BMWアルピナ B4 GT▲BMW 4シリーズ グランクーペをベースにBMWアルピナが速く、快適で、ラグジュアリーに作り出したハイパフォーマンスモデル。ベースモデルのマイナーチェンジに伴い、GTへと進化を果たした

「ブッフローエ」が企画する最後のBMWアルピナ

アルピナは今、車好きの間で“最後の”盛り上がりをみせている。なぜに“最後”か? それはアルピナブランドの商標が2025年末をもってBMWへと移転されるからだ。

1965年に設立され、BMWを使ったツーリングカーレース界で活躍、1978年からはコンプリートカーメーカーへと転身し現在の確固たる地位を築いたアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限・合資会社(独ブッフローエ本社)。2026年以降は自ら商品を企画する“自動車メーカー”ではなくなるが、ボーフェンジーペン社として引き続き既存のアルピナモデルを中心とした“クラシックビジネス”を続けていくという。きっと我々が驚くような新ビジネスも期待できるに違いないが、それはさておき。

ブッフローエが企画する最後のBMWアルピナ がB3 GT&B4 GTである。アルピナにとってGTの名称は、ロマンでもなんでもなく、シンプルに“極上”を意味する。B5 GT、B8 GTと一連のファイナル限定シリーズは日本で大人気を博したが、B3とB4のGTはその最終章でもあるのだ。

限定モデルではないが、生産台数に限りのあるアルピナではすべてが限定モデルのようなもの(センターコンソールには生産シリアル番号の刻印がある)。それに今回の場合は“お尻”が決まっているのだから、期間限定モデルのようなものだろう。
 

BMWアルピナ B4 GT▲新デザインのハイグロス仕上げのリアディフューザーにブラックの左右2本出しテールパイプの組み合わせ。エクステリアのレタリングはオプションとなる

最上のグランドツーリング性能がアルピナの持ち味だと考えれば、カナード追加などその性能を上げる空力デバイスの追加も納得がいく。サーキット仕様ではないのだ。

注目はやはりパワートレイン。BMW M謹製S58ユニットは従来と変わらず、とはいうものの最高出力は529psに達した。これ、最新M3/M4のコンペティションの530psからマイナス1ps。このあたりは他のモデルでも見受けられるアルピナらしい“奥ゆかしさ”。最高出力にむやみにこだわってここイッパツの速さを求めるのではなく、あくまでも平均巡航速度の高い(つまり高速連続走行で疲れない)車を作ることがアルピナの理想であるということのごく控えめなアピールである。ちなみにスペック表には巡航最高速度305km/hとあった!

それが証拠に最大トルクはMのご機嫌など伺うことなく730N・mと80N・mも引き離した。しかも発生回転数はさらに低く2500rpm! アルピナがいかに“実用スーパーカー”であるかをよく物語っている。
 

BMWアルピナ B4 GT▲最高出力529sp/最大トルク730N・mを発揮する3L 直6ツインターボを搭載。アルピナ独自のエンジンマッピングはさらに見直されている

精緻なステアフィールで“操る楽しみ”はM4に劣らぬ

個人的な好みは圧倒的にB3 GTだったが、今回はスケジュールの都合でB4 GT(4シリーズ グランクーペがベース)を京都往復のロングドライブに連れ出すことに。どちらも4ドアなのだから同じようなもの、と思っている方も多いだろう。3シリーズのクーペ版が4シリーズだと知っているBMWファンほどそう思われるかもしれない。けれどもこの2台、B3とB4はまるで別物。3シリーズと5シリーズとが全く違う乗り味であるのと同じである。

端的に言って、B3 GTはよりグランドツーリングカー寄りであるのに対し、B4 GTは良きGTでありながらハンドリングファンも求め少しスポーツカー寄りだ。3シリーズと4シリーズとの関係性がそもそもそうだったのだから、当然だろう。トレッドも違えばフロア剛性も違う。何しろ4シリーズといえばBEVのi4と土台を共有するくらいなのだから。
 

BMWアルピナ B4 GT▲ロゴの入ったフロントスポイラーにはカナードとスプリッターを装備。ベースモデル同様に新デザインのLEDヘッドライトを備える

細かい話を始めるとキリがない(それぐらいBMWアルピナに関しては語ることが多い)、そろそろ長距離インプレッションをリポートしておこう。

前後タイヤサイズを見てもわかるように、M4に比べると後輪は同じサイズながら前輪が細い。B4といえばドームバルクヘッドレインフォースメントによって補強されたエンジンルームの景色が強烈(B3 GTにも採用された!)だったが、今回は加えてフロントスタビライザーをやや細めたという。なるほど以前に比べ、そしてもちろんB3 GTに比べてもフロントの動きはよりニンブルだ。自在感が強い。そして切り戻してからの動的なクオリティが異常に高い。結果的には精緻なステアフィールだと感じる。これはすごい。フロントまわりが感覚的にゴツいM4とはまるで違う方向性だ。高速道路で肝心のGT性能を確かめる前からB4 GTの虜になり始めていた。

東名にのる。いつものように横浜インターからの渋滞にハマるも、なんだか気分がいい。そこまでの区間ですでにグランドツーリング性の良さを感じていたから、海老名から先の空いた道のりが楽しみでしょうがなかったからだ。

海老名SAでコーヒーブレーク。高ぶる気分を少し落ち着かせて、いざ京都へ。

継ぎ目や小さな凹みを淡々といなしつつ、フラットライドを続ける。ドライバーはその一瞬一瞬のタイヤ、サス、シャシーの仕事ぶりが素晴らしいと感じている。結果的に素晴らしい直進安定性をもたらすわけだが、全体としてなんとなく良かった、のではなく、素晴らしい瞬間の連続である。1秒1秒が濃密とでも言おうか。それを積極的に感じ取ろうとすればドライビングファンであるだろうし、意識しないでおくこともできるから“気がつけば”京都も可能だ。そんなふうにドライバーに積極的な運転スタイルの選択肢を与えてくれるという点でも、アルピナは究極のBMWであろう。

料金所からの加速はもちろん、クルージング中の追い越し加速が、サウンド、フィール、そして速度ノリが絶品だ。それでいてむやみに他車を追い抜かしてやろうという気分にはなぜかならない。戦闘的ではない。金持ち喧嘩せず的な、つまりはロールスロイスに代表されるライドコンフォート抜群な乗用車群に連なる心境になる。それだけ高いクオリティのライドフィールを濃密に楽しめるから、他の車のことなど、どうでもよいのだった。

京都ではホームワインディングロードも走ってみた。操る楽しみという点でM4に劣らないばかりか、タイトベントではより思いどおりに曲がっていける感覚もあって、ますます気に入った。Dセグメントサイズで最上の乗用車と断言できる。

困った。B3 GT推しだったのに、B4 GTにもハマってしまった。どちらも早く売り切れてしまえばいいのに……。ちょっとヤケにもなった。
 

BMWアルピナ B4 GT ▲伝統のデザインであるアルピナクラシックの鍛造ホイールは20インチを標準装備
BMWアルピナ B4 GT ▲メーターパネルのデザインやステッチなどでアルピナらしさを表現。ベースモデルでは廃止されたシフトノブも採用されている
BMWアルピナ B4 GT▲シフト脇にはシリアルナンバーが刻まれたプレートが備わる
BMWアルピナ B4 GT ▲ヴァーネスカレザーを用いたシートには、さりげなくGTの刺繍が配されている

▼検索条件

BMWアルピナ B4 グランクーペ(前期型)× 全国
文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

ベースモデルとなるBMW 4シリーズ グランクーペの中古車市場は?

BMW 4シリーズ グランクーペ

2021年に2代目にモデルチェンジした、クーペのスタイルと走行性能を備えた“5ドアクーペ”。クーペ同様の縦長のキドニーグリルが備わる。2024年にはマイナーチェンジを実施(写真)、新世代の安全機能・運転支援システムなどが採用されている。ハイパフォーマンスモデルのM440iをラインナップ。

2025年5月上旬時点で、中古車市場には130台程度が流通しており、支払総額の価格帯は390万~710万円。ハイパフォーマンスモデルのM440i xDriveも15台程度が流通している。
 

▼検索条件

BMW 4シリーズ グランクーペ× 全国
文/編集部、写真/ビー・エム・ダブリュー