランカのテーラワーダ、モンゴルのチベット仏教など、参加国の文化遺産を保存・発展させる方法が検討される。第三に、「アジアにおける仏教の歴史」では、インドの仏教復興やロシア仏教地域でのソビエト時代後の再興など、地域ごとの歴史的文脈が振り返られる。第四に、「僧侶制度の維持」では、グローバル化や世俗化の中で僧侶の教育や役割をどう維持するかが焦点となる。第五に、「仏教と観光の魅力」では、仏教の聖地や寺院(例:カルムイクのゴールデン・テンプル)が観光資源としてどう活用されるか、国内外の観光振興が議論される。第六に、「仏教国の伝統医学」では、チベット医学やアーユルヴェーダの現代医療への統合が探求される。
これらのテーマは、ユーラシア圏の仏教が直面する課題を反映している。カルムイクやブリヤートでは、ソビエト時代に抑圧された仏教が復興しつつあり、フォーラムはその文化的アイデンティティを強化する場である。
中国やモンゴルはチベット仏教の影響を共有しつつ、独自の仏教文化を発展させてきた。スリランカやミャンマーはテーラワーダの伝統を代表し、仏教の多様性を示している。
韓国は現代仏教の社会的応用を議論に持ち込んだ。これに対し、西側諸国の不在は、ユーラシア圏の仏教がロシアやBRICS諸国を中心に再構築されている現実を浮き彫りにする。
文化プログラム(イゴール・ブトマンのコンサート、武術フェスティバル「力と精神の調和」)も、仏教の精神性を芸術や身体表現で補強し、ユーラシアの仏教文化の魅力を発信するものと見られる。
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