寓話

カガミさんは、世の中の「ちょうどいいこと」が、あんまり好きじゃありませんでした。 テレビのドラマで、曲がり角でぶつかった二人が恋に落ちたり、困っていると必ず誰かが助けに来てくれたりするのを見ると、いつも少しだけ眉間にしわを寄せて、こう言うのです。 「まったく、なんてご都合主義なんだ。そんな偶然、あるものか」 誰かが「わかるよ」と慰め合っているのを見ても、同じでした。 「傷のなめ合いだ。そんなことで、何かが解決するわけじゃないのに」 カガミさんにとっては、世界はもっとキッチリと、理由のあることだけで動くべきだったのです。 ある日の午後、カガミさんが知らない道を歩いていると、古びたレンガでできた、…

ピアニストの糠森ひなにとって、その音は、一日のうちで唯一、世界と調律が合う瞬間だった 。 午後三時きっかりに、街のどこからか、ふっと響いてくる十三秒間のハミング。低く、長く、けれど澄んだ、電子音とも人の声ともつかない不思議な音色。コンクールの失敗以来、鍵盤に触れるたびに指先を強張らせるようになった彼女にとって 、その音は、張り詰めた心身を優しく弛緩させる、秘密の音叉のようなものだった。 その日、ひながSNSを開くと、一本の動画が目に飛び込んできた。街の広場で、数人の若者が、例のハミングに合わせて、わざと大げさに頭を抱え、苦悶の表情で倒れてみせる。そんな悪ふざけの映像だった。添えられた投稿には、…

マルは、せんをかくのが とくいでした。きれいな まるい せんを じめんに かいて、その なかに すわるのが だいすきでした。 まるい せんの なかは、マルの くに。あんしんできて、ここちよくて、だれにも じゃまされない、とくべつな ばしょ。 せんの そとがわは、みんなの せかい。なんだか とても とおくて、すこしだけ こわい ばしょ。 だから マルは、いつも せんの なかに いました。 あるひのこと。 ふわふわと、わたげのような ものが とんできて、マルの せんの すぐそばに、そっと おりたちました。よくみると、それは ちいさな おとこのこでした。かみのけも、ふくも、しろくて ふわふわしていま…

ソラは、雨があまり好きじゃなかった。 外で遊べないし、空はどんよりと重たい灰色だし、ザアザアという雨音は、世界中の楽しい音をみんな消してしまうような気がしたからだ。 雨が三日も続いた午後、ソラは窓に額をくっつけて、ため息をついた。 庭の紫陽花だけが、雨粒を宝石みたいにきらきらさせて嬉しそうにしている。 「いいなあ、紫陽花は。雨が好きなんだもんな」 ソラは、なんだか自分だけがひとりぼっちみたいで、少しだけ泣きたい気持ちになった。 そのときだ。 ぴた、と雨音が止んだ。世界が急にしん、と静まりかえる。 すると、どこからか聞こえてきた。 「チチッ、チュリリ、ピピピ！」 それは、一本の澄んだ、けれど力強…

こんにちは、マイナと申します🐱 今日も見に来てくれてありがとうございます。 みなさんは幼いころ、どんなお話を聞かせてもらいましたか☺️ 今日は、「うさぎと亀」の寓話についてお話ししたいと思います。 スポンサーリンク スポンサーリンク うさぎと亀が、競走をすることになりました。 うさぎは亀を馬鹿にして、途中で昼寝をしてしまいます。 亀はコツコツ休まず進み、うさぎに勝つことができました。 というお話しですね🐰 このお話は、『ゆっくりでもいいから、コツコツ努力をすること』 そんな努力の大切さを教えてくれるお話として、昔から読みつがれてきました。 でも、最近わたしが読んだ本の著者は、もうひとつ別の見方…

絵本「二番目の悪者」を『余録(250415)』は紹介する▲とある動物の国。王様になりたいと思った金持ちの「金のライオン」が、誠実で人気のある「銀のライオン」をおとしめるウソを流す。狙い通り世間に悪評は広まり、金のライオンは王座を手に入れる。だが、自分勝手な振る舞いはやがて国を滅亡へと▲市民が軽い気持ちでうわさを伝え合った結果、取り返しのつかない事態を招くという寓話である。「嘘は、向こうから巧妙にやってくるが、真実は、自らさがし求めなければ見つけられない」▲SNSは似たようなコンテンツを次々に薦めてくる。自分の見つけた答えへの確信は深まる▲信頼できる情報源とは何か。じっくり考えることが「二番目の…

「慈愛サル」か、それとも「自愛サル」か？ 言葉遊びで見えてくる現実の縮図 ある日、サル山のボスが「ドングリの呼び名を変えます！」と宣言した。「これからは『皆の命を繋ぐ尊い実』と呼ぶことにする」と。そして、年寄りサルと赤子のサルにはより多くの実を分け与え、一方で働くサルには「もっと納めろ」と命じた。最初は15粒だった納入が、50粒、60粒へと増やされていく。 それでもボスは「これは尊い実だから、みんなで分かち合うのが当然」と慈愛のポーズを取るが、よく見るとボスの毛並みはツヤツヤになっていた。ドングリを拾いに行かないはずなのに、なぜか一番栄養状態がいい——。 この寓話、フィクションのはずなのに、読…