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コスモオーナーが掲げる自動車関白宣言。「俺より先に逝くのは許さない!」
2025/05/15

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
そこに“買えるコスモ”があった
1980年式、つまり今から45年も前の車であるにもかかわらず、なんともシブいたたずまいを保ち続けている2代目マツダ コスモ2000SG-X。新車時から1人のオーナーが大切に乗り続けてきた個体か、あるいは遠目には、旧車専門店がプロの技術でもってレストアした個体にも見える。
だが実際は、オーナーである渡辺順一さんが12年前に「総額40万円」という破格値で手に入れ、その後はプロの手はほとんど借りず、自分の手でコツコツ仕上げてきた1台だ。ちなみにオフホワイトの洒落た外板カラーも、渡辺さんが市販の缶スプレーで塗装したものである。


1975年から1981年まで販売された2代目マツダ コスモには、以前にも乗っていたことがある渡辺さん。高校生の頃に見たテレビCMで優美なロングノーズフォルムに魅了され、20歳になったとき、念願だった「赤いコスモAP」を中古車として購入したのだ。
しかし念願だった赤いコスモAPは不運な追突事故に巻き込まれ、購入から1年足らずで廃車に。仕方なく別の国産中古車に乗り替えた後、現在も所有し続けているマツダ キャロルに乗る日々を送ってきた。
だが今から12年前、仲の良かった姉が急逝した。
「姉が亡くなったときは僕もがっくりと気落ちしてしまいましてね。それで、何かこうちょっとは元気になれるような行動をしたいと思っていたとき、たまたまこのコスモをネットで見つけたんです。そして『この車は姉にちょっと似ている』と感じました」
白いボディカラーと全体としての雰囲気が、亡くなった実姉の姿と微妙にオーバーラップした。そして若き日に大好きだった、ロングノーズで優美なフォルムをもつあの車、すなわち2代目マツダ コスモに、もう一度乗ってみたい気持ちになった。

そして「よし、買おう」と思ったわけだが、現実は、そうイージーには運ばなかった。
某県まで見に行ってみた1980年式の白いマツダ コスモは、恐ろしいほどボロボロだったのだ。
ボディの下回りは腐食のため穴だらけになっており、ブレーキも固着。そして点火プラグの部分を開けてみたら、そこには石が詰まっていた。
「その販売店さんには結局3回通いました。3回見に行くことで、『俺は本当にコレが欲しいのだろうか?』と、自分の気持ちを確かめたかったんです。ところが残念なことに、見に行くたびに買う気が失せていったんですよね(笑)。なにせ本当にボロボロでしたから」
だが結局、渡辺さんはそれを買った。
「買った理由は結局、『そこに買えるコスモがあること』を知ってしまったからです。買えば、かなり苦労するだろうことは容易に想像がつきました。でも、これを逃せば“買えるコスモ”は二度と出てこないだろうとも思いました。なにせ当時から2代目コスモの中古車相場はかなり高騰していましたから。ならば『買わなかった後悔』よりも『メンテナンスの苦労』を選ぶべきでは――と思ったんです」

「この車は手放しちゃダメだ」とささやかれた気がする
とりあえず車検にだけは通る状態まで持って行き、あとはD.I.Y.で整備を重ね続けた。といっても渡辺さんは自動車の整備に明るいわけではない。プロの音楽家ではあるが、車の整備に関しては完全な素人だ。
「でもまぁ同じ人間が作ったモノですから、ネジを外せば部品の中は見えますしね。そしてそこが汚れていれば清掃し、修繕できそうなものは修繕し、修繕できなさそうな部品は海外のネット通販で入手して、交換してやる。そうすれば、まぁなんとかなるのではないかと思ったわけです」
イグナイター(点火装置)だけはどうしても型番が合う部品を見つけられなかったが、海外サイトで「とりあえず部品のカタチは同じ(だが適合は不明)」というものを発見。それを購入して付けてみたところ、無事普通に動いた。
そうして「ある意味普通に乗れる状態」になった1980年式マツダ コスモ2000SG-Xだったが、決して完調になったわけではない。時おり、止まってしまうことはある。
「対症療法しかしていませんからね。エンジンがガタついたら、エンジン本体が問題なのか、それとも補機類が原因なのかを探りだし、そこを修繕したり交換したりしながら乗っているわけですから、決して完全に正常な状態で乗っているわけではないんです。だから正直、乗るたびに不安ですよ。『……今日は元気に走ってくれるだろうか?』みたいな感じで(笑)」

しかし、だからといって2代目コスモの購入を後悔したことは一度もない。それどころか渡辺さんにとって1980年式マツダ コスモ 2000SG-Xの“相棒感”は日に日に高まっていき、今となっては「自分の人生になくてはならない相棒」と化している。
「新しい便利な車もいいのでしょうが、僕はこの年代の、いかにも『自分で運転してる、転がしてる』と感じられる車の方が好きなんです。そして、例えば家電とかでしたら、本格的に調子を崩したら廃棄するのが普通でしょうが、相棒は『キミ最近調子悪いから、捨てることにするね』というわけにはいきませんよね? だからこのコスモとはずっと付き合っていくつもりです。自分がコスモより先に死ぬのはいいんですよ。でもお前(コスモ)が俺より先に死ぬことは許さん! という感じで思っています(笑)」

まるでさだまさしさんの大ヒット曲『関白宣言』の3番の歌詞のような渡辺さんではあるが、最初から「自動車関白宣言」を発していたわけではなかったという。
だがあるとき天使(?)が現れた。
「走行中に追跡されたことがあるんです。で、僕が目的地の駐車場にコスモを止めると、追跡してきた車のドライバーも降りてきました。中年男性でしたが、その人がいきなり『この車、すっごくいいですね! 売ってください!』って言うんですよ。いや売り物じゃないですからとお断りしたのですが、「100万円出します! どうですか!」と重ねてきました。そのときは面倒だったので『はいはい、じゃあいつか売るときがあったらお願いしますね』みたいな適当なことを言ってお引き取り願ったのですが……」
その後、渡辺さんは考えた。「もしもあの男性が提示した金額が100万円ではなく200万円、いや500万円だったとしても、自分はコスモを売らなかっただろう。だってこの車は何百枚かの1万円札と交換できる類のものではなく、俺にとっては代替不能な存在なのだから」と。

1980年式マツダ コスモ2000GS-Xの「自分にとっての価値」を改めて気づかせてくれた中年男性は、中年男性の姿をした天使だったのかもしれない。ストーリーとしての種類は異なるが、映画『ベルリン・天使の詩』の主人公である天使ダミエルが、ごく普通の中年男性の姿をしていたのと同じように。
たぶん天使が渡辺さんを見つけ、追跡し、そしてささやいたのだ。「渡辺さん、この車だけは手放しちゃだめだよ」と。
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渡辺順一さんのマイカーレビュー
マツダ コスモ(2代目)
●購入価格/40万円
●マイカーの好きなところ/優美でエレガントな見た目。私の好みにドンピシャです。
●マイカーの愛すべきダメなところ/イグニッションを回してもエンジンがかからないことがあります……。
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/オススメというよりも私の希望なのですが……ある程度経済力があってしっかり面倒を見ることができる方に、ずっと乗り続けてほしいですね。

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。
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