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源馬大輔
Image by: FASHIONSNAP

源馬大輔
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長年にわたりファッションシーンの第一線で活躍し、数々のブランドのディレクションやコンサルティングを手掛けてきた源馬大輔氏。同氏が新たにクリエイティブ・ディレクターとして参画するのが、日本のスキーブランドの草分け的存在である「フェニックス(phenix)」だ。雪山で培われた確かな技術と、源馬氏の卓越したファッション観が融合する時、一体どのような化学反応が起きるのか。新ラインの立ち上げの経緯から、ものづくりにおける哲学、そして盟友・宮下貴裕氏との協業まで、その全貌を解き明かす。
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スキーブランド「フェニックス(phenix)」が、2025年秋冬シーズンから新たにコレクションライン「PHENIX」をスタート。源馬大輔がディレクションを担当し、ファーストシーズンはインラインのほかに、宮下貴裕、「チカ キサダ(Chika Kisada)」、「ナゴンスタンス(någonstans)」による3つのコラボラインで構成。2025年9月18日に予約販売を開始。




PHENIX by TKMT Collaboration Line
Image by: PHENIX
ギアとしての洋服が好き
──そもそもフェニックスのクリエイティブ・ディレクターに就任することになった経緯は?
フェニックスを運営しているシフォン(SHIFFON)の西村健太社長に、「一緒にやりませんか?」と誘っていただいたのがきっかけです。最初から新たなラインを立ち上げるという前提でお話をいただいていたので、「やってみようかな」とすぐ返事をしました。
──新ラインを立ち上げるにあたり、最初から具体的な構想はあったのでしょうか?
フェニックスをどうにかしたい、というお話だったので、僕らとしてはすでに確立されているビジネスをさらに広げていくために何が必要かを考えました。その答えが、もう少しファッションの要素を加えることだったり、「雪山で培ったものを、雪山で披露するんじゃなく、街で着れたらもっといいじゃないか」という発想だったんです。最初のミーティングの時から、割とそういうアイデアを求められているんだろうな、と感じながら臨みました。
──新ラインのコンセプトは?
「雪山でつちかったアイディアを街へ」です。山から得た知識やノウハウをファッションとしてアウトプットしていく、そういうイメージで服作りを行っています。

PHENIX by någonstans
Image by: PHENIX

PHENIX by någonstans
Image by: PHENIX

PHENIX by någonstans
Image by: PHENIX

PHENIX by någonstans
Image by: PHENIX
──源馬さんご自身は、山に行ったりすることは?
それが行かないんですよ(笑)。出不精なところがあり、ご飯屋さんに行くのと、深夜地下に潜るくらいで。基本的に、都内で完結するライフスタイルを送っています。
──それは意外でした(笑)。実際にアウトドアに行かない中で、戸惑いはなかったですか?
ギアとしての洋服は昔からとても好きで、倉庫にはとんでもない数のウェアを所有してます。多すぎて、どこにどのブランドのものを置いているか忘れてしまうくらいで(笑)。ゴルフなんて年に1ラウンドくらいしかしないのに、毎シーズンゴルフウェアを買ってまして。男のロマンみたいなものなんですよ。だから、フェニックスのコレクションラインでも、自分が本当にいいと思えるものしか作ろうと思っていません。

源馬大輔
Image by: FASHIONSNAP
モノが溢れる世の中で服を作る「意味」
──今この時代にフェニックスが新しい服を作る「意味」はどこにあるとお考えですか?
世の中にこれだけモノが溢れている中で、今更モノを増やすならそこには責任がある。僕がこのプロジェクトにかける思いとしては、お買い上げいただいた服を感覚的に古くさせたくない、ということです。シーズンごとにトレンドがあって、3ヶ月経ったら古く見える、というのはやっぱり不健全じゃないですか。だから、タイムレスに着られるものを追求していきたいと考えています。
同時に、スポーツウェアの素材というのは、やはりとても優秀なものが多い。スポーツメーカーの中に入らないと中々目にすることがない生地がたくさんあり、そういうものに触れると、「これ、もっと街中にあったら楽じゃない?」というアイデアに繋がります。街に山はないですが、雨は降りますからね。
──具体的にはどのような素材を使われているのでしょうか?
例えば、ジャケットにはフェニックスが開発した独自素材「ドライバリア®(DRY BARRIER®)」を採用しています。薄手ながらも高い耐水圧と透湿性を持つ素材ですが、これに撥水加工を施して水を弾くという機能性をプラスしました。
──見た目はタウンユース、でも実は高機能。
昔、イギリスに住んでいたんですが、イギリス人って本当に傘をささないんですよね。すぐに雨が止むからですが、そうした慣習はしっかり生活に根付いていて。例えば、「バーバリー(BURBERRY)」のトレンチコートも、高密度に織られているから結構撥水性があるわけですよね。だから、フェニックスでは見た目はただのツイル地に見えるものも、3レイヤー構造にして防水性を高め、さらに縫い目から雨が入らないようにシームテープで処理したり。一方内側を見ると、スポーツウェアのような作りになっていて、なんというかちょっとロマンティックなんですよ。

──こういったアイデアは話を進める中で、次々とスムーズに出てきたのでしょうか?
僕はアイデアが出てこなくなったらただの木偶の坊だから(笑)。シフォンには優秀なパタンナーさんがいるので、その方たちにアイデアを形にしてもらうのが基本的な進め方です。宮下君(宮下貴裕)のこだわりは半端じゃないので、シフォンのパタンナーの方々もとても鍛えられているみたいです(笑)。
──パリの「トゥモロー(TOMORROW)」ショールームにも出展。
ファーストシーズンということもあり簡単ではないだろうと思っていましたが、会場では多くの好評の声をいただきました。海外の取り扱いは欧州をはじめ、複数の国へと広がっています。
宮下貴裕との30年越しの初セッション
──コラボラインのブランドはどのように選ばれているのでしょか?今回は「チカ キサダ(Chika Kisada)」と「ナゴンスタンス(någonstans)」とコラボコレクションを製作。宮下貴裕さんとのコラボラインは継続展開するそうですね。
僕は、プライスレンジを決めて、セグメントにはめていくという発想が嫌いで。「リーバイス(Levi’s®)」だって必ずしもヴィンテージを履かなければいけない訳ではないでしょう?「フェニックス」を主語として考え、面白く見せるためには相反するものが必要だと考え、3者にお願いしました。ただ、宮下君に関しては本当に個人的な思いがあったので、「一緒にやりませんか」と継続展開でのオファーをしました。

PHENIX by Chika Kisada
Image by: PHENIX

PHENIX by Chika Kisada
Image by: PHENIX

PHENIX by Chika Kisada
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PHENIX by Chika Kisada
Image by: PHENIX
──宮下さんとは以前にも服作りを?
宮下君とは30年来の付き合いになるのですが、意外にも一緒に洋服を作るのはこれが初めてなんです。

PHENIX by TKMT Collaboration Line
Image by: PHENIX

PHENIX by TKMT Collaboration Line
Image by: PHENIX
──30年越しの初セッション。
振り返ると本当に長い付き合いですね(笑)。音楽にしろ、洋服にしろ、共通言語がものすごく多いんです。彼が「ナンバーナイン」を辞めて「タカヒロミヤシタザソロイスト.」を始めようとしている頃、二人でロンドンへ古着の買い付けに行ったことがあって。ある古着屋の壁一面にフェアアイル柄のセーターが飾ってあったのですが、彼は「これ、買います」って(笑)。大富豪みたいな買い方をしていました。その時、僕は「フェアアイルをそんなに買って深堀るものないんじゃない?」と思っていたのに対して、彼は「いや、これから来る」と、同じものを見ていても視点がまったく違っていたんです。この人と服を作ったら楽しいだろうな、と思ったのはその時ですね。
彼の卓越した点は、パリでコレクションを発表するようなデザイナーでありながら、トラッドなものから、かつての「ロメオ ジリ(ROMEO GIGLI)」のようなものまで、ファッションに対する知識と愛情を持ち合わせていることです。日本人で「ロメオ ジリが好きだ」なんて、後にも先にも彼からしか聞いたことがないです(笑)。
──実際にご一緒されてみて、いかがでしたか?
ものすごく良いセッションでした。お互いにリスペクトがあるからちゃんと相手の意見を聞き入れ、「どう思う?」というやりとりが常にありました。僕らの関係が夫婦だとしたら、家の中でヤバいあだ名で呼び合っていることを外では絶対言わない、みたいな感じで(笑)。そういう親密な関係性の中で、本当にいいものができたと自負しています。
──宮下さんがデザインしたコレクションは、今まで見てきたいわゆる"ギア"と呼べる服とは一線を画す仕上がりになっていると感じました。
プロポーション追求がすごいですよね。例えば、アームのシルエットひとつとってもパターンメイキングが全然違う。宮下君の作る「TKMT Collaboration Line」は、少し癖がある分、すごくおしゃれな人じゃないともしかすると着こなしが難しいかもしれません。一方でフェニックスのインラインは、よりオーセンティックで、ブランドのことを知らなくても、パッと着て「あ、いいな」と思ってもらえるようなシルエットを目指しました。

PHENIX by TKMT Collaboration Line
Image by: PHENIX

PHENIX by TKMT Collaboration Line
Image by: PHENIX









インライン
Image by: PHENIX
──デザインのプロセスにおいては、何を重視されましたか?
ファッションって、大きなコンセプトがあって、ストーリーがあって、その最終的なアウトプットがプロダクトだと思うんです。その逆算がすごく大事で、コンセプトを体現するためのスモールディテールが重要。「理由のあるデザイン」であることが、本当に大切なんです。そのため、フェニックスでも「理由のあるデザイン」を最も意識しましたね。
ロンドンに住んでいた頃、日本のブランドは「この生地は〜〜」と素材の話から始めることが多かった。一方、アメリカ人は「これは誰々が着ていて〜〜」と人の話をする。でも、歴史のあるフランスのブランドは、まずブランドの歴史とシーズンのコンセプトを話して、「だから、この生地なんです」と説明するわけですよ。「コンセプトがないのがコンセプトです」と言ってしまうブランドは、なかなか世界では勝てないですよ。
絶対に脚光を浴びてはいけない
──フェニックス以外にも「アンリアレイジ(ANREALAGE)」など、さまざまなブランドに関わられていますが、源馬さんご自身の仕事術、あるいは哲学のようなものはありますか?
このインタビューを受けておきながら言うのも何ですが、僕という存在は、絶対に脚光を浴びてはいけないんです。ブランドがどういうところに向かいたいかとなった時に、「そっちの方向じゃない方がいいかもね」と軌道修正したりするのが主な仕事で、ディレクターという肩書きより、調整役の方がニュアンス的に合っているように思います。
──ブランドごとにアプローチは変えている?
もちろんです。僕は常にブランドやデザイナーとの「掛け算」を目指したいと思っています。例えば、藤原ヒロシさんと仕事をする時と森永さん(アンリアレイジ森永邦彦)と仕事をする時では、僕のメンタリティは明らかに違います。個人的に、その違いこそが面白さだと感じているんですけどね。僕のスタイルにはめ込もうとすると限界があるので、深く掘り下げさせてくれる人や、僕との距離が近い人とはうまくいきますね。

源馬大輔
Image by: FASHIONSNAP
──源馬さんご自身は、0から1を作るより、1を10や100にしていくタイプだとおっしゃっていました。
「自分でブランドをやらないのか」とよく言われますが、絶対に向いてないんですよ(笑)。人と人、モノとモノをコネクトして、それをさらに引き伸ばして、バランスを取っていく。自分の「分」を知る、というか。それが僕の立ち位置だと思っています。
でも、そのために常にいろんなことにアンテナを張っているので、映画を観ていても「あ、このライティングいいな」とか「この子のこの服いいじゃん」となってしまい、一時停止して写真を撮っちゃう。仕事とプライベートのオン・オフの切り替えがうまくできなくて、本当に生きづらいんです(笑)。でも、そうやってインプットしたものを、いろんな人たちとのセッションを通じてアウトプットしていく。それが何より楽しいですね。
常に候補の一つとして認識されたい
──今後のフェニックスのコレクションラインの展望についてお聞かせください。
商品やブランドを検討する際に、複数の選択肢の中で常に候補の一つとして認識されるブランドを目指したいです。例えば「モンクレール(MONCLER)」 は昔ファッション好きの人が選ぶ、数ある選択肢のひとつだったと思うんです。それが今や、ダウンを買う時の絶対的な選択肢のひとつになった。そこには素晴らしいマーケティングの力など、僕たちが勉強しなきゃいけないことがたくさんあります。「寒いね、ダウン買おうか」ってなった時に、その選択肢のひとつになれたら最高ですね。

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──選択肢のひとつとして認知されるために、フェニックスならではの“らしさ”や強みはどこにあるとお考えですか?
スウェーデンのスキーチームをサポートするなど、"ガチ"でやっているわけですから。そこで得た技術や、僕らのような服屋をやっていたら絶対に出会えないような素材を、ファッションに融合したらどうなるのだろうか。他のブランドだと、アウトドアの枠組みの中でデザインを展開していくところを、僕らはファッションの視点でブランドのDNAを大切にしながら、成長させていきたい。今後も皆さんに喜んでもらえるような取り組みを行っていければと考えています。
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