再生医療

iPS細胞の発見以来、かつては不治とされた病気や怪我を、細胞を用いて治療する「再生医療」への期待は日に日に高まっています。しかし、その実用化と普及には、未だ大きな壁が立ちはだかっています。一つは、治療にかかる数千から億単位とも言われる「高額な製造コスト」。もう一つは、細胞の品質が提供者によって「ばらついてしまう」という課題です。これらの壁を打ち破る可能性を秘めた、全く新しいアプローチの研究が、神戸の地で進められています。 今回は、細胞と薬剤を融合させたハイブリッド再生医療製品「hAP細胞」という独自技術を開発する、オーチャード・バイオ株式会社の決算を読み解きます。研究開発先行型のバイオベン…

「ストレスは体に悪い」とはよく言われますが、その悪影響は単なる“気分”や“気のせい”にとどまりません。実は、私たちの細胞そのものがストレスを“記憶”し、遺伝子の働きを変えてしまうことがあるのです。この現象は**エピジェネティクス（epigenetics）**と呼ばれ、近年の医学・再生医療の研究で注目を集めています。 今日は、細胞がどのようにストレスを覚えてしまうのか、そしてその知見が再生医療の 未来にどのように活かされているのかを、わかりやすく解説していきます。 ◆ エピジェネティクスとは何か？ 人間の設計図といえるDNAは、一生変わらないとされています。ですが実際には、同じDNAを持つ細胞で…

エビバディ！！2025年8月5日、住友ファーマ株式会が発表したIRついて、わかりやすく解説します。記事リンク https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250805/20250804529583.pdf ヤフーファイナンス ⇓YouTube解説 youtu.be ✅ 発表のポイント 住友ファーマとRACTHERAが共同で、「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞（raguneprocel：ラグネプロセル）」について、日本での製造販売承認申請を行った（2025年8月5日付）。 対象は進行期パ…

感情と身体──切っても切れない不思議な関係 「心と体はつながっている」という言葉は、誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。けれど、医学的に見てもそれは単なる比喩ではなく、実際に“感情”が身体の細胞や臓器に影響を及ぼしていることが分かっています。 例えば「胃が痛くなるほど緊張した」「ストレスで肌が荒れる」「怒ると顔が赤くなる」──これらは日常でよく体験する現象ですが、すべて細胞レベルの反応として説明できるのです。 今回は、感情がどうして臓器を変化させるのか？細胞培養士の視点も交えながら掘り下げてみましょう。 怒りで胃が赤くなる理由 「怒り」を感じると、交感神経が優位になります。交感神経が働くと…

はじめに 「生理の血と、採血でとる血って同じじゃないの？」そんな疑問を持ったことはありませんか？ 実際には両者は大きく異なり、医療や研究の現場では明確に区別されています。今回は、血液学と再生医療の視点から「生理血」と「採血血」の成分の違い、そしてその意味について詳しく解説します。 1. 採血の血液とは？ 採血で得られる血液は、心臓から全身を巡っている循環血液の一部です。 成分の内訳 赤血球：約45%（酸素運搬） 白血球：1%未満（免疫防御） 血小板：1%未満（止血・血管修復） 血漿：約55%（水分・栄養・ホルモンなどを含む） 採血した血液は、血液検査や成分分離（血清、血漿）、さらには細胞治療（…

🧬 細胞培養は「板の上」から始まった 実験室で細胞を育てるとき、多くの研究者が最初に出会うのは「フラスコの底に広がる平面培養」です。いわゆる2D培養ですね。 プラスチックやガラスの表面に細胞が接着し、伸びて増殖していく──この光景は、多くの細胞培養士にとって“日常”そのものです。 しかし、この2D培養には限界があります。体の中の細胞は本来、三次元的な環境の中で、周囲の細胞や細胞外マトリックス（ECM）と複雑に相互作用しながら機能しています。平面の上だけで育った細胞は、本来の性質を失いやすいことが分かってきました。 そこで登場するのが、「スキャフォールド（足場材料）」を用いた3D培養です。 🏗️…

はじめに──細胞は“沈黙”していない 私たちの体は約37兆個もの細胞からできています。顕微鏡で見れば一つひとつが黙々と働いているように見えますが、実際には細胞たちは常に「会話」をしています。その“声”にあたるのが サイトカイン と呼ばれる情報伝達物質です。免疫応答から組織修復、さらにはがんや炎症の制御まで、サイトカインは生命活動のほとんどに関わっています。 この記事では、代表的なサイトカインの役割や、細胞同士がどのように情報を伝え合うのか（オートクライン／パラクライン／エンドクライン）、そして細胞培養や再生医療の現場でなぜ重要なのかを深掘りしていきます。 サイトカインとは何か サイトカインは、…