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その存在意義を考えさせられた、古都を舞台としたコンクールデレガンス
カテゴリー: トレンド
タグ: ポルシェ / ジャガー / アストンマーティン / フィアット / アルファ ロメオ / フェラーリ / ランボルギーニ / マセラティ / ランチア / アバルト / EDGEが効いている / 越湖信一
2025/05/11

古都奈良に新旧の世界的名車が集結
新春の古都、奈良に世界的な名車が集結し、クラシックカー・コンクールデレガンス「コンコルソ・デレガンツァ・ジャパン」が盛大に開催されたというニュースを聞き及ばれた方も多いであろう。当イベントは、かつて東京、そして京都で開催されたコンクールデレガンスを引き継ぎ、日本をベースに開催されたコンクールデレガンスとしては最大規模を誇るものだ。
会場となった世界遺産たる薬師寺には、カールトン製ボディをまとった荘厳な1930年式ロールスロイス ファントムIIコンチネンタルDHCから、2024年式フェラーリ デイトナSP3に至るまで、各時代を代表する稀少なモデルが集結したのだから、自動車愛好家としてはたまらない。
そもそも自動車コンクールデレガンスは100年あまりの歴史を持ち、イタリアはコモ湖畔で現在も開催し続けられているコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステが最古のものといわれている。お気づきのことと思うが、その当時クラシックカーなるものは存在せず、“最先端の自動車”が参加したワケである。今で言えば、モーターショー、はたまた先端技術展とでもいうべき存在であった。
そんなコンクールデレガンスは1950年代あたりに、最新の車とともに、クラシックカーを展示するという新形態がトレンドとなり、それがクラシックカー・コンクールデレガンスとしてモーターショーと分化する。そう、クラシックカー・コンクールデレガンスとはそれほど長い歴史を持っているものではないのだ。あの世界最大規模のクラシックカー・コンクールデレガンスといわれるペブルビーチコンコースですら、1960年代半ばころまでは、ごく小規模なローカルイベントであったのだから。

ストラトスHFゼロと薬師寺、時を超え“最高峰の英智”が共演
今回のコンコルソ・デレガンツァ・ジャパンの大トリとして、ベストオブショーを獲得したのは、1970年式ランチア ストラトスHFゼロであった。世界を代表するカーコレクターであるフィリップ・サロフィムは、このスペースシップさながらのマシンをカリフォルニアから持ち込んでくれた。このマシンは審査員たちを魅了しただけでなく、一般ギャラリーの投票によるスペシャル・エディション・クラス=ピープル・チョイス賞をも獲得したのだ。
ストラトスHFゼロについて筆者に本気で語らせたなら、当連載10回分くらいは軽く占有してしまうだろうからほどほどにしておくが、当時カロッツエリア・ベルトーネのオーナーであるヌッチオ・ベルトーネがランチアのコンペティション・マシンの“コンペ”に勝つべくインパクト勝負で製作したワンオフモデルこそがストラトスHFゼロだ。
全高わずか84cmと世界で最も背の低い車を目指して作られたその存在感は強烈だ。そしてストラトスHFゼロの開発にはもう一人の役者がいた。スタイリングを描いたマルチェッロ・ガンディーニその人である。当時、イタリアン・カロッツエリアで一大トレンドであったウエッジシェイプ(くさび型)のワンモーションスタイル(一筆描き)が彼の才能により大胆に具現化したのだ。
自動車への無限の可能性を誰もが確信していた1960年代後半の活気から生まれたストラトスHFゼロがこの世界遺産薬師寺に足を踏み入れ、皆を魅了したことに筆者はなにより感動した。だから、このコンクールデレガンスという存在そのモノに大感謝だ。
ご存じのように薬師寺は天武天皇の発願により平城京に建立されたものである。疫病や飢饉で疲弊した人々に夢を与えるために建立された金堂の本尊・薬師三尊像にどれだけの人々は癒され、明るい未来を祈ったに違いない。今回、その1300年前の人々が思い描いた夢の前に、マルチェッロ・ガンディーニという天才カーデザイナーが55年前に描いた未来への夢たるストラトスHFゼロが並んだ。まさにどちらも最高峰の英智そのものである。そのシーンを目にして筆者は感動を隠すことはできなかった。

今回のコンクールデレガンスについてさらに少し触れてみたい。現在、クラシックカー・コンクールデレガンスは大きなトレンドとなり、世界中で多数開催されている。これはクラシックカー文化が成熟してきたからでもあり、自動車メーカーのブランディング戦略の中で、クラシックカーという存在が大きく認知されてきたからでもある。しかし、重要なのは主催者として何を訴えかけたいかというポリシーである。
コンコルソ・デレガンツァ・ジャパンの主催者は、これまでのエディション同様に世界に向けて日本ならではのコンクールデレガンスをアピールするという大きな努力を行っている。世界の著名コンクールデレガンス会場を訪れるなら、必ず彼がそこにいてコンコルソ・デレガンツァ・ジャパンをアピールしているのだ。そして今回は各クラスのノミネート車両にも、積極的に日本の名車をセレクトしている。そんな地道な努力がイベントを成功させたのだ。
彼の未来を見据えた明確なコンクールデレガンスへのポリシーによって、日本の自動車文化がより豊かなものになっていくことを祈りたい。
なお、主なクラスのアワードは以下のとおり。
Pre-War Open: 1940年式アストンマーティン Cタイプ
Pre-War Closed: 1934年式 ジャガー SS1 ライトサルーン
Post-War Competition: 1967年式フィアット アバルト OT 1300 SR2 ペリスコピオ
Post-War Elegant A: 1951年式マセラティ A6G ヴィニャーレ
Post-War Elegant B: 1965年式 マセラティ ミストラル スパイダー
20th Century Supercar: 1974年式フェラーリ 365 GT4 BB
Porsche Museum: 1956年式 ポルシェ 356 1500GSカレラ
Zagato: 1958年式 フィアット アバルト 750 レコードモンツァ ザガート ビアルベーロ
21st Century Supercar: 2024年式フェラーリ デイトナ SP3








自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。
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