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26年をともにしたメルセデス・ベンツ Eクラスワゴン(S124)との別れ。そのとき、人は何を思うのか? 26年ぶりの取材で振り返る“愛する車”との思い出
2025/01/31

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
26年間をともにした車との出会い。そして別れ
人は誰でも、いつか必ず寿命が尽きる。そのため人は誰もが必ず、愛する者との永遠の別れを経験する。そこに例外はない。
だが「車」の場合はどうだろうか? 愛する者ならぬ「愛する車」との別れを迎えるとき、人は何を思うのだろうか。
例えば26年間にわたって1994年式メルセデス・ベンツ E280ステーションワゴンと付き合い続け、このたび“別離”を決断した増渕 昇さんだ。

増渕さんがこの車を4年落ちの中古車として購入したのは、1998年のこと。決して安い買い物ではなかったが、「絶対に10年乗るから!」と妻に誓い、購入の許諾をもらった。
「これの前にはトヨタの80系ランドクルーザーに乗っていたのですが、それを買うときにも、実は『絶対に10年は乗るから!』と妻に約束していました。でも、結果として約束を破ることになってしまったのですが」
10年乗ると大見得を切ったランクル80だったが、それを購入したすぐ後に移り住んだ東京の下町エリアは、全般的に道幅も駐車場もきわめて狭かった。そのため、巨大なランドクルーザーに乗り続けるのは――決して無理ではなかったが、困難ではあった。そして増渕さんは、奥様いわく「熱しやすく冷めやすい人」でもあった。
そうして26年前の、いや正確には27年前の増渕さんは、輸入車愛好家であった当時の直属の上司の影響も受け、「ミドルサイズの輸入車」への乗り替えを決断。で、「乗るならやっぱりベンツだろ!」とも思った。

当時はまだ電話帳のようにぶ厚い情報誌だった『カーセンサー』を毎週買って読み漁り、30台近くのS124(初代メルセデス・ベンツ Eクラスのステーションワゴン)を実際に見て回り、これぞという1台に巡り合う瞬間を待った。

そして妻・瑞枝さんには「今度こそ、今度こそ絶対に10年乗るから!」と言い、1年がかりで説得した。
普通の勤め人夫婦がメルセデス・ベンツという高級車に乗ることに難色を示した瑞枝さんではあったが、「まぁこの人は、車に関しては私が何を言ったところで聞かないから……」ということで半ばあきらめ、「今度こそ本当に10年乗るなら、買ってもいいよ」と伝えた。
そして無事に購入&納車と相成った1994年式E280にとっても、人間にとっても、光陰とはまるで矢の如し。あっという間に約束の「10年」が経過した。そして増渕 昇さんは自問した。「自分は今、この車に対して“飽き”を感じているだろうか?」と。
答えは「否」だった。妻からも「熱しやすく冷めやすい人」と評された増渕さんだったが、ことS124に対しては、まったく冷めることがなかった。
「走っているときの安定感や安心感は、当時の国産車とは比べ物になりませんし、デザイン的にも、その後のモデルよりも普遍的な造形ゆえにカッコいいと思っています。そしてステーションワゴンとしての使い勝手もすこぶる良好。だから『約束どおり10年乗ったな。……じゃ、そろそろ買い替えるか」みたいな気持ちには、まったくならなかったんです」


とはいえ10年間にわたってフルノーマル状態を維持したことについてだけは、若干の飽きも感じていた。そのため、「まぁ買い替えたつもりで」ということである程度の予算をかけ、現在のスタイルへのカスタマイズを大々的に行った。


そしてまた、あっという間に10年以上の歳月が経過した。
若干古くはなったものの、まだまだ元気なE280ステーションワゴンに夫婦で乗り込み、温泉地などに向かって走った。日々の買い物のため、スーパーマーケットに向かっても走った。妻の実家へ行った。そして、ときには車中泊も経験した。それらすべては「何気ない日常のひとコマ」でしかないのかもしれない。だが何でもないようなことだからこそ、幸せだった。そんな歌詞の唄があったような気がするが、あの唄は正しい。
それはさておき、それでもやはり「時」は残酷だ。1994年式メルセデス・ベンツ E280ステーションワゴンはいまだ快調ではあるものの、その「快調」を維持し続けるためには、決して安くはない部品交換費用などが必要なお年頃になってきた。
▲足回りのリフレッシュも必要になってきた。と増渕さんそしてそれを運転する増渕さんもまた、微妙な年頃を迎えた。
「もちろんご高齢の方のように『運転がおぼつかない』ということはまったくないのですが、若い頃と比べると、いろいろな反応速度がコンマ数秒ぐらい遅くなっている自覚があります。そして、いわゆるヒヤリハットも増えてきました。だから、そろそろ『運転支援システムの手助けがある車』に乗り替えなければいけないのではないか……と思うんです」
助手席専門である妻・瑞枝さんに聞くと、「横に乗っていても特に不安は感じないし、若い頃の運転といったい何が違うのか、私にはわかりません。でも、本人だけは“何か”を感じているのでしょうね」とのこと。まあそうなのだろう。何か違いがあるとしても、「コンマ数秒」の話にすぎないはずだ。だがそのコンマ数秒を、増渕さんは許せなかったのだ。許すべきではないと考えたのだ。
そうして夫妻は、というか増渕 昇さんは、26年にわたって愛し続けたメルセデス・ベンツ E280ステーションワゴンから降りることを決めた。購入から約1年後の1999年に受けた当時のカーセンサーの取材とほぼ同様の取材を、2024年の今、再び受けることを記念碑代わりに。

▲増渕さんが大切に保管していた、26年前のカーセンサー取材記事次に買う車はまだ決めていない。だが増渕さんは、「先進安全装備が充実していて、なおかつカスタマイズする楽しみもある三菱 デリカミニを選ぶんじゃないかなぁ」と、静かに微笑んだ。
……みたいな形で話が終われば美しいのだが、現実の人生とは、そう簡単にキレイにまとまるものでもない。
増渕さんは、実はまだ迷っている。「8割方、いや9割方は、新しい安全装備付きの車種に買い替えると決めてますよ! もちろんです! でもまぁ何というかその……」というのが、取材時点における増渕 昇さんの心情のリアルだ。
「夢をね、見たんですよ。夢の中で僕はS124を売却しました。そして目が覚めたのですが、起きた瞬間は夢と現実の区別がつかない状態になっていて、『……なんで俺は売ってしまったんだ!』と激しく後悔し、慟哭しました。で、のろのろオロオロと駐車場に行ってみたら車はまだあったので、『あ、夢だったか』というオチで終わったのですが(笑)」
今後、増渕さんがどのような最終判断を下すのかはまったくわからない。だがどういう結論になったとしても、「26年間の記憶」という名の価値が減ずることはない。
それだけは、絶対に間違いない。


増渕さんのマイカーレビュー
メルセデス・ベンツ Eクラスワゴン(S124)
●マイカーの好きなところ/ベンツらしいフロントマスクのデザイン
●マイカーの愛すべきダメなところ/下道で6~7km/L、高速で9㎞/Lと燃費が良くないところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/車にお金をかけることに理解がある方

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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