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「車だけは裏切らない」。苦楽をともに、モーガンとの45年間。
2026/01/15

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
「車だけは裏切らないじゃない?」
御年77歳の浮貝(うきがい)英雄さんは、新車購入から45年もの間モーガン4/4に乗り続ける理由をそう語る。離婚、父との死別、家業の継承、再婚……人生の浮き沈みをすべてともにしてきた愛車との関係は、ヒトとモノとの深い信頼で結ばれている。
はるかなる英国への憧憬
東京・池袋で生まれ育った生粋のシティボーイ、浮貝さんがモーガンを手に入れたのは33歳の時。運命の出合いは、友人が所有していた同車に乗せてもらった際に訪れた。それまでに乗ってきた国産車とはまるっきり違う乗り味。電撃が走ったようだったという。
モーガンはイギリスの老舗自動車メーカーだ。1913年にイングランドのマルヴァーンにて設立され、現在も同地にて創業者一族らによる家族経営がなされている。フレームに木製部品を用い、職人がアルミパネルをハンマーでたたいて貼り合わせるなど、創業から100年以上たった現在もクラフトマンシップあふれるものづくりが続けられている。

当時は日本にも販売代理店があったものの、生産台数に限りがあるモーガンの車を所有している日本のオーナーはごく少数。もの珍しさにも引かれ、浮貝さんは「こんな面白い車があるのか!」と即決で購入を決めた。その乗り味は、快適とは程遠い。しかし、それを上回る“ロマン”がモーガンにはあった。
「前輪はディスクブレーキなんだけど、後輪はドラムブレーキなんですよ。乗り心地はお世辞にもいいとは言えないです。最初に友人に乗せてもらったときも、彼はマンホールを避けて走っていたんですね。それで『お前何やってんだ』って聞いたら、段差でドカンと突き上げられちゃうからダメなんだよって」
そんな不便さにこそほれ込んだ。浮貝さんは10代の頃から社主である父の運転手を引き受けるという条件でプリンス 2000GTBやトヨタ クラウンハードトップ、日産 プレーリーなど、様々な車を乗りこなしてきた。そして30代。いよいよ自分自身のための車として選んだ1台がこのフォード製エンジンを搭載した1600ccのモーガン4/4だった。
ネジのサイズ、鉄の硬度など、浮貝さんの家業である工具製造の規格はイギリスの規格がスタンダードだった。そのため浮貝一家は「イギリスかぶれ」。同級生たちがアメ車を乗り回す中で、浮貝さんがイギリス車に引かれたのは父の影響もあったと振り返る。


▲浮貝さんが所有するビンテージのモーガンのおもちゃ。お孫さんたちが遊び倒してボロボロに
▲購入当時、オーナーに発行された会員証。ナンバーは65。日本で65番目のモーガンオーナーだったという証しであるモーガン購入と人生の苦難
1980年当時の購入価格は550万円、今の貨幣価値でいえば1000万円以上に相当する高級車であり、30代前半の浮貝さんにとっては紛れもなく高嶺の花。そう、一目ぼれしたからといって、簡単に手に入る代物ではない。そしてなんとか資金調達の見当はつけたものの、納車までは2年半待ちだった。
その納車までの期間に、浮貝さんの人生を左右する出来事が立て続けに起きていく。離婚と、父との死別だ。大学卒業後間もなく家業を手伝いはじめ、若くして結婚を決めた浮貝さん。仕事も軌道に乗り始め、憧れのマイカーを手に、順風満帆な人生が続いていくかと思った矢先の出来事だった。
独身に戻り、そして社長として工場を継ぐことになった浮貝さんは、モーガンの購入資金の工面で頭を悩ませた。というのも、メーカーの都合で納車が前倒しとなったためだ。困難のただ中にたたずむ新米経営者のもとへ、予定より1年以上も早く大金の支払い期限がやってくる。当然焦りも苦しみもあったはずだが、それでも、モーガンへの思いは変わらなかった。
納車を迎える頃には離婚手続きも完了し、独身に戻っていた浮貝さんは10年後にまた素敵な出会いを得て再婚をすることとなるのだが、それまでの期間、モーガンが彼にとって最高の相棒となったことは言うまでもない。
「この独身の時は結構モテてましたよ。だって30代で会社やってて、こんな車乗って、モテないわけがないじゃない(笑)」
都内を走れば道行く人の視線が集まる。クラシックで美しい車体。そのハンドルを握るのがおしゃれでトレンディな若手経営者とあれば、納得である。
友人とともに毎週のように箱根の峠道へ走りに行った時期もある。レトロな見た目とは裏腹に、モーガンはバリバリの性能を誇るスポーツカーでもある。「世界三大レース」のひとつに数えられるル・マン 24時間レースでの優勝経験を持つ老舗メーカーの車にとっては、箱根のターンパイクなどかわいいものだろう。
▲ル・マンを走るモーガンの絵画が浮貝さん宅のリビングに飾られている。木製パーツを用いた車が世界で最も過酷な耐久レースを走っていたなんて信じられる?このように、浮貝さんは遅れてきた青春をモーガンとともに謳歌した。
とはいえ、資金面でも精神面でも大変な思いをすることもあった時期、車を手放すことを考えなかったのだろうか? そう浮貝さんに尋ねると「ありませんよ。だって、車は裏切らないじゃない」と一言。愚問であった。人生の酸いも甘いもを知る浮貝さんが言うならば間違いないだろう。
車は私たちを裏切らない。
メカニックとの出会い、モーガンの再生
45年間で走行距離はいまだ4万5000km。大切に乗り続けている1台だが、それでも古い車特有のトラブルは避けられない。
「去年の正月もクラッチワイヤーが切れちゃって。信号待ちで青になって発進しようとしたら、プツって音がして。ギアがプラプラになってね」
クラシックカーに故障は付きものだが、「壊れるところは大体決まっちゃってるから」と浮貝さんは気にもとめない素ぶりだ。コンピューターを一切使っていないシンプルな構造のため、トラブルはあっても修理は可能で、長く付きあっていくことができる。
とはいえ、モーガンに全く乗らなくなった時期もあったという。2019年ごろの話だ。それまでお願いしていた整備工場がなくなってしまい、メンテナンスの頻度が落ちた。そしてコロナ禍を迎えて外出の機会もなくなり、車体に錆も出てきてしまったという。しかし、ある1人のメカニックとの出会いから浮貝さんのモーガンライフが再び動き出す。
「ちょうど、いいメカニックに巡り合いましてね。これを機に『また全部綺麗にしよう』って思えたんです」
良い整備士との出会いも、長く乗り続ける条件なのである。このとき基本的な整備だけではなく、元々ベージュだったモーガンを輝く緑色に再塗装してもらった。実は、購入時にモーガンの社長から「塗装が悪いからベージュにしとけ。次に塗り替えるときは楽だから」と耳打ちされていたという40年越しでそのアドバイスを実行に移すことができた。
▲まだベージュだった頃のモーガン
▲官能的でありながらも無骨さを感じさせるフォルム。モーガンは横顔がいい
▲ディティールもぬかりなくしゃれている現在、浮貝さんがモーガンに乗る頻度は週に1回程度。混雑の少ない晴れた土日、都内で坂道の少ないルートを選んで走りにいく。「正直、もう少し小さい方が便利かな」と言いつつも、乗り替える予定はない。この車を手放すときがあるとすれば、大切に乗り継いでもらえる人に出会ったときだという。
「最新の車はつまらないというか、僕には物足りない。だから乗れる限りこれに乗っていたいですね。いつか息子に引き継ぎたいとも思いますが、今の子は車に興味がないみたいですからねえ」
45年という歳月の中で社会も、浮貝さんの人生も大きく変化してきた。しかし、今も変わらず浮貝さんのもとにはモーガンがいる。それは、なぜか?「車だけは裏切らない」からである。モーガンと歩む人生は、どうやらまだまだ続きそうだ。

浮貝さんのマイカーレビュー
モーガン 4/4
●年式/1981年
●所有期間/45年
●年間走行距離/約1000キロ
●マイカーの好きなところ/個性的なデザインで人とかぶらないこと
●マイカーの愛すべきダメなところ/坂道発進が難しい、クラッチワイヤーが切れやすい
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/普通の人にはオススメしません
【関連リンク】
この記事で紹介している物件
モーガン
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